第十六章 復讐開始3~賢者の秘策~

 翌朝。

 なのか確かめようもないけれど、体感ではそれぐらいの時間に僕は目覚めた。


 まったく最高の目覚めだった。

 即座に襲ってきたのは不快感。まるで脳みそと内臓全てに硝酸混じりの泥を詰め込まれたような、痛くてだるくて気持ちの悪い感覚。

 加えて全身に針を刺されたような激痛が一瞬走る。あれだけの傷を負わされたうえ、ずっと硬い床の上に放置されていたからだろう。ちょっとでも体を動かすと、燃えるような激痛が全身を駆け巡った。


 だから、もしも目の前に薬草が生えてなければ、さすがの僕も死んでいたかもしれない。

 こんな地下牢にも関わらず薬草が生えるのは、【薬草採取Ⅱ】のお陰である。Ⅱになると1日辺り1つが屋内屋外問わず生えてくるのだ。アエラと苦行セックスしたのも無駄ではなかった。


 既にプリムにはラブインバースを打ち込み済み。このまま時間が経てば、プリムは自動的に僕のメス賢者奴隷になる。今この瞬間も、僕の放った神聖液スペルマの魔力がじわじわと賢者の頭脳を犯しているのだ。


 現状唯一の懸念は僕が死にかかっているというこの一点だけ。

 つまり生き残りさえすれば僕の勝ちだ。


「――あ、ファルスちゃんやっと起きたー?」


 暫くすると悪魔プリムの声が聞こえてきた。見れば地下牢入り口の方から奴が歩いてくる。


 その姿は先日と異なっていた。ピンク髪をサイドテールにしており、そのロリ巨乳な体をノースリーブのミニドレスに包んだ様子は昔のプリムそのもの。この薄暗い牢屋にあって、そのミニスカートを押し上げるむっちりした太ももには、女神級のエロさを感じる。


 わざわざ昔の恰好をしているのは、何かの意趣返しだろうか。


「つまんなかったー! アンタさ、もう3日も眠ってたんだよ? あたしあんまり退屈だからさー、代わりにヴェルちゃんに相手してもらってたの!」


 言いながら、僕の隣の牢屋をアゴで差す。


 見れば冷ややかな牢屋の床に横たわる御者の姿があった。彼は裸に剥かれており、全身血まみれでピクリとも動かない。


「まさか……殺したのか?」

「ううん。まー、このままだと確実に死んじゃうけどね。キモかったよー。どうかアンタには手を出さないでくださいーなんて言っちゃってさ、ムカつくから手足潰して体中の関節砕いて喉潰しちゃったの! そしたらヒーコラ言いながら毛虫みたいにのたうち回り出したからあたし胸がスッとしちゃって!」


 酷い。

 こいつは自分の憂さを晴らすために、そして恐らくは生意気な僕に対する見せしめとするために、自分の部下である御者をブチのめしたんだ。


 さすがは僕が認めたクズ。

 アエラと同じくレイプとメス奴隷扱い程度で許してやろうと思っていたけれど、そんなもので済ませてはいけない。


 なぜならそれでは僕だけの復讐になるから。こいつによって不幸のどん底に叩き落とされた御者にも何らかの形で報いなければならないだろう。


 ――よし、決めた。

 無事堕とした暁には、こいつの中身を徹底的に作り替えてやろう。


 かつてこいつ自身がエサにしてきた男連中相手に媚びて奴隷奉仕するだけの最底辺のメス賢者に作り替えてやるのだ。元の賢者プリムという人格は永久にこの世から消え去る。


 そうだ、それがいい。


「ふーん。まーだ余裕あるって顔だね? 目が全く死んでないもん。なんでこの状況でそんな平静でいられるんだろ? ふっしぎー」


 なんて僕が思ってると、プリムが腹立たしそうにその細長い眉を上下させて言った。


 ちなみにだけど、この生意気な態度自体、僕が敢えてしてる事だ。

 プリムは根っからのドS。反抗的な男をいたぶる事が好きで好きで仕方がない。

 だから僕がまだ生意気なうちは生かしておくだろう。その証拠に僕が【薬草採取Ⅱ】がある事を知った上でそれを封印してない。このまま少しでも引き延ばして、ラブインバースの発動まで生き延びるのだ。


「あ! そういえばさー。今日見たいものがあって来たの! あたし見たーい!」


 セックス?


