※第3幕 『ラプンツェル』の魔女の場合 7 (大人向け表現有ります)
夜半―
「ふ~ん・・・。恐らくあの薬師が塔の上の姫君の母親の可能性があるな・・。」
この村一番の豪華な宿屋のベッドの上で寝転がっているのはラプンツェルの純潔を無理やり奪った王子であった。この王子の住む国は他の国でも珍しい事に、魔法使いが住む国でもあった。最も魔法使いと言っても彼等は魔法を使う事は出来ない。魔力を帯びた宝石を鑑定する能力が備わっており、その魔石を使って生活に便利なアイテムを開発する役目を担っている、いわゆる技術者的な存在である。
王子は耳に付けていた赤い宝石が埋め込まれたイヤリングを外すと、ベッド脇の箪笥に置いた。
イヤリングの片割れはラプンツェルの住む塔の部屋のベッドの下に隠してある。そして塔の上で話された会話は全てこのイヤリングを介して王子の耳に届けられていた。
「ラプンツェル・・。それにしても最高の女性だった・・。」
王子は目を閉じると、ラプンツェルと身体を重ねた時の事を思い出す。
しっとりとして甘く柔らかな唇・・・触れると吸い付くような白い肌・・お椀のような丸みを帯びた形の良い胸・・。細くくびれた腰・・・。そのどれもが未だに王子の脳裏にこびりついて離れない。
どうしてもまた抱きたい・・・。ラプンツェルが気を失うまで身体を重ねたくてたまらない・・・。ラプンツェルの事を思うだけで、激しい情欲に襲われる。
「明日・・・治療が終わったら真っ先に貴女に会いに行くよ。確かイラクサの種を植えたといっていたけれどもそんなのは焼き切ればいいだけの事・・。そしてまた2人きりの甘美な時間を・・・。」
そして王子は笑みを浮かべたが、身体の昂ぶりを持て余して来た。そこで王子は呼び鈴を鳴らすと、ドアの外から返事があった。
「はい、何か御用でしょうか?」
「中へ入れ。」
兵士は室内へ入ると膝を折って深々と頭をさげると言った。
「どうぞ御用向きを仰って下さい。」
「娼館へ行き、若く美しい娘をこの部屋へ連れて来てくれ。」
王子は兵士に言いつけた。
ラプンツェルの事を考え続けていたあまり、どうしようもなく王子は欲情してしまっていた。これを静めるにはもう女を抱くしかないと考えたのだ。
「はい・・?」
一瞬何を言われたのか理解出来なかった兵士は首を傾げた。
「何だ?聞こえなかったのか?もう一度言おうか?」
「い、いえ!大丈夫ですっ!聞こえております。すぐに探して連れて参りますっ!」
そして兵士は頭を下げると慌てて部屋を飛び出して行った。
「まあ・・・ラプンツェルのような女性が娼館にいるとは思えないが・・・贅沢は言えまい・・。」
そしてテーブルの上に置いてあるワインをグラスに注ぐと静かに飲み始めた—。
3杯目のワインを飲んでいる時、ドアをノックする音が聞こえて来た。
「何だ?」
外から声を掛けると、先程の兵士の声が聞こえて来た。
「女性をお連れしました・・・。」
「そうか、それでは女だけここに入れて、お前は部屋へ下がれ。」
「は、はい!」
そしてドアがカチャリと開けられると、そこにはブロンド巻き毛のまだ幼さの残る女性が立っていた。
「お前か?俺の今夜の相手は・・?」
王子はワイングラスを持ちながら気だるげに女を見つめた。
「はい、ここに大変高貴な方がおられると言われ、私が選ばれました。」
「ふ~ん・・・。」
王子は酔いもあって、トロンとした目つきで女を見ていたが、手招きをした。
女は呼ばれて王子の側へやって来た。
「お前にもこのワインを飲ませてやろう。」
王子はワインを口に含むと、いきなり女の腕を掴み、自分の方へ引き寄せると強く唇を重ねた。
「んっ!」
女は頬を赤らめつつ、口を開けると王子は女の口にワインを流し込み、そのままベッドに押し倒した—。
王子は荒い息を吐きながら女を抱きつつ、様子を観察した。女は王子の腕の中で甘い声をあげているが・・彼は思った。
やはりラプンツェルに敵う女はいないと―。
翌朝、ゴーテルはいつものように5時に起きると、昨日の内に仕込んでおいたアオカビの様子を見に納屋へ向かった。納屋の棚にズラリと並べられたジャガイモは良い具合にアオカビを生やしている。
「これだけあれば・・・当分薬草作りで材料が失われる事は無さそうね。」
そして麻袋にジャガイモを運べる量だけ入れると、担ぎ上げた。小屋に戻り、薬草作りをしていると昨日と同じ馬車がゴーテルの家に向ってやってくるのが見えた。
「え?まさかもうここへ来たと言うの?まだ太陽だって完全に登っていないのに?」
時間を指定しなかったのは確かにまずかったが、ゴーテル自身、これ程早くに尋ねて来るとは思いもしていなかったし、第一薬だって出来上がっていないのだ。
「仕方ないわね・・・取りあえず、今はお引き取り願うしかないわね。」
溜息をつき、ゴーテルは仮面を被ると、小屋の外へと出て馬車が到着するのを待っていた。やがて、馬車はゴーテルの目の前でとまり、扉が開くと昨日と同じ青年が馬車から降りて来た。
「早速だが・・・薬を出して貰いに来たよ。さあ、頼む。」
王子はゴーテルの正面に立つと言った。しかし、ゴーテルはこの王子の何処か高圧的な態度が気に入らなかった。だが、仮にも相手は王子である。なるべく感情を押し殺しながらゴーテルは言った。
「申し訳ございません。まだ薬は出来ておりません。」
「何だって?昨日ここを尋ねた時には明日には出来上がると言っていたではないか?」
眉間にしわを寄せながら王子は言う。
「はい、確かに言いはしましたが・・・外をご覧下さい。まだ薄暗く・・太陽も完全に地平線から覗いていませんよね?いくら何でも早過ぎるとは思いませんか?」
王子はゴーテルを見て何て生意気な薬師だと思った。
(昨夜聞いた声は恐らくこの薬師の声に違いない。ラプンツェルの母親の様だが‥恐らくは血の繋がりは無いだろう?何せこの薬師は400歳を超える女とも言われているからな・・・。)
最も王子はそんな話は単なる噂話に過ぎないと思っていた。第一普通の人間は400年も生きられるものではないし、マント姿に仮面を付けてはいるが、スラリと伸びた姿勢からとても老婆には思えない。
「・・まあいい。それなら・・いつぐらいに出来そうだ?」
王子は腕組みしながら言う。
「そうですね・・・9時には出来るかもしれません。」
「9時か・・・。」
王子は呟きながら思った。
(ラプンツェルの元へ行っても・・・3時間は余裕がありそうだ・・・。朝から彼女を抱くのも悪くは無いかもしれない。)
昨夜、散々娼婦の女を抱いたのに再びよからぬ思いを王子は抱いていた。
元々この王子は快楽を求める遊びにしか興味が無かったのだ。
しかし昨日初めて無垢なラプンツェルに触れた時、その身体が忘れられなくなってしまった。もう一度、あの身体を味わいたい・・・。最早今の王子はゴーテルを前にして、その事しか頭に浮かばなくなっていた。
一方のゴーテルは目の前の王子に下卑た笑みが浮かぶのを見逃さなかった。400年と言う長い時間を人間達の中で生きて来たのだ。多少は表情一つで何を考えて居るのか位は見当がつくようになっていた。
(何だろう・・・この王子は・・何かよこしまな考えでも持っているのでは・・?)
少し考えこんでいた王子は言った。
「それでは9時にまたここへ来る。」
「はい、承知致しました」
ゴーテルは頭を下げると、王子は馬車へ乗り込み・・・何故か馬車は森の奥へ行こうとする。
そこでゴーテル馬車の前に立ち塞がった。
「お待ちください、どちらへ行かれるのですか?」
「な、何だっ?!危ないじゃ無いかっ!」
王子は馬車から顔を覗かせると言った。
「王子、この先は何もありません。何故そちらへ向かうのですか?」
「あ・・少し森を探索したくてね・・・。」
(くそっ!邪魔な薬師だ・・・っ!)
「どうぞ元来た道へお戻りください。もし・・・言う事を聞いて頂けないのであれば・・・薬は渡せません。」
「な・・・!王族を脅迫するつもりかっ?!」
「命を前に王族も平民も関係ありません。そもそも秩序の乱れもこの病気の感染を広げている事をお忘れの無いように。」
「く・・・っ!」
王子は悔しそうに歯ぎしりをしながら、元来た道を引き返させた。
(いいさ・・・治療薬を貰った後に・・・ラプンツェルの元へ行けばいいのだから・・・。)
そして馬車の中で不敵な笑みを浮かべた―。
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