第二章 旅
第11話 引きこもりの村
しかしこの村は変わっている。
村の魔物はじっとそれぞれの洞窟に籠り、まったく出てくることはない。
俺たちも割り当てられた洞窟の中で、もう3日も閉じこもったままだ。
「ねえ、いつまでこうやってなきゃいけないの?」
「知らねっすよ。俺もたいがい飽きてきたんすけど」
非難めいた声を向けられ、俺は答えた。
「さあねえ。受け入れの準備ができたら、この魔晶石に連絡するって言ってたから、待つしかないんじゃないかな」
「この村に着いてからまだ一匹も魔物見てないんすよ。で、魔晶石が飛んできて連絡するって文字が出て、ここに入ってろって。なんなんですかね?俺たちに会ったら病気にでもなるって思ってんですかね」
「まあそんなとこかもね」
外部から来訪者があったときにすぐに魔晶石が飛んでくる仕組みができているところから考えると、おそらく村の魔物が洞窟に籠るようになってからかなり長い年月が経っているはずだ。
とすると、ここの魔物は通常の村の魔物とはかなり異なる能力を持っているはず。
できればその中の秀でた魔物を魔法庁に招致したいと思い、俺たちは3日もここで待機している。
「この辺はもう魔王様の領土じゃないんすか?」
「ああ、そうだね。とはいえ、俺が魔導士長ってことでこれでもかなりの好待遇なんだと思うよ。よそ者ってだけで狩りの対象にされるところもあるみたいだし」
「へえー、そんなもんなんすかねえ」
マハは魔晶石をいじりながら、納得がいかない顔で答えた。
「うわー、たかーい」
ネネが洞窟の下に首を出し、大声を上げた。
確かに、すごい高さだ。
そして、崖一面に掘られた無数の穴。
あの穴ひとつひとつがこの洞窟のように住居になっているとすれば、この村はなかなかの数の魔物を抱えていることになる。
「あ、なんか来た」
魔晶石を見ていたマハが叫んだ。
”あなたがたの参加できる魔チャットの準備ができました”
「魔チャット?」
マハの声にネネが答える。
「あ、何回かやったことある。魔力で魔晶石に言葉送ると、つながってる魔晶石全部に反映されるやつでしょ。送った言葉残ってあとから見返せるし、なかなか便利だよね」
「えええ、結局俺たちに会わずに済ませようってこと?凄まじいな」
「とりあえずやってみよう」
魔晶石ごしでの会話が始まった。
(ルル)”急に訪問してすいません。魔法庁にいるだけでは西方のことが分からないので、いろいろと情報を集めるために旅をしております”
(村魔)”スパイ?”
(村魔)”マジ?スパイかよ”
(村魔)”ヤバい、こいつら。狩ろうぜ”
(ルル)”いや、スパイってわけじゃない。西方で何か不穏な空気を感じたから、手がかりでもつかめたらと思って”
(村魔)”魔法庁の陰謀に決まってますね”
(村魔)”大体魔法庁上げのチュヤナ下げで進んでますから、世の中”
(村魔)”あ、チュヤナってこの村の名前ね。ちょっと、新参に優しくしようぜ”
(村魔)”あ、そういやこの間、西の方で爆発したみたいな光見た”
(村魔)”確かに。ほんの少しだけど音も聞こえたような”
(村魔)”はい、嘘松。聞こえるわけないし。俺らの耳マジ聞こえん”
(ルル)”爆発ですか?詳しく教えてください”
(村魔)”詳しくって、光見ただけだよ。一瞬ピカッと”
(村魔)”一瞬じゃねーし。数秒は続いた”
(村魔)”確かに”
(ルル)”どの辺ですか?”
(村魔)”イメージ送るわ”
魔晶石に克明なイメージが表示された。
「スゲー。何これ。こんなのできんの?初めて見た」
「私も。魔晶石ってすごいね」
(ルル)”ありがとうございます。今送っていただいたのはどなたですか?”
(村魔)”どなたって?”
(村魔)”特定しようとしてるぜ”
(村魔)”マジやべー”
(村魔)”特定してどうする?”
(村魔)”情報を開示する必要はないっす”
(村魔)”勝手に村に来て個人を特定しようとするとか”
(村魔)”悪いことしてなきゃ特定されても平気だろうが”
(村魔)”魔チャット正義魔が出ました”
「なかなかの荒れっぷりっすね」
「みんな性格悪すぎない?」
「いや、ほんとに性格悪けりゃ、3日も寝泊りさせてくれないよ。多分こういった方向に能力が進歩したんだろう」
(ルル)”特定っていうより、招致したいのです。魔法庁に”
「あれ?魔晶石止まっちゃいましたよ」
「ほんとだ。壊れちゃった?」
(村魔)”どういうこと?”
(ルル)”西方で何かが起きていることは、みなさんも感じているようですが、私もそう思っているのです。もし何かが起きた場合、今のままだと対処できない可能性があります。そうならないように、魔法庁に今までなかった新しい血を入れたいのです”
(村魔)”俺たちがここに閉じこもったのは、魔王の領土の連中にいじめられて追い出されたからだ。すっかり自信を無くした俺たちは、ここに閉じこもって生きることにした。そのおかげで、誰にも会わずに生活できるように進歩した”
(村魔)”それを助けろって?おかしくない?”
(ルル)”だから今こそ、あなたがたの力を見せて、魔王の領土の連中に認めさせるんですよ。連中は力のある魔物を素直に認めます。私が魔導士長になっているのがその証拠。ですので、ぜひ力をお貸しください”
(村魔)”俺だよ”
(ルル)”おお、あなたでしたか。名乗り出てくれてありがとう。何とお呼びすれば?”
(村魔)”ちょっと待って。今区分標付けるから”
(村魔※198Hj◇◆#)”これが俺”
(ルル)”※198Hj◇◆#さん、では魔法庁に来ていただけますか?すぐにというわけではないですが。私たちが西方を探って、結果が出次第戻ってきます。その際、一緒に魔法庁に来てくだされば”
(村魔※198Hj◇◆#)”OK”
「そうなんだ、仲間集めするためでもあったんだ」
「さすがっすね。でもあんなの仲間にしたって何の役にも立たないと思いますよ」
「ま、そんときはそんときさ」
引きこもりの村。
なかなかいい掘り出し物を見つけることができた。
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