 嫌な予感がした。プリムは片手をその愛らしいおちょぼ口に当てながら、「にしし!」と小悪魔っぽい微笑を零しつつ隣の牢屋を指で差している。


「そー! ファルスがカッコよく隣のクソデブ元金持ちレイプしてるところみたい!!」


 こいつ……! 自分が何を言ってるのか解ってるのか?


 全身血まみれで瀕死状態の奴にホモセックス強要する時点で既にアレだけど、その相手も同じく瀕死なんだ。僕はともかく御者はヤっただけで死にかねない。


 頭おかしい。

 さすがは267人もの賢者キチガイを飼ってるだけある。

 なんで女神はこんな奴を賢者に選んだんだ? これじゃ世の中が平和になるどころか、ますます混沌と化していくじゃないか。もしかして僕みたいなクズがラブインバースに選ばれた事と関係あるのか?


 内々で怒りを溜めつつ、これ以上大切な血肉が流れ落ちない様に自ら這いつくばって隣の牢屋を目指す。


 それから3分ほどかけて、ようやく5メートルほどの距離にいた御者の下に到着すると、僕は隠し持った薬草の残り汁を彼の体に振りかけてやった。これで死ぬことはない。


「なーに手間取ってんの? あ、興奮してちんちん引っかかっちゃった?」


 そんな事をやってると、プリムが言った。殺すぞ。

 仮にも人類を救う継承者の1人であるはずなのに、こいつはほんとクソみたいなことばかり言ってきやがる。人を人と思わないっていうのは、プリムみたいな奴の事を言うんだな。


 なんて考えながらも僕はやっとズボンを降ろすと、全く立たない一物を御者の貧弱なお尻部分にあてがった。


 ヌルリとするのは御者が漏らした排泄物。

 汚物に塗れた尻の穴を多数のハエが出入りしている。


「……ッ」


 さすがの僕も、これにはドン引きせざるを得なかった。

 だが、大丈夫。心は既に明鏡止水。無我の境地にある。何しろ僕はこの3週間でアエラと1000回もセックスしたのだ。それに比べれば御者との1回くらいなんだ!

 皇女は御者以下だ!


「すっごーい! これがゴブリンの生レイプかー! あたしはじめてみた!」


 僕が所定の場所に突っ込むなり、プリムが両手を叩いて拍手してくれた。


 どうやら賢者も初めて見る光景らしい。

 この新しい知識、てめえのド下品な脳みそに刻んでおけよ。後でたっぷりてめえで実演してやるからな!


 僕は心の中で悪態を吐くと、再び前後運動を続けた。


「………………………………………………ごくり」


 なんて事をしてると、いつの間にかプリムが黙っていることに気付いた。


 僕は体の位置をずらして、バレないように視界の端っこにプリムの姿を収めた。

 すると色々な事に気付く。

 プリムのシミ一つない白い肌が、うっすらと赤みがかっている。吐く息は浅く荒く、大きくパッチリとした二重の目は潤んでいて、まるで誰かに恋でもしてるみたいだった。

 ラブインバースの効果が出始めているのだ。

 僕は無言でニヤリ、ほくそ笑んだ。




 ――プリム視点――




 地下牢で汚物2匹がホモセックスに興じていた日の翌朝。

 あたしは自室の天蓋付きベッドに横たわり、悶えていた。


「あっあっ……!! ファルスううううううううううううううううぅぅぅ!!!!!!」


 情けない声が屋敷中にこだまする。

 早朝の静けさの中にあって、あたしの恥ずかしい声は一層高らかに響き渡った。庭で気持ちよくさえずっていた小鳥たちが一斉に飛び去る音が聞こえる。


「……ァ……ハ……ッ!!」


 ベッドはもうびしょびしょだった。

 右を向いても左に寝転んでもあたしの匂いしかしない。


 ひどい。信じられない。

 あたしは処女だし大の男嫌いで、今までどんなイケメンに会ってもドキドキしたことなかった。それが昨日、あの男が汚いアレを露出した辺りからあたしはおかしい。


 最初は単に興奮してるだけだと思った。あたしは情けない男をイジメて貶してボッコボコにしてやることが、何よりの楽しみだったから。


 だけど途中から変になった。あいつの汚いアレを見た瞬間、あたしはドキリとして目を伏せてしまった。胸の奥と大事なところが同時にキュンキュンして、切ないのがとまらない。


 どうして? あたしは交尾する男を見て興奮するような女だったの?


