第十二章 プリム捜索

 商業都市ベルベジン。


 王国に所属していながらも多額の税金を払う事で自治を許されている町だ。人口は20万を数え、大陸東部に当たるこの地域では有数の大都市である。


 なんて話を客車にあったパンフレットで読みつつ、僕はそのベルベジンまでやってきた。

 勇壮な獅子の掘り込みがされたレンガ門を潜り、まっすぐに町の中央広場までやってくると、僕は適当な位置に馬車を停めて御者台から降りた。辺りは馬車や馬車待ちの人たちでごった返している。


 ところでどうして僕が御者台に乗っていたかというと、当の御者が今馬車の中にいるからだ。

 僕がそれとなく扉にノックをすると、慌てて御者が出てきた。

 後から金髪美麗のエルフ皇女、アエラも降りてきた。浮かない顔でショートパンツの腰回りに指を入れ、ズレたらしいショーツの位置を直している。


 なんていうことは無い。

 チップ代がわりにアエラとセックスさせてやったのだ。

 僕にとって第二皇女アエラの価値ってのは、せいぜい銅貨1枚それぐらい。


 結果はまあ満足して頂けたのだろう。御者は生娘みたいに顔を赤くしてブツブツ言っている。人のためになる悪行というのは実に気分がいい。


 ちなみにだけど、もちろんタダやらせただけじゃない。

 ちゃんと今後のことも考えてある。

 賢者プリムを見かけたら、教えてくれるように頼んでおいたのだ。

 下手な情報屋に頼むよりも、沢山の人を乗せて町を行きかう御者の方が知ってる情報が多かったりする。たまにこの広場にやってくる必要はあるけれど、とりあえず情報源が一つ確保できたと言えるだろう。

 賢者プリムの消息が解る日も、そう遠くはない。




 ◇




 それから僕は、アエラの家の前までやってきた。彼女は大通り沿いにある2階建ての、大きな白塗りの館に住んでいる。


 館の正面には庭には広々とした庭園やプールの他、アエラを象ったらしい銅像が建っており、館の屋根にはエルフィニアンの国旗である『編み金雀枝エニシダ』の旗が翻っていた。


 話を聞くと、どうやらここは大使館らしい。アエラはエルフィニアン神聖帝国の第二皇女として『特命全権大使』を拝命しているそうだ。名前だけ聞けばいかにも厚遇されてそうだが、アエラの話を聞くに閑職で事実上の追放刑だそうだ。


 大使館は中も当然豪華だった。

 奥行きのある1階ホールには絨毯が敷き詰められ、超一流のホテルのよう。

 真鍮製のシャンデリアも凝っており、廊下の途中に置かれたサイドテーブルには黄色い花が活けられている。


 ――いつか、僕の屋敷も取り戻したいな。


 その瀟洒なたたずまいに、かつての自分の屋敷を思い浮かべた。


 僕は何もかも失った。

 母親からは捨てられ、クラスメートや義妹からはバカにされ、金、名誉、屋敷、領地の全てを賢者プリムに奪われて今ここに居る。必ずあいつに復讐して、今度こそ幸せになってやるぞ。


 そのためにするべき事が3つある。

 1、プリムの情報を集める。

 2、お金を稼ぐ。

 3、プリムを倒せるだけの力を身に着ける。


 このうち、1の情報に関しては当てが付いている。もちろん御者の事だ。そういえばここは大使館だし、アエラに頼んでみるのも悪くないかもしれない。大使館は外交拠点である事もあって、国内外の情報が集まりやすいのである。

 残るは金と力だが、これはアエラを使って解決するつもりだ。

 アエラは容姿端麗エルフにして皇家の血統ロイヤルブラッド、そして天才拳士だ。


 アエラ自身の貯金は衣服その他、豪華な家具調度品を買い揃えたせいでゼロらしいんだけれど(だから野盗まがいなことまでして金を稼いでいたらしい。なお閑職の給金は生活費その他で消えるそうだ。意外と給料低いのか?)、まあこいつには美貌もあるし皇家の出身ゆえにコネも利く。その圧倒的な強さは対賢者プリム戦でも大いに役立ってくれるはず。


