第20話 進軍開始

 サマゲート王国軍は、総勢25万人で、五つの師団と親衛隊で構成されている。

 各師団は5つの連隊、1連隊は10の大隊、1大隊は10の中隊、1中隊は10の小隊で構成されている。

 1師団は5万人、1連隊は1万人、1大隊は千人、1中隊は百人、1小隊は十人で構成されている。

 親衛隊は2千人で、2つの大隊で構成されている。


 勇者のパーティーが出発した後、3つの師団と親衛隊が進軍を開始した。

 第一師団、第三師団、第五師団が順に出発し、その後親衛隊が出発した。


 旧式魔力増幅装置30基は、各師団に10基ずつ配備。

 新式魔力増幅装置10基は、親衛隊に配備。

 当然いずれにも腕のいい魔法技工士を割り振っている。


 第二師団、第四師団は現在南部に配置されているため、都は無防備な状態だ。

 しかしそれに危惧を覚えるアウルス王ではない。

 それほどヨハイネとマーカスを信頼し切っているとも言える。


「勇者と魔王の戦いで勝った方を討伐し、魔王城でアウルス王が魔王と通じていた証拠を発見。そのまま都に帰り、王を討伐。ヨハイネ様によるクラーシュ王朝の開始となる。これでよろしいですな、ヨハイネ宰相閣下」


「ああ、それでよい。それでよい、のだが……。そううまくいくものだろうか。あまりに急いてはおらんだろうか」


 マーカスはヨハイネの馬に自らの馬を近づけ、耳元へささやいた。


「昨夜私にしたように、王国をかわいがればよいのです」


「おお、そうだな!! かわいがってやるか!!」


「ええ、その意気です。ヨハイネ様」


 マーカスはつぶやくと、物思いに沈んでいった。


 ヨハイネ様。

 陸軍中等学校で初めてその姿を見た時から、ずっとあなたを愛し続けております。

 しかしあなたはルカのことをずっと気にしていらっしゃった……

 私が先代の王に讒言してルカを葬ったときも、あなたは嘆き悲しんでいらっしゃった。

 そんなあなたを見て、私はやっと訪れた心の充足を楽しんでいました。

 これであなたのすべては私のもの。

 でも昨夜、あなたはまだルカに魂を縛られていることを知ってしまったのです。

 あなたが果てる瞬間、「ああザバネス」とささやくのを私は確かに聞いたのです。

 ザバネスはルカに生き写し。

 あなたはまだルカを求めているのですね。

 これほど私があなたに尽くしているのに……

 すべてを捧げ尽くしているのに……

 あなたが王になれば、后も娶らなければとおっしゃっていましたね。

 名前だけとはいえ、それはあなたの伴侶となるのです。

 ああ、あなたを手に入れたい。

 王になってもまだ私を公に認めようとは考えていないのですね。

 ああ、ああ、ああ。

 この戦いが終わったら、すべては終わってしまうのでは。

 そんな気がしてなりません。


◇◆


 ルルのもとには、村魔※198Hj◇◆#からの魔チャットにより、勇者のパーティーの動きが逐一報告されていた。

 村魔※198Hj◇◆#自体は引きこもりではあるが、その仲間は種族を超えてほぼ全世界に存在し、事件・事故的な事象で彼に調べられないことはないといっても過言ではなかった。


「村魔※198Hj◇◆#から魔チャットが来た。勇者のパーティーが都を出発した」


 部屋には、俺のほかに、ネネ、ショカミ、ショスケ、マハがいる。

 魔法庁のトップが勢ぞろいしていることになる。


「えええ、マジすか?」


「村魔※198Hj◇◆#って、奥の部屋にいるんだよね? 何で魔チャット?」


「いや、会いたくはないからって」


「マジすか? 相変わらずすげえなあ」


「で、こっちはこっちでもうあらかたの準備はできてるから、あとはどう迎え撃つかだけなんだけど」


「それなんですが」


「ショカミさん、何か気になることでも?」


「ええ。私が勇者パーティーの魔法使いを抑えることになっておりますが、ちょっと厳しいかと」


「え?ショカミさんが厳しい?そんなことってありえるんすか?」


 マハが素っ頓狂な声を上げた。


「昨夜、光が炸裂した後、昼のように都が輝いたのを見ましたか?」


「ええ、もちろん。村魔※198Hj◇◆#からは、城壁が消えたという情報も入っています」


「あの技、私でもできません」


「えええええ、ショカミさんでもできないの? それってさ、史上最高の魔導士の上ってこと? そんなことってある? だって相手は人間だよ!? あの魔力なんかほとんどのやつが持ってない、あの人間だよ」


「ネネちゃん、勇者とはそういうもんなんだよ。昔いた勇者の魔力の感触、ぼんやりとだけど覚えてる。あれは魔力なんて生易しいもんじゃない。マグマっていうか、太陽っていうか、触れた瞬間蒸発する類の、生き物では到底扱えない種類のものなんだよ」


 ショカミの発言に俺たちは言葉を失った。

 一度失われた魔法を再発見し、再体系化した魔導士始まって以来の天才が、このように言うのだから。


「ルルさん、貴族の競馬の話をご存知ですか?」


「いいえ」


「ある貴族が、馬を3頭ずつ持ち寄って、勝負をしました。2勝したほうが勝ちです。各馬の能力を上中下としたとき、どのように当てていけば勝てますか?」


「それは上には上、中には中、下には下じゃないの? 力が一緒くらいでなきゃ勝負になんないし」


「ネネ、それじゃ勝負が一か八かの賭けになっちゃう。上には下を当て、中には上、下には中を当てる。これで2勝1敗だ」


「そうです。ひとつ完全な負け試合をつくることで、あとは順当に勝っていき、総合的に勝つのです」


「なるほど、勇者パーティーの魔法使いが上」


「ええ。私は僧侶の相手をしましょう」


「とすると、僧侶が中」


「ええ。私とショスケで相手をすれば、ほぼ勝てます」


「とすると、剣士の相手は私とマハですね」


「ちょっとー、私は仲間外れ?」


「いや、ネネにはドラゴンの指揮をお願いするよ」


「ん? ひょっとして私が魔法使いの相手すんの?」


「そうなるね」


「てか、私が下ってこと?」


「ははっ。下っていうか、どうせ誰も勝てないから時間稼ぎっていうか」


「何か感じ悪くない?」


「あ、ごめん。でもこれって一番大事な役なんだよ。魔法使いに勝てないまでも、できるだけ粘るって役頼めるのって、ネネしかいなくてさ」


「まあ、ショカミがあれだけいう魔法使いの相手させられるってことは、力認めてくれてんだなってのは分かるけど」


「そう。結局俺たちが同時に相手しなきゃ勝てない相手だから、魔法使いは。俺たちがそれぞれの相手を倒すまで、できるだけ粘ってもらうのが作戦かな」


「分かった。とにかく頑張ってみる」


 勇者のパーティーが到着するまでおそらく後2日。

 俺たちは粛々と準備を進めた。

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