 そう思いながらも、もう我慢できなかった。

 だから昨日あの後も、あたしは着の身着のままで自室に戻り、キングサイズの天涯付きベッドに飛び乗って、大好きなお風呂にも入らず自分の敏感な部分を弄り始めたのだ。


 そして今に至る。

 今に至っちゃってる!!!


「……ン……ッ……!!」


 なんて思いながらも、また深いところに指を差し込んでしまう。

 差し込む指はもちろん、あのクソ勇者さまにハメて指輪のあった人差し指。


 あの時と同じ服を着ているのも、それが気持ちいいから。サイドテールに結んだリボンもあの時のもの。このスカート丈の短いミニドレスも、ファルスさまがしきりにお尻や下着を覗こうとしてくださったものだ。だから着てしまった。


 ああ! どうしてあたしは昨日ファルスさまにおねだりしなかったんだろう!?

 もしあの時牢屋でファルスさまの前で跪いてこれまでの事をお詫びして、『負けを認めます。あたし完全に敗北しました。なんでも差し上げますから、どうぞあたしを孕ませてください』って土下座でおねだりしていたなら!!

 そしたら……ッ!!


「ン~~~~~………ッ……ッッ……ッ~~ッ…!?!?!?!………………んはァッ……!!」


 なんて、あいつに媚びて奴隷奉仕する妄想で達する事16回目になる。それだけやって、ようやく賢者モードに突入。こんな時だけすぐに満足できる男が羨ましい。


 とか思ってるうちに、またムラムラしてくる!


 際限がない。これじゃあたしこそゴブリンだ。年中あたしに下心満載の笑みで媚び売ってくるクソバカ男どもと一緒になっちゃう!


 どうして……どうしてこんなになっちゃってるの!?

 再度指を動かしながら、あたしは現在自分がこうなっている理由について考え始めた。


 といっても犯人なんて決まってる。

 あいつだ。

 今も牢屋にいるクソホモセックスゴブリンもどきが、あたしに何かしたのだ。


 その正体だって、見当は付いてる。Sレアスキル【状態異常無効化】を持つあたしにこんな事ができるスキルなんて1つしかない。

 それは……超SSクラスレアスキル【ラブインバース】。

 世界でただ1人、女神に選ばれた男にしか使えないという伝説にして最強のスキルだ。その効果は『相手が嫌がる事をすればするほど自分を好きになる』というもの。


 でもラブインバースは、よりにもよって『あの』女神エリスが授けるスキルなのに。まさかあの男、女神エリスの寵愛を受けたっていうの? 信じられない……!

 なんて小賢しい奴! ゴブリン以下のゴブリンもどきのくせに!!


 ……悔しい……ッ!

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいいいいいいいいいいいいい!!!!!!

 あたしは騙されたのだ! あたしを探ろうとした御者を捕まえて、裏にいるあの男の情報を聞き出し、そいつを部下共々牢屋にブチ込んであたしは完全に勝ったはずだった!

 だけど現実はその逆! あたしはハメられたんだ! なんの能力もないあんなゴミムシゴブリンもどきなんかに、このあたしがしてやられるなんて……ッ!!! 悔しいいいいいいいいいいい!!!!


 あっ!? クソっ、ダメっ、このままじゃ……ッ! あいつの事を嫌いになったら、それだけあいつ好きになっちゃう!!! そんなのって、ダメぇ!!!!!


「ちッ……ちくしょ……ッ……アッハッ!!?!??!?」


 あたしはそんな風に内心で怒り狂いながらも、17回目の絶頂に至ってしまった。


 気持ちいい……!

 ダメ、これじゃあたし、ゴブリンもどき以下じゃないの……!

 な、なんとか思考だけでも、続けなくちゃ……ッ!

