第7話 お前とは因縁だらけだな
「じゃあネネ、10人くらい見つくろってくれる?」
「うん、いいけどさ、10人ぽっちでだいじょうぶなの?」
「そうだな、じゃあショスケさんでも入れる?」
「でも、万一ショスケさんが怒ったりして力解放したりしたら……」
「俺も行くからさ。まあだいじょうぶでしょ」
「あ、お兄ちゃんも行くんだ。へー」
ネネは意外な顔をした。
確かに、魔導士長が直々に出陣する戦闘など、数千年前の勇者隊との戦争でしかなかったからだ。
それにしたって、実際にあったかどうかも分からない、神話の類のものなのだ。
「じゃあ、私のお気に入り連れてくよ。当然バランスも考えてね」
よかった。ネネも喜んでいる。
俺にもネネの気持ちはよく分かった。
やはり仕事は成果が見えなければ、ということだろう。
魔材をセレクションしているが、果たしてそれが役に立っているのかどうか、実践してみなければ分からない。
ようやく巡ってきた好機。
俺にとってもそうだし、ネネにとってもそうなのだ。
「でも、よく魔王府から知らせてくれたね」
「まあ、今回は魔王様直轄の生産拠点が襲われたってのもあるし、元々襲撃受けたら教えてくれって依頼してたからね」
俺はまだ魔王に会ったことはない。
魔導士長という高位に就いたのにそれでよいのかとショカミに聞いたところ、彼ですら魔王に会ったのは数千年前の魔界創立時の一度だけとのことだった。
そんなことで組織として維持できるのか疑問だが、実際どんな人間の国家よりも長く体制を維持しているのが魔界なのだ。
組織的には断然優れているのだろうし、その組織のやり方にケチをつけることなどできないだろう。
「じゃあ、早速行こう」
ドラゴンで行くと三日行程の道のりが、一瞬だった。
「どう?マハのこの空間遷移の能力。見つけたの私なんだよ」
ネネが得意気に胸を張る。
「ネネさん、俺がすごいんですよ?俺の能力なんすから」
マハが抗議の声を上げた。
「二人ともすごいよ。で、前見てみて」
うながされ前方に意識を向けたみなが、言葉を失った。
炎の雨が村に降り注いでいる。
この距離からあれだけはっきりと炎が見えるということは、実際の炎の大きさは人ぐらいはあるのだろう。
それが無数の雨粒となり村を襲っている。
村は全滅だろう。
「村はまだ生きている。防御魔法でかなり軽減しているんだ」
俺の言葉に、ショスケがうなずく。
「あの辺りに魔場の揺らぎが見えますな」
「ええ。多分、人間たちは魔力増幅装置を使っています。魔場の揺らぎが多発しているのはそのせいでしょう。あそこに少し手を加えれば、魔力は逆流するでしょう」
ショスケが驚きの目で俺を見つめた。
「魔場が見えるのですか?」
俺も言われて気づいた。
確かに、魔場が見えている。
というより、感じられている。
人間のときには理論的に理解はしていたが、まったく感じることはできなかった。
魔力を感じる感覚器官がなかったためだ。
しかし、他の魔物の様子を見るに、魔場を見ることができるのは珍しいようだ。
「さすがはルル様、日増しに魔力が増大しているのは感じておりましたが、魔場が見えるまでになられたとは。父以外で魔場が見える方は初めてです」
そこまで卓越していたのか、ショスケは。
俺はショスケに同情を覚えた。
孤独だったんだな。
父以外誰も彼を真に理解してくれるものはいなかったのだろう。
「では、ちょっとやりますかな」
俺はショスケの手を抑えた。
「いや、魔材活用部に任せましょう。ネネ、やっちゃって」
ネネは大きく息を吸い、そして叫んだ。
「嵐風・旋風魔法、放て!!」
凄まじい風が村から国王軍に吹き寄せる。
炎の雨が暴風に飛ばされ、逆に国王軍に降り注いだ。
「見ろ、撤退し出したぞ」
マハがこちらを見た。
追撃するか問うているのだ。
「いや、もう少し待って撤退終わったら移動しよう」
撤退が終わった後には、焼け焦げた装置が多数放置されていた。
やはり、魔力増幅装置だ。
構造は、俺が設計したままのようだ。
ということは、欠点もそのままということだ。
あれだけ大きな欠点をそのまま残して使うなんて、一体連中はやる気があるのか。
「ご存知なんですね?」
「ええ、ちょっと前に見たことはあります」
この装置を使うということは、俺の資料を調べたということだ。
そんなことを考えるのは、おそらくマーカスぐらいだろう。
しかしマーカスも優秀な男のはず。
あの装置の欠点に気づかず、そのまま使うだろうか。
ひょっとして、それほど優秀じゃなかったのだろうか。
「この装置、魔場の揺らぎを抑えられないので、少し魔力の強い使い手が利用すると、たちまち逆流しますな」
「そうなんです。そして、敵に揺らぎをつかれても、逆流するんです。とにかく危なくて実戦に出せる代物じゃないはず」
「少し見ただけでそこまで弱点を見破るとは。さすがです」
おっと。喋り過ぎた。
「ネネ、大成功だったね。ネネ……」
ネネは静かに涙を流していた。
目の前に、焼けた親衛隊旗が土にまみれて落ちていた。
「ネネ。これは……」
「そう。この旗。お父さんとお母さんを殺した旗」
マーカス。
お前とは因縁だらけだな。
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