最終章 復讐完了~復讐者たちの幸せ~

 振り返れば御者がその太った体を起こそうとして失敗し、ゲロ塗れになっている。


 いったいこれは、なんの奇跡だろうか。


 だが事実を確認するヒマもない。僕はただちに彼の元へと駆け寄った。事この期に及んで、もはや冷静では居られない。


「ぎょ、御者あああああッ!!?!?!?!」

「ファルス……閣下……よくぞ勝利して……」

「無事……なのか? 本当に……?」

「ふふ……閣下もまだまだですね……私、閣下に勝利していただくために、わざと死んだふりをしたんですよ……! その方が、閣下の怒りを引き出せそうでしたので……!!」


 御者は直前にしたラブインバースの話を覚えていたらしい。


「は、はは……ッ! そうなのか! 今度こそ騙されたよ御者! やっぱりキミは優秀な詐欺師だ! だけど、どうやって!?」


 あの風爆弾の直撃は、例え万全の状態であったとしても死んでいたはずだった。

 ボロボロな上にただの一般人である御者が耐えられるはずはない。


「薬草は……生えていたんですよ」


 そう言って、御者が右手に掴んでいる物を見せた。それこそは新鮮な薬草。握りしめた葉からこぼれた汁が、朝日に照らされて白く輝いている。


「やっ、薬草おおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 僕は御者が握っている薬草に手を合わせて縋り泣いた。


 お前はなんて役に立つんだ!!

 要らないなんて言ってごめん!!!


「そ、そこは私じゃなくて薬草なんですね……?」


 中年オーク面をくしゃっと折りたたんで苦笑いする御者。元々細長い目が一層細くなる。


「そうだよ御者! よし、僕と一緒に来い! そこのクソ女どもに徹底復讐するぞ!!」


 僕は御者の体を揺り動かすと、まだ呆然と突っ立っているプリムとアエラに向かって叫んだ。






 ――エピローグ――






 ――御者視点――




 私の名前はヴェルノラ・ド・ブルドワ。

 45歳独身。能力外見いずれも最低辺のゴミクズでございます。

 そんな私でも生意気に屋敷などを建て、独り暮らしをさせて頂いております。今はその2階テラスで私の大切な『閣下』とお酒を飲んでいる最中です。


「ハァフゥッ! ハフゥンッ!……フゥンッ……ファッ、ファルス様ぁぁぁ!!!!!」


 木目調の大きなテーブルの下で跪き喘いでおりますのは、ピンク髪をサイドテールに結んだ童顔巨乳の美少女、第268代賢者プリム様。


 ネコミミを付け、魔法でピンクの尻尾を生やした彼女は片手で自分を慰めながら、私の主の一物を咥えております。その一物は彼女のファーストキスの相手でもありました。


「御者様。アイスティーをお持ち致しましたわ」


 横目でその様子を眺めていると、私の前にも別の女性がやってきて首を垂れます。

 アエラお嬢様です。金髪ロングのエルフにして、エルフィニアン帝国の第二皇女である彼女は今、私の趣味に合わせてなのか、丈の長いメイド服を着ております。普段の彼女らしからぬその清楚でお嬢様な姿にビックリです。

 しかも彼女は自分が持ってきた紅茶を口に含むと、直接口移しでそれを私に飲ませてくれたのです。わずかにレモンの風味がするのは彼女の唇の味でしょうか。

 ちなみにこれが私のファーストキス。

 私があずかり知らぬこれは、どうやらファルス閣下がサプライズ演出でされた事のように思います。


 ああ……なんて恥ずかしいんでしょう……!?


「プリム、喉乾いたでしょ?」


 私の隣で、我が人生最大の恩人にして主人である閣下がビールの入ったジョッキを片手に言いました。組み替えた足をプリム様の頭に置いて足置きにします。

 そして、残ったビールをドバドバとプリム様の頭にお掛けになりました。突然の黄金のシャワーにプリム様は、


「あにゃっ!? あっ、ありがとうございますにゃッ!!!」


 はだけたミニドレスから露わになった肩をビクンビクンと震わせて、床に零れたビールを舐めとります。まるで子猫が床にこぼれたミルクを舐めるように。


「おいしい?」


 閣下はニッコリ微笑まれる。なんて素敵なお顔でしょう。まるで天使のよう。


「はひひッ! ファルス様ッ!!! おいひいですにゃッ!!」


 プリム様も嬉しそうに返事されて、可愛らしい尻尾を振っております。

 頬が紅潮しているのは、お酒のせいでしょうか。


「すまないね。屋敷の主人を差し置いて、僕だけ良い思いしちゃってさ」


 そのような事を考えていると、ファルスさまが私に声をお掛け下さりました。


「いえいえ何をおっしゃいますか。私はファルス閣下の部下です。閣下の幸せこそが私の幸せなのです!」


 私はかろうじて生きていたものの、風爆弾が直撃した結果股間が大変なことになっておりまして、童貞卒業はやはりお預けとなってしまいました。

 それでも生きているのですから、何も不満はありません。


 しかもプリム様に命じて、錬金技術を応用した新しい一物を作ってくださるそうです。

 閣下の寛大なるご采配に涙が出ます。


「復讐、終わりましたね閣下。それで……これからどのようにされるおつもりですか?」


 ふと、私は思ったことを申し上げました。

 閣下の最大の敵は今、足元に跪き、清掃用のモップもかくやという無様な格好です。

 閣下は完全勝利なされた。これからどうされるのでしょう。


「どのように、か……そうだね、御者、1つ、聞いて欲しい話があるんだ」


 そう言うと閣下は椅子から立ち上がられました。従者たる私も当然閣下と共に立ち上がります。


「御者。僕はね、キミを救いたかった。どうしてそう思ったのか解らない。きっと昔の僕がキミを救いたかったんだと思う。お金以外なんの取り得もないキミは、まるで昔の僕みたいだったから。そしてプリムに酷い目に遭わされてるキミを見ていたら、一物が熱く滾ったんだよ。この女はブチ犯すって」