 そう……ッ……解除するためには『魂洗浄』が必要なんだった。あいつの精液で受精したあたしの受精卵を使って、ラブインバースの呪いを解く。


 でもセックスとかあり得ない。生理的にもあり得ないし、下手したらシテる最中にあいつのテクニックで堕とされる可能性だってある。あいつはセックスに関しては百戦錬磨だ。いくら知識あっても処女のあたしが勝てる相手じゃない。


 しかも殺すことだってできない。もしラブインバースに掛かったままであいつを殺したら、あたしはあいつのことを一生考え続けるハメになる。そんなの奴隷と変わらない。


 タイムリミットは残り27日。それが過ぎたら自動的に嫌悪感が逆転して、あたしはあのクズ男を大好きになってしまう!!

 どうしたらいいの!?

 なにか手段はない……!? 賢者の知識を総動員してッ……!

 助けて!! あたしの中の267人賢者たち!!!


「!??!!?!?!??!?」


 あたしが心の中から願ったその時、不思議なことが起こった。


 一心不乱に股間を擦っていたあたしのベッドの周りに、無数の女の子が立っている。どの子もあたしと同世代くらい。みんなとってもキレイで金色の不思議なオーラに包まれてて、部屋に入りきらないせいで一部の子は窓の外とか廊下、壁の中にまで立っている。


 こ、この子たち、なに!?

 っていうか、めちゃめちゃ恥ずかしいんですけど!? こっち見ないで!!


『かわいそう』


 なんてあたしが恥ずかしがっていると、その中でひときわ輝く青髪ロングのクール系美少女が、あたしの右手に触って言った。


 ――ああ、あたしはこの子を知ってる。


 純白のローブに青マントというクラシックな格好をしたこの子は、初代賢者。それまで曖昧だった『スキル』という超自然的現象を初めて概念化し、更にその発動プロセスを解明して対魔王用の人類決戦魔法スキル【超級熱爆核炎ノヴァフレア】を生み出したという超天才。あたしが尊敬できる唯一の偉人だ。


『安心して。私たちが力を貸してあげます』


 その初代賢者があたしの耳元で囁いた。次の瞬間、部屋中に居た総勢267人の賢者たちがあたしの体の中に飛び込んでくる。


「ッ?!!?!?!?!?!?!?!」


 すると次の瞬間、あたしの脳みそに電撃が走った。

 その閃きが、一直線にあたしを勝利へと導いてくれる。


 あたしが継承した『賢者の知識』は最強だ。森羅万象のありとあらゆるものを理解する全知、そして女神にも匹敵する全能性を持っている。故に絶対に勝利不可能な状況でさえ覆す事ができるのだ。


 今回の場合はラブインバースの解除方法。未だかつて誰も知り得なかったその手段を、一からあたしが創り出す。その方法とは。


 そう。


 


 あいつの精液を触媒にして、あたしの魔力を注入しラブインバースを暴走させる。そうする事でラブインバースのスキル術式を魔力源からぶち壊すのだ。そしたら、いくら女神エリス直伝の最強スキルといえども終わり。


 しかも呪いが解けるのはあたしだけじゃない。今まであいつが奴隷にしてきた女の子も、全員が呪いから解き放たれるのである。なぜならシステムそのものが崩壊するから。


 つまりあいつは一瞬でそれまで手に入れてきたものをすべて失い、同時に自分が苦しめた女の子たちから復讐を受けるってワケ。


 素晴らしい。その時こそ、あいつは心の底から絶望するだろう。初めてあたしの前に跪いて命乞いするに違いない。


 それじゃあ、さっそくあいつに精液飲ませなくちゃ。


 ……でも、その前に。


「「「「「ァンッ……ァ……ッ……ハッ……アァ……アッ!!!?」」」」


 どうせ勝てる。


 そう思ったあたしは、今も高ぶるこの欲情を楽しむことにした。言っとくけどこれは敗北じゃない。下手に逆らわずに受け流した方が、ストレスも少ないって聞くし。なんだかあたしと一緒に267人の賢者たちまで一緒に喘いでる気がするけど、それも気のせい。


「とっ、とにかく次に騙すのはあたし! 見てろよクズゴミホモセックスゴブリンもどき! 世界最強天才賢者のあたしを辱めた罪、その身に刻み付けてからブッ殺してアッアッアッイックウウウウウゥゥンッッッ!!!!?!?!??」


 奴を罵りながら、あたしは本日18回目の絶頂に半裸の身を震わせてしまった。

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