第27話 全部誤解だから!
パティを連れ出した私は、叫び出したい衝動を抑えながら、まず一番大事なことを聞いてみた。
「いったいどうして、私とオウマ君がつきあってるなんてことになったの?」
「えっと、まず昨日の放課後、シアンがエイダさん達に連れていかれたでしょ。あの時はごめんね。私、なにもできなくて」
「気にしないでよ。パティまで巻き込まれてたら、余計に嫌だったもん。って、そうじゃなくて!」
昨日の一件に関しては、そもそもパティがついてこようとしたのを私が断ったんだし、彼女を巻き込むことがなくて、むしろホッとしている。だけど今は、それよりも早くオウマ君との話を聞きたかった。
「シアンが連れていかれたのはみんな見てたから、いったい何があったんだろうってちょっとした騒ぎになってたの。そしたら、その後オウマ君がやって来て、話を聞たら血相変えて飛び出して行ったの」
そこまでは、昨日オウマ君から聞いた話とだいたい同じ。そうなると、大事なのはその先だろう。
「オウマ君があんなに慌てたとこなんてみんな初めて見たから、これは何かあるんじゃないかって思って何人かの女子が行方を探したの。それで、その中の一人が見たんだって」
「な、何を?」
「オウマ君がエイダさん達に向かって、『俺の彼女に手を出すな。シアンは俺が守る!』って言って、お姫様抱っこでその場から去っていくのを」
「ちょっと待ったーっ!」
なにそれ、そんなの全然記憶にないんだけど。その子が見たのって、幻かなんかじゃないの?
「それ、全部嘘だから。そりゃオウマ君は私のことを助けてくれてたけど、セリフはだいぶ違うし、お姫様抱っこもしていない。手を引っ張って連れ出してくれただけだから」
慌てて本当のことを伝えるけど、それを聞いたパティは、なぜかますます目を光らせた。
「じゃあ、助けてくれたのは本当なんだね。しかも、手を引いてくれたんだ」
「そこに反応しない! 話と全然違うでしょ!」
全くの事実無根。そう声を大にして訴えるけど、それでもパティはわかってくれない。
「そりゃ私達だって、少しは話盛られてるんじゃないかって思ったよ。だけどオウマ君が、それだけ一人の女の子を特別に扱ったことなんてなかったし、しかもその後をつけたら、二人で一緒にシアンの家に行ったって言うじゃない」
「そんなとこまで見てたの!? って言うか、あの時後をつけられてたの? どんなパパラッチよ!」
そこまでくると、もう正式に苦情を言っていいような気がする。
「その反応、やっぱり家に行ったってのは本当のなんだよね?」
「ま、まあそうだけど」
「既に家にお呼ばれするような仲……」
「違うから!」
オウマ君が私の家に来たってのは本当だけど、これってお呼ばれなんて言うのとは全然違う気がする。その場にはホレスだっていたし、やったことって言えば、私の生気を吸ったのと空を飛んだくらいだ。
とはいえ、それをここで言うわけにもいかないし……
困っていると、パティは私の肩にポンと優しく手を置いて、それからゆっくり諭すように言う。
「シアン、もう正直に言ってよ。わざわざ助けてくれたり、家にまで行ったりしてるんだから、二人の間に何かあるって事くらいさすがに分かるって」
分かってない。だけどこうして全てを悟ったように話す彼女に、もはや何を言っても納得してくれるとは思えなかった。
「って言うか、パティはそれでいいの? パティだって、オウマ君のこと好きなんでしよ」
彼女もまた、他の女子達と同じように、オウマ君の力によって魅了された一人だ。私の前でも、何度もオウマ君が好きだと公言している。誤解とはいえ、私とつきあってるなんてなったらショックなんじゃないの?
だけどパティは、それを聞いて一瞬言葉を止めたけど、それからすぐに笑顔を見せた。
「もしかして、私のことを気にして今まで黙ってたの? だとしたら、気を使わせてごめんね。でも、前にも言ったでしょ。私にとってオウマ君は、つきあいたいとかじゃなくて観賞用だって。そりゃ、ちょっとは寂しい気持ちはあるよ。でも私は、シアンのいいところ、たくさん知ってるから。だから、ちゃんとおめでとうって言えるよ」
「パティ……」
そうは言っても、好きって想いが無くなるわけじゃない。切なさや悲しみだって、少なからずあるに決まってる。なのにパティは少しもそんなそぶりは見せずに、笑顔で私を祝福してくれた。彼女のその健気さに思わずホロリと……いやいやいや、そうじゃないから!
「だから、全部誤解なの。私とオウマ君は何もないんだってば」
「私にはもう隠さなくてもいいって。シアンに何かあったって聞いたら、血相変えて助けに行くし、家にお呼ばれしてるし、今日だって一緒に登校してきたじゃない。それに噂じゃ、毎日二人でお昼食べてるっても聞いたよ。それだけやって何もないってことないでしょ」
「ちょっと待って。お昼のことまで知ってるの?」
エイダさん達にもバレていたし、いつの間にかけっこうな人に見られていたのかもしれない。
それにしても、彼女が言った根拠を一つ一つ考えてみると、確かに事情を知らなければ誤解するのも無理はないかもと思ってしまう。
「ダメだこりゃ」
大きくため息をつき、ひとまず説得を諦める。根も葉もない噂って、こうやって広まるんだな。
こうなったら、やっぱりオウマ君も一緒になって否定してもらおうか。そう思いながら、話を切り上げ教室に向かう。
すると中ではオウマ君が、みんなに囲まれながら、困ったように肩をすくめていた。
そして、入ってきた私に目を向けると、即刻近寄ってきて、申し訳なさそうに言う。
「ごめん。誤解だって、言うには言ったんだけど……」
なんとも歯切れの悪いその言葉を象徴するように、教室には微妙な空気が流れていた。
何人もの人が、少し距離をおきながら私達を見て、あれこれ囁き合っている。
オウマ君が否定した以上、ひとまずその説明を受け入れるしかない。だけど、多分それぞれの心の内では、勝手な予想や憶測が飛び交っているんだろう。
その様子を見ながら、私とオウマ君は、もはやなるようにしかならないだろうと悟るしかなかった。
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