ダークファンタジー作品の世界でモブとして殺される運命にあった主人公一行が、原作を思い出した主人公の死に物狂いの一太刀によって奇跡的に救われた、その後を描いた作品です。救われたといっても主人公は隻眼隻脚の身となってしまい、仲間たちがその事実を容易に受け止められるはずはなく——と、仲間たちがヤンデレ化してしまいます。
この作品の魅力はなんといっても丁寧な心情描写です。登場人物一人ひとりの心情描写がとても丁寧で、自身を責め、どっぷりと病み、激重感情をいだくに至るその過程が手に取るように理解できるのです。しかも一人ひとり思考回路は違っていて、病み方も異なり……とても味わい深いです。
この作品を読むまで、私はヤンデレ属性が少し苦手でした。よくあるヤンデレ描写は、「ヒロインの突拍子もないヤンデレ言動」や「それに振り回されるまともな主人公のドタバタ」で構成されているように感じます。しかしこの作品の場合、仲間たちの言動は(胃が痛くなるほどに重たくはありますが)妥当で、主人公はそれを真正面から受け止めざるを得ません。激重な、けれど納得できる感情。それはある意味どうしようもなく人間らしい純粋なもので、愛おしさすらも感じます。
この作品の雰囲気自体は、決して暗いだけではありません。シリアスな展開はありつつも、仲間たちの激重感情に苦悩する主人公は面白おかしく、ちょっとしたすれ違いからさらに仲間たちの感情が重くなっていく様子はコミカルです。笑い話では済ませられない激重感情を題材としていながら、作品の雰囲気自体は過度には暗くないため、スルスルと読み進めることができます。……スルスルと激重感情を味わっていけるのです!
また、ストーリー展開や戦闘描写、世界観の説明が上手いことも、この作品のクオリティを押し上げる要因となっているでしょう。個人的に固有名詞のセンスの良さには唸らせられました。「魔導律機構(マギステリカ)」とか、かっこよすぎるでしょう! ストーリーにどう絡んでくるか楽しみすぎます。
書籍化おめでとうございます。これからも更新を心待ちにしています。
主人公ウォルカはパーティが全滅する間際、この世界が前世の残虐非道なダークファンタジー作品の世界であることを思い出す。そして、このまま負ければパーティーメンバーの少女たち全員が、尊厳を徹底的に破壊されて殺されてしまうことも。故に死すら厭わず剣を振り、何とか敵の撃退に成功する。しかし彼は知らなかった。彼の行動によって、彼女たちの目が光を失い、深い狂気に染まっていってしまうことを―――。
曇らせを憎む主人公の何気ない言動によってガンガン周りが曇っていく地獄の連鎖。
気付いて胃を痛めていることもあるが、大体は本人的に場を和ませようとしたり、素の言動によるものであったりすることが、更に曇らせ阻止の難易度をルナティックにしていく。
戦闘や世界観の紹介の仕方も上手いが、何よりも各人の心理描写があまりにも美しい。己を責め苛み、闇に蝕まれ、どっぷりと心を病んでいく過程が胸を掴まれ引きずり倒されるような心地にさせられる。
作者様、書籍化&コミカライズ企画おめでとうございます。
何度も読み返して、主人公と周囲のギャップに胃をキュッとさせられています。有難うございます。
これからも更新楽しみにしております!