第21話 剣士ハル

 ドクンッ


 戦いの前。


 特に何も考えるわけでもないが、ただ心臓の鼓動だけが高まってくる。


「村魔※198Hj◇◆#によると、後ろには王国軍が数万の規模で控えているらしいですよ」


 俺の言葉に、ブレナ・インダーが反応する。


「そっか。それで空気がざわついてたんだ」


「結構勇者たちの近くにいるんですかね。で、どうでした? 昨夜の勇者たちの様子」


 ブレナはしばらく考えると、口を開いた。


「うーん。あれほど力を持った人間の夢に入ったのは初めてだから、正直なところ分かりません。ただ、あの女の子には手応え感じたかな」


「やはり、そうですか。帰って早々すいませんが、ネネのところに行ってあげてくれませんか」


「ネネちゃんがあの子のお相手するんですね。分かりました」


 ブレナはいつも通り音もなくその場を去った。


 これで準備はすべて終わった。

 後は待つのみ。

 おそらくもう間もなく。


「来た! 4人いる」


 見張りの鷲烏が辺り一面に響き渡る声で警告した。


「じゃ、行きますか」


「マジ震え止まんないっす」


 俺はマハの背中を平手で思いっきり叩いた。


「いってー! 何すんすか」


「俺も叩いてよ」


 バッシーーン


「いってーー! さあ行こう!!」


 俺たちが空間遷移魔法で勇者たちから数百歩の距離に移動すると同時に、閃光が炸裂した。


「あ、ドラゴン隊の……」


 マハのつぶやきが終わらないうちに、きらめきが目を貫いた。


 ザンッ


 俺たちは遷移し、それぞれ左右に散った。


「何だ? 初めて見る技だ。なかなかの使い手と見た。俺はハル。剣士だ。お前たちの名は?」


 名乗りを求めるタイプか。

 これは好都合だ。

 連携して戦われることを恐れていたが、これだとおそらく一人で戦うことにこだわるタイプだろう。


「俺は魔導士長・ルル。それに天才魔導士・マハだ」


「え? 天才っすか? マジそんなんじゃないっすよ。ははっ……。もしかしてずっとそう思ってたんすか?」


「ほう。魔導士長とその子分か。これは相手にとって不足なし。参る」


 ギュンッ


 速い。とにかく速い。


 動く、と思った瞬間にはもうこちらに到達しているのだ。


「くっ。速い」


 相手もそう思っているようだ。

 接近して物理攻撃をしかけてくる相手に対して、空間遷移は非常に相性のいい魔法だ。

 近づかれないように遷移し続けて相手の疲労を待てば、必ず勝てるのだから。


「あ、何か力んでますよ」


 ハルが刀を上段に構え、全身の力をみなぎらせている。


「はっ!!」


 ドンッ


 爆風が走る。


 遷移する。

 爆風が襲ってくる。

 遷移する。

 爆風が襲ってくる。

 遷移する。

 爆風が襲ってくる。


「疾風迅雷魔法!!」


 爆風に疾風をぶつけて無力化する。

 ふう、疲れた。


「マハ?」


「だいじょうぶっす」


 マハも同じく何とか逃れたようだった。

 が、明らかに疲れている。

 おいおい、これじゃ作戦と逆じゃないか。

 俺たちが疲れさせられるとは。

 しょうがない。

 魔法使いと戦う前に見せたくはなかったが。


「マハ。あいつの前に遷移して」


「ええええええ? 死ねっていうことっすか?」


「うん。これがだめならどうせ二人とも死ぬし」


「ええ……。分かりました……」


 マハが消えた。

 俺は構えた。


「閃光矢!!」


 マハが出た。

 ハルの目の前。

 驚いたハルの動きが一瞬止まる。

 

「遷移!!」


 閃光矢がハルの眉間すぐ前に出現する。


 ドゥンッ


 ハルの頭が砕け散った。


「うげえええええええええええ」


 ハルの脳髄を体中に浴びたマハが泣き叫んでいた。


「キモイ。コワイ。キコエナイ。キモイ。キモイ」


 かわいそうに。

 これはしばらく使い物にならないな。

 そう思うと、俺は空に浮き、ネネを探した。

 予想通りだと、もう終わっているはずだ。

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