第11話 無条件にモテるということ
休日明けの学校はというのは憂鬱なことも多いけど、今日の私は特にそうだった。
その最大の理由が、眠気だ。
「どうしたの。なんだかすごく眠そうだけど」
私の不調は傍目にも明らかなようで、席についたところでいきなりパティから指摘される。
「昨日夜遅くまで調べものしててね。寝るのが遅くなっちゃった」
「調べもの? それって、試験か何かに必要なの?」
「試験じゃなくて、仕事かな」
「仕事って、もしかしてバイト先見つかったの? やったじゃない。で、何をするの」
「うーん。バイトとはちょっと違うんだけどね」
仕事の内容については言葉を濁す。私がバイトを探していたことを知ってるパティは、我が事のように喜んでくれているけど、まさか仕事の内容があんなのだとは想像もしていないだろう。
(悪魔祓いなんて言ったら、絶対変な顔されるよ)
昨日やった調べもの。そして仕事と言うのは、もちろんオウマ君に依頼された悪魔祓いのこと。正確には、オウマ君の中にあるインキュバスの力を抑える方法を探すというものだ。
悪魔祓いへの依頼と言っても、この件はなにも、悪魔をやっつけろって話じゃない。むしろその悪魔と協力して、力を制御する方法を見つけようってのが本題だ。とはいえ、それはそれでどうすればいいのか見当もつかない。
というわけで、昨日正式に依頼を引き受けた後、まず私が取りかかったのは、悪魔やその力に関して正しい知識を得ることだった。
いくらご先祖様を蔑ろにしまくっていた我が家でも、当時の資料や文献は未だに残っている。それを読めば、何かヒントが見つかるかもしれない。そう思った。
だけど、何しろ数十年単位で誰ろくに手入れもされていなかった書物達。物置の中に入って探してみたのはいいものの、どこにどんな資料かまあるかすらも録に分からない。手当たり次第読んではみたものの、そんなんでどうにかなるとはとても思えなかった。
「このままじゃ埒があかないし、やっぱり、アイツを頼ろうかな」
頭の中に、とある人物の顔が浮かぶ。もしも彼に協力してもらえれば、事態解決へ前進できるかもしれない。そんな心当たりが、実はたった一人だけいた。
ただ別の人間を巻き込むとなると、オウマ君本人にも話をしてからの方がいいだろう。
そう思っていると、教室の外がにわかに騒がしくなってきた。
聞こえてくるのは、主に女の子の声。それだけで、オウマ君が登校してきたんだというのが分かる。
思った通り、いつものように女の子に囲まれながらオウマ君の登場だ。
早速、さっき考えていたことを相談しようかと思ったけど、周りにいる女の子達がバリケードになっていて、とても近づけそうにない。女三人よれば姦しいと言うけど、それをはるかに上回る人数が集まり、パワーもより一層跳ね上がっていた。
相変わらずのモテモテっぷり。だけどオウマ君が言うには、この状況も全部、インキュバスの持つ魅了の力のせいなんだよね。
「ねえパティ。オウマ君ってカッコいい?」
他の多数の女子と同じく、オウマ君の姿を眺めているパティに向かって聞いてみる。
「そりゃ、もちろんカッコいいよ。なに言ってるの?」
「カッコいいって一口に言っても、色んなタイプの人がいるでしょ。なのにオウマの場合、全方位にモテてるなって思って。パティは、元からああいうタイプが好きなの?」
「そりゃ誰でも好きなタイプってのはいるけど、オウマ君くらいになると、そういうの関係なくいいって思うじゃない」
不思議そうな顔をするパティ。まるで、どうしてそんな当たり前の事を聞くのかとでも思っているようだ。きっと自分の抱いている感情に、何の疑問も持ってないのだろう。これもまた、インキュバスの持つ力のせいと言うわけか。
人の気持ちを無理やりねじ曲げる。昨日オウマ君は、この力の事をそんな風に言っていた。そして、それは酷いことだとも。
こうして夢中になってるパティを見ながらそれを思い出すと、彼の悩む気持ちが、前より少しだけ分かるような気がした。
今のオウマ君は、話しかけてくる女の子達に対して、普通に受け答えしているように見える。だけど本当はどんな気持ちでいるのだろう。そう思って見つめていると、ちょうど彼もこっちに目を向け、お互いの視線が交わる。
その時、瞬きすれば見逃しそうなくらいのほんの短い時間、僅かにばつの悪そうな表情を見せたのが分かった。
きっと、全ての事情を知ってる私にこの光景を見られて、居心地の悪さを感じているんだろう。
昨日、彼がインキュバスの力をなんとかしたいと、必死になって頼み込んできた姿を思い出す。
(好きでこうしてるってわけじゃないんでしょ。ちゃんとわかってるから)
一応、そんな気持ちを込めて目配せをしたけど、それが伝わったかどうかはわからない。
なんとも言えない気持ちで様子を眺めていたけど、急に、その状況が一変する。
そのきっかけとなったのは、オウマ君を囲う女の子達の中に、新たに一人加わったことだった。いや、加わったと言うより、割って入ったと言った方が近いかもしれない。
「あなた達、そこを退いてくださらない」
そう言ったのは、明るい髪を丁寧に巻いた美人だった。
彼女は、それまで他の子が話をしていたにも関わらず、お構い無しにそれを押し退け、オウマ君の前に立つ。さらには彼女の後ろから二人の女の子がやって来て、まるでガードするかのように、押し退けた子達の前に立ち塞がる。
普通、そんなことをすれば反感を買いそうなものだけど、誰もそれを咎めることなく、むしろ彼女らのスペースを確保するように距離をおく。
みんな、文句なんて言えないのだ。
最初にやって来た彼女の名前は、エイダ=フェリス。あとの二人は、とりあえず今は、その取り巻きと思っておけばいい。
多分、オウマ君とは違った意味で、エイダさんのことを知らない生徒は、この学校にはいないだろう。
彼女の家は歴史ある侯爵家。多くの貴族の子息息女が集まるこの学校でも、そこまで高い地位の人は珍しい。そしてその立場は学校内においても揺らぐことなく、生徒間におけるヒエラルキーの頂点として、女王の如き威厳をもって君臨していた。
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