 言いながら、閣下が床に這いつくばってビールを舐めとるプリム様のお尻を「キャンッ!?」蹴り上げました。プリム様は悪戯を見つかった子供のような目で、恐る恐る閣下を見上げます。


「僕らしくもない事さ。僕はレオンみたいなクズになるって決めていたから。アイツならキミを見捨てていたよ。他人なんかどうでもいい。自分さえよければそれでいいって、そういう男だからね。それじゃ何が違うのかなって考えたんだ。そしたら……」


 言いながら、閣下はビール塗れでびしょびしょのプリム様の肩を掴んで立ち上がらせました。そしてご自身のハンカチで、酒塗れになった顔やミニドレスを拭かれます。


「気づいたんだ。どれだけ悪い事をしても、心のどこかには良心が残る。その良心が僕を完全なクズにはさせないってね。だから今回特別なスキルを得て、あれだけ綿密に計画を立てたんだけどクズのワガママ一つで破綻しそうになった。つまり今回キミがこれほどまでに損害を被ったのもみんななんだ」

「そっ、そんな……ッ!?」


 完全無欠な閣下がご自身を責められている様を見て、私は狼狽えました。

 だって、閣下は私の……私を悪魔の手からお救い下さった救世主さまですのに!!!


「このザマじゃ、いずれまた足元をすくわれるだろうね。ハハ」


 言いながら、プリム様の頭を撫でられた。


 閣下は結局、プリム様の人格を消されませんでした。ですからこの哀願に満ちた顔の下で、プリム様が何をお考えであらせられるのか、私には解りません。もしかすれば、今この瞬間にも裏切る可能性だってあり得ます。


 ……ならば!


「ファルス閣下! その時は私が、ファルス閣下の助けとなります!!!!!」


 私は叫んだ!

 閣下がお言葉をお求めであるにも関わらず、何も答えないメス賢者を殴り飛ばして!


「……ぎょ、御者?」


 閣下が驚いた顔をされている!

 アエラお嬢様もそうだ。そして、私の拳を受けたにも関わらず、倒れもしないでキョトンとした顔を向けて突っ立っているそこのクソ賢者も!

 そして私自身も……驚いている!!!


「断じて……断じてファルス閣下のせいなどではありません! この身の不幸が閣下の責任であらせられるのであらば、今この幸福もまた、ファルス閣下のおかげなのです!!! ですから私は、この身命を賭してファルス閣下をお守りいたしますうううううッ!!!!」


 私は再度叫んだ。


「……なんだ。すっかり僕に騙されちゃってるじゃん。そんなザマだとまた被害者になるよ?」

「はい! それこそ私、騙されたいです! 閣下! どうぞ私を騙してください!! そして私に夢を……見させてください!!!!!!」


 私が全力で差し出がましい事を申し上げると、


「どうぞ騙してくださいって、御者は面白いこと言うなあ?」


 閣下はフッと微笑みを浮かべて下さりました。幸甚です。


「それじゃ、僕の夢を聞いてくれるかな。僕の復讐はね……まだ、終わっていないんだ」

「復讐が……終わっていない?」

「うん。僕はね、世直しがしたい。この女尊男卑の世の中に跋扈するクズ女どもを全員ブチのめし、奴隷として使役する事で、男による男のためだけの帝国を築き上げたいんだ。そうする事で女どもに虐げられている男たちの不幸を払い、彼らの人生を幸福なものに導くことができる。それこそがラブインバースを持つ僕が行うべき悪行だと思うんだよ。僕のしたい事がホラ、みんなのためにもなるでしょ?」


 そう呟かれると閣下は「とっても素敵じゃない」右手の手袋を外してラブインバースの紋章をご覧になられました。逆さについたハートマークの紋章は、うっすらピンク色に輝いております。それとこう言ってはなんですが、閣下のご尊顔も非常に恐ろしく歪まれておられます。満面の素敵な笑顔です。


「なんと立派なこころざし! 感動いたしました閣下!! 不肖の身ながらこの御者! 老体に鞭打ってでもその覇業手伝わせていただきたいと存じます!!!!」

「そんなカッコつけなくていいよ。ようはクソ女どもレイプしたいってだけなんだし。僕はただの犯罪者さ……ああ、そうだ、ついでだし御者の夢も聞かせてもらおうかな?」

「は、はいっ!! ファルス閣下! あの……!! 私、いい加減童貞を卒業したいです!! だってもうすぐ私……46なんですものおおおおおおおお!!!!!!!」


 私はいよいよ取り乱して「うわあああああん!!!」泣き叫んだ。

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全てを奪われた男、好感度を反転させるスキル【ラブインバース】で全てを奪ったクズ女どもをハーレム屈服させる! トホコウ@マンガ原作 @aya47

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