 更にはアエラを孕ませて作った受精卵で僕自身も強くなれば、対賢者戦の勝率はグンと跳ねあがる。僕がこれからやろうとしている事はこれだ。


 しかし、万が一の事態は想定しなければならない。

 なにしろ相手は賢者プリム。

 人類最高峰の『S++』とかいうチート魔力のせいでラブインバースが効きにくいし、しかもその知識ゆえにラブインバースの特性自体も知っている可能性がある。

 スキル以外凡人の僕にとっては、最大最強の敵だ。


 場合によっては、わざとプリムに敗北してみせるぐらいの事は必要になるかもしれない。油断させ、相手の懐に潜り込んで意地汚く勝利を得るのだ。そして僕を騙し、絶望させた報いをあいつに与えてやる。


 そう。

 今度は僕があいつを騙す。あの悪魔の裏を掻き、あいつの全てを僕だけのために捧げさせてやる。あのチンコギンギンなエロ容姿も、賢者の知恵もスキルもみんな僕のもの。そのうえで、あいつの心を永遠に踏みにじり続けてやる。




 ◇




 この町に来て2週間が経った。


 あれから僕は、ずっと大使館に泊まり込んでる。

 正確には大使館脇にあるアエラ専用の別邸だ。


 流石は皇女と言ったところだろう。一人暮らしのくせに新築の一戸建て住宅だ。リビングとキッチンとバスルームが二つずつあり、寝室のベッドはもちろんキングサイズ。追放されて猶この待遇なのだから、故郷ではどれだけの金を使って豪遊していたのか想像もできない。昨日まで野宿ばかりしていた僕からすれば猶更だ。


 そんな超一流のスイートルームで、僕がやる事など決まっていた。

 朝起きてセックス。

 アエラに食事を作らせて、その調理中にセックス。

 朝食しながらずっとアエラの胸や股間を愛撫し続けて、終わったらまたセックス。

 飽きたらアエラに買わせた媚薬ポーションの容器に2人でストローを差し込んで飲みながらまたセックスだ。


 正直キッツい。

 たしかにアエラは綺麗だ。容姿に優れた優越種エルフ族の中でも、その美しさは群を抜いている。大使館は元よりエルフの王宮にだってアエラぐらいの美人はいないだろう。


 そんな極上の女と最高の部屋で、しかもタダで楽しめているのだから幸せなはずなんだけれど、僕は一向にセックスが好きになれなかった。


 理由は幾つかある。


 そもそも僕にとって女ってのは復讐対象だ。

 だから女を残念なメスに叩き堕とすという悦楽は常日頃求めているんだけど、セックスみたいな刹那的快楽はそれほど求めていない。なぜならそれは、僕が復讐を達成した後にこそ初めて味わえるものだからだ。女神エリスとのセックスで冷めていたのもこれが原因だと思う。


 それに加えて、連日連夜に及ぶ性行為。

 拳士のアエラはともかく、凡人の僕にとってエンドレスに続く腰振り運動は肉体的にとても辛く、快楽よりも苦痛が圧倒的に勝っていた。


 そんな僕とは正反対に、アエラはいつも上機嫌で気持ちよさそう。


 最初のころは『イクの怖いぃ!』とか、『恥ずかしいところ見られたくないですわああ!』とか『わたくしがこのようになるのはご主人様だけなんですのよ?』とかってクッソどうでもいいセリフ吐きまくってたクセに、今じゃトロ顔で僕にしがみついてくる。


 それが可愛いなんて思えたのは、ホントに最初の数回きりだった。正直ウザい。こういう女を捕まえては四六時中セックスして子種まで仕込んであげる野生のゴブリンってなんて偉いんだろうと心の底から思う。


 それでも僕はアエラを犯し続けた。

 全ては強くなるため。

 ラブインバースには犯した相手の受精卵を消費することで、相手のスキルをコピーできる能力が付いている。

 ただしその効率はかなり悪い。

 1つのスキルを完全コピーするために必要な受精卵はおよそ100個。まっとうに育てば子供が100人できる計算だ。あっという間にファルス村ができる数である。それだけの数の受精卵をアエラに仕込まなければならない。


 それでも女のスキルを奪えるこの能力は素晴らしかった。

 以前に述べた通り、この世界は酷い女尊男卑なのだ。優れたスキルを与えられて生まれてくるのは女ばかり。男は圧倒的にゴミである。僕や御者なんかは典型的なその例。


 だから僕は無理をしてでもアエラを孕ませている。媚薬に加え排卵ポーションや|赤玉(打ち止め)防止ポーションを合わせて使ったお陰で、昨日ようやくアエラから1つスキルを奪う事が出来た。

 そのスキルとは……!


【薬草採取Ⅰ】


 ……。

 この時ばかりはアエラの首絞めて殺そうかと思った。

 1日平均7回以上の受精、回数にして500を優に越えるセックスをしてようやく手に入ったスキルがこれだったのだから、僕の怒りも当然だろう(排卵ポーション使っても受精率は100パーじゃない)。もう頭おかしくなりそう。いちおう重複するスキルを獲得した場合レベルが上がるみたいで【薬草採取Ⅱ】にはなった。けどなあ?


 ともかく今回の件で解った事だけど、どうやら奪うスキルは選べないらしい。

 いわばアエラはランダムでスキルが手に入る『スキルガチャ』みたいなもの。こんなクソスキルのために金貨1枚もするスキル鑑定紙(町の道具屋で売ってる、自分のスキルを確認するための特殊用紙)を使ってしまった事が非常に悔やまれる。

 ただこの鑑定紙で調べたところ、アエラはとんでもないスキルをいくつも持っていた。


 例えばSS級レアスキルの【レベル上限+1000】や(僕がそうであるように凡人のレベル上限は大抵1~5の範囲であり、二桁あれば冒険者でメシが食える。三桁に到達できるのは継承者とか魔王軍の大幹部クラス。それが四桁!)、S級レアスキルの【取得経験値20倍】、他にもA級スキルの【筋力Ⅲ】【敏捷性Ⅲ】などなど、美味しいスキルが目白押し。


 A級スキルですら、男は1000回人生やり直したって入手不可能。

 その上のS級スキルはもちろん、更にその上のSS級なんてのはもはや世界の至宝とさえ呼べる。他にもこいつは戦闘スキルだって豊富だし、エルフィニアンなんちゃらの奥義だって覚えさえすれば僕でも使える。


 そんな神スキル群を孕ませるだけで入手できるというのはチートだと言っていい。このままアエラとセックスし続ければ、いずれ僕は最強になれるだろう。

 そのための回数を考えると目まいがしてくるけれど。




 それから更に1週間が過ぎた。


 その間僕はひたすらセックスし続ける。

 セックスはいい。

 いや、基本的にはクソだ。

 だけど貰えるスキルの事を考えれば幾らでも勃起できる。とりわけ90回目の受精を確認(近頃直感で解るようになった)した後ぐらいからはかなりのハイテンションになれた。


 何しろ普通なら手に入る事がないレアスキルがあと少しで手に入るのである。前回がクソスキルだった事もあり、その恨みから今回は2倍のスピードでアエラを孕ませてやった。僕のやる気に加え、回復・媚薬・赤玉防止・排卵の各種ポーション漬けの上、鼻から吸引すれば三日三晩眠らずに済むという『目覚めのパウダー』まで使ったお陰。これにはメス皇女も大悦び。ドーピングにドーピングを重ねた結果、アエラから貰えたスキルは……これだ!


【精飲中毒Ⅱ】(説明 精液好きなアナタに!)(効果 体内に飲み込んだ精液をろ過。体液中の魔力を無効化する事で、幾らでもエッチなお汁が飲めるようになります!)

(注意 3日に1度精液を摂取しないと自然消滅)


 ……。

『なああああああにドスケベスキルよこしてんだああああああ!! 漫才やってんじゃねえんだぞおおおおおお!!! 少しは使えるスキルよこせやこのクソザコマゾメス奴隷駄皇女おおおおおおおおああああああッ!!!!!』


 年甲斐もなく叫んでしまった。アエラの首を絞めて。

 すると久々に僕に怒鳴られたからだろう。僕の罵声と首絞めにアエラはベッドの上で透明な鼻水たらしながらガクンガクン体を振って大喜びし出した。


『ずびばぜんうっ! ずびばぜんぅううううううッ!! ちっともご主人様のお役に立てないクソザコマゾメス奴隷駄皇女をどぉぞハメ殺してくださいいいいぃッ!!!!!!!』


 叫びながら半イキして僕に種乞いし始める。その余りの特殊性癖ドMっぷりに僕はドン引きしたんだけど(女神エリスもそうだけど、負い目のあるエリートってドMになる奴多いな)、当然使用人たちもドン引きで、次々暇を貰って故郷の森に帰り始めてしまう始末。廊下で彼らと顔を合わす度に大変気まずい思いをさせられた。


 正直もうウンザリなんだけれど、それでