第26話 思わぬ噂
オウマ君に生気を与え、意図せず魔法が発動した翌日、学校に向かう途中、そのオウマ君を見つけた。普段彼が登校してくる時間はもう少し遅くて、こうして登校中にバッタリ会うのなんて初めてだ。
「おはよう。いつもと登校時間ちがわない?」
「ああ。昨日の今日だから、少し心配になって。生気を吸われたせいで、体調が悪いっけことはないか?」
「平気だよ。もうバッチリ回復してるって」
昨日寝るくらいまでは、ダルさと疲労感が残っていたけど、今朝起きたらすっかり元の調子に戻っていた。
だけどオウマ君がやって来たのは、それだけが理由じゃなかった。
「それに、その……昨日、エイダ達とあんなことがあっただろ」
「ああ……」
生気を吸いとられたり魔法が暴走したりしたことで頭がいっぱいになっていたけど、私がエイダさん達に呼び出されたのだって、つい昨日の出来事だ。
あの時はオウマ君が間に入ってくれたおかげでなんとか退散することができたけど、もしまた同じような事があったらと考えると、やっぱり少し不安になる。
それだけに、彼がこうして気遣ってくれるのは嬉しかった。
「ありがとうね」
「言っただろ。何かあったら守るって」
自分で言って恥ずかしくなったのか、顔を赤くするオウマ君だけど、ファンの子が聞いたら昇天してしまいそうな言葉だ。私だって一瞬ドキッとしたよ。
「気持ちは嬉しいけどさ、そのセリフ、相手によっては勘違いされるからね」
こんなセリフがサラッと出てくるあたり、彼の性格も多少はインキュバスと言う天然タラシ属性が入っているのかも。
「でもそれなら、私達が一緒にいたら、余計に嫉妬されて危ないんじゃないかな?」
「うっ、確かに」
考えすぎかもしれないけど、昨日の一件を思うと、その辺りも用心しておいた方がよさそう。守ると言っておきながら、その結果嫉妬を集めるなんてことになったら本末転倒だ。
「念のため、学校には別々に行った方がいいかも」
わざわざやって来たのが無駄足になりそうで、渋い顔をするオウマくん。だけどそれを見て、さすがにこのまま断るのは罪悪感があった。
「うーん。まあ、一緒に登校するくらいはいいか」
「でも、大丈夫なのか? もしもまた昨日みたいなことがあったら……」
「エイダさん達にはどのみち目をつけられてるし、他の子は私達を見ても、特別仲がいいなんて思わないでしょ。変に勘ぐられたら、たまたま会ったって言えばいいんだよ」
本当は、全く不安がないと言えば嘘になる。けどそれよりも、せっかくこうしてオウマ君が来てくれたんだから、みすみすそれを追い返すようなまねはしたくなかった。
「というわけで、そろそろ行こうか」
「そうだな」
こうして私達は、揃って学校へと向かうけど、そこで待っていたのは想像を遥かに上回る事態だった。
ハッキリ異変を感じたのは、教室に一歩入ったその瞬間だった。中にいる大勢の人の目が、一斉に私達へと釘付けになる。いや、本当はもっと前から、微かな視線のようなものは感じていた。だけどそれは、いつものようにオウマ君に集まっているものだろうと思っ、て気にしないことにしていた。
だけど今感じている視線は、明らかにオウマ君一人でなく、なぜか私にまで注がれていた。耳をすませば、「あの人がアルスターさん?」なんて、完全に私のことを話す声も聞こえてくる。いったいなぜ!?
オウマ君も、この異常はすぐに気づいたようで、お互い困惑しながら顔を見合せるけど、私達が言葉を交わすより早く、声をかけてくる人物がいた。パティだ。
「シアン、聞いたよ!」
「な、なにを?」
私は何も聞いてないんだけど。
訳がわからず混乱するけど、次にパティは、私と、それに隣にいるオウマ君を交互に見ながら言った。
「オウマ君と仲いいの? っていうか、二人がつきあってるんじゃないかって噂になってるけど、本当なの?」
「はあっ!?」
つきあってる?
どこかに行くの、なんて定番のボケをやっている場合じゃない。パティの言ってるのは、もちろん男女が仲良くなった結果としての『つきあう』だよね。
いったいなぜ!?
隣を見ると、オウマ君も目を丸くしたまま言葉を失っていた。
「違う違う違う! 私とオウマ君がつきあうなんて、そんなの絶対絶対ぜーったい、あり得ないから! ねえ、そうでしょ」
「あ、ああ……そうだな」
よほどショックが強かったんだろう。明らかにオウマ君の顔色が悪くなっている。いったいどうしてそんなことになっているのか、慌てて問い質そうとしだけれど、その前に一度教室を見渡す。
誰もが興味津々といった様子で盗み聞きを、いや、もはや隠す様子も無いくらい、ハッキリこっちに注目していた。
「とりあえず場所変えよう。言わなきゃいけないこと、たくさんあるから」
パティの腕を掴み教室から連れだすと、オウマ君もそれに続こうとする。
「俺も一緒に行っていいか?」
当然、オウマ君としても気になるよね。だけど、それはまずい。
「オウマ君まで一緒にいたら、落ち着いて話もできないでしょ。後で全部話すから、オウマ君はみんなの誤解といてて。多分、私が言うよりみんなも話を聞いてくれるでしょ」
もっとも、それにしたってどこまで効果があるか分からないけどね。とにかく、オウマ君を教室に残して、パティと一緒に人気のない近くの廊下の隅へと移動していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます