※第4幕 『白鳥の湖』のオディールの場合 ⑦ (大人向け表現有ります)
「オディール・・オディール・・・貴女を愛しています・・。会いたかった・・。」
ジークフリートはオディールを力強く抱きしめ、深い口付けの合間に愛を囁く。
「ジークフリート様・・。」
オディールもジークフリートの背中にしっかり腕を回し、その甘い口付けに応じる。
やがて長い口付けを終えるとジークフリートが言った。
「オディール・・・どういう事ですか?何故貴女は白鳥の姿になって飛んできたのですか?貴女は・・・白鳥の化身だったのですか?」
「ジークフリート様・・・私は人間です。今朝・・・湖で妹のオデットに太陽の出ている間は白鳥の姿になるように呪いを掛けられてしまったのです。」
「な・・何ですって・・・?!」
ジークフリートは目を見開いた。
「夜は元の姿に戻れるのですが、自分の意思で白鳥になる事も出来ます。」
「それで・・白鳥の姿になって私に会いに来てくれたのですか・・?」
ジークフリートはオディールを胸にかき抱くと尋ねた。
「はい・・・どうしてもジークフリート様にお会いしたくて・・・白鳥の姿になって飛んでまいりました・・。」
「オディールッ!!」
ジークフリートはオディールの顎をつまみ、再び強く唇を重ねた。
「愛しいオディール・・・どうしたら貴女のその忌まわしい呪いを解く事が出来るのですか・・?やはり呪いをかけたオデットを葬れば貴女を元の姿に戻せるのですか・・?」
ジークフリーとはオディールのしっとりと柔らかな唇に吸い付きながらオディールに語りかける。
「ジークフリート様・・・。」
ジークフリートの甘い口付けに酔いしれながら、オディールはまだ何か肝心な事を忘れているような気がして、蕩けそうになる頭を必死で働かせ・・・ようやく最も重要な事を思い出した。
(そうだったわっ!私は・・・オデットの魔力で・・・!)
すると、ジークフリートはオディールの様子がおかしい事に気付き、声を掛けた。
「オディール・・・どうしたのですか・・?」
「あ、あの・・ジークフリート様・・・。オデットは私を白鳥の姿に変えるだけでなく・・今に私の身体と自分の身体を・・入れ替えるつもりですっ!」
オディールはその時の苦しみを・・恐怖を思い出してジークフリートに縋りついた。
「な・・何ですって?!あの魔女は・・それ程までに恐ろしい魔術を・・?!それならば一刻も早くその魔女の首を打ち取らねばっ!」
顔色を変えてオデットを打ち取る話をするジークフリートをオディールは止めた。
「いいえっ!お願いです!それだけは・・・おやめくださいっ!どんな罪を犯しても・・オデットは私の大切な妹なのです!お願いですからオデットを殺さないで下さい・・・!」
「オディール・・・。」
ジークフリートがオディールの身体を抱き寄せた時・・・一筋の夜明けの光が山間から差し込んできた、その途端・・・。
「うう・・・ああああっ!」
オディールは再び身体が焼け付くような熱さを感じ・・・一瞬で白鳥の姿へと戻ってしまった。
「オ・・・オディール・・。」
ジークフリートは愛するオディールが再び白鳥の姿に戻ってしまい、強く白鳥を抱きしめて涙を流した。
「ああ・・・オディール・・・何と言う事なのだ・・。貴女が白鳥の姿になるのを・・・止める事が出来ない自分が歯がゆくて堪らない・・・。」
白鳥になってしまったオディールも涙を流し、ジークフリートの身体を美しい羽根で覆うようなしぐさをする。
ジークフリートは白鳥の背中を撫でながら言った。
「愛しいオディール・・・。例え貴女が白鳥の姿のままでも私は絶えず貴女に愛を捧げると誓います。2人で何とか呪いを解く方法を考えましょう。オディール・・私は必ず貴女を守り抜くと誓います。そうだ!私の部屋の奥は王族しかしらない隠し部屋になっております。そこの部屋をオディール、貴女の部屋にしましょう。あそこなら誰の目にも触れる事は無いし、オデットから身を隠す事だって可能ですから。」
白鳥となったオディールはジークフリートの言葉にコクリと首を振った―。
「オディール・・・日中は貴女と意思疎通が出来ないのは辛くてたまりません。でも私以上に辛いのは貴女のほうでしょうね・・・。」
隠し部屋でオディールの背を優しく撫でながらジークフリートは言う。白鳥になったオディールはジークフリートの膝に頭を乗せて、目を閉じてじっと身を委ねていたが、どうしても本来の白鳥としての野生の本能が現れて来た。空を自由に飛び回りたくてたまらなくなったのだ。
(ああ・・どうしよう、この姿のまま空を飛ぶのはオデットに命を狙われる危険性がある。だけど・・・!)
とうとう我慢が出来ず、オディールは首をもたげると大きな羽をバサリと広げた。それを見て驚いたのはジークフリートの方だ。
「オディール?どうしたのですか?まさか私を置いて何処かへ飛び立つつもりですか?」
しかし、オディールはその質問に答える事が出来ない。ただどうしても自由に大空を飛び回りたい願望が今、この瞬間にもますます強まっているのは確かだ。
そしてついにオディールは隠し部屋からジークフリートの部屋へ飛び出ると、そのままバルコニーへ向かった。
「待って!行かないで!オディールッ!!」
ジークフリートは絶叫したが、オディールは飛び立ってしまった。しかし、この時のオディールはまだ気が付いていなかった。この空を自由に飛びたいと強く感じるのも全てはオデットの魔法によるものだと言う事に・・・。
オディールはジークフリートの事等一切忘れ、大空を思いきり飛んだ。途中渡り鳥の群れにもあった。湖に降り立ち、羽を休めた事もあった。そして日が暮れるまで飛び回り・・・ようやく徐々にオディール自身の意識が戻って来るのを感じた。
(あ・・・・い、いけない・・・私はジークフリート様の御側にいなければならないのに・・何故、こんな所まで飛んできてしまったの?)
我に返ったオディールは再び羽を広げてジークフリートのいる城へ向かった。
その頃、城に取り残されたジークフリートはバルコニーに出て一番星を見上げていた。
頭に浮かぶのは愛しいオディールの事ばかりだった。
「オディール・・・。もう・・・私の元へは戻ってはくれないのだろうか・・・。」
ジークフリートがポツリと呟いた時・・・何かがこちらへ飛んでくるのが見えた。
「ま・・まさかオディールッ?!」
ジークフリートは目を凝らすと、やはり飛んできたのは白鳥の姿をしたオディールだった。
オディールはジークフリートの眼前で降り立つと、直後に元の姿へと戻った。そしてジークフリートを見つめると悲し気に言った。
「ジークフリート様・・も、申し訳ございません・・・。どうしても白鳥になった時の本能にあがなえず・・・貴方を置いて飛び立ってしまいました・・・。」
しかし、ジークフリートは何も言わずにオディールに駆け寄ると強く抱きしめ、唇を重ねると言った。
「良かった・・・オディール・・・もう二度と帰って来てはくれないと思って・・・。」
後は声にならなかった。オディールは自分を抱きしめたまますすり泣くジークフリートの方が何故か哀れで堪らなかった。
「ジークフリート様・・・。」
思わず、名を呼ぶと再びオディールは深く口付けられ、そのままベッドに運ばれ、横たえられるとジークフリートが上から覆いかぶさって来た。
(ジークフリート様・・・。)
オディールはジークフリートの首に腕を回し・・・恋人たちは飽きるまで身体を重ねるのだった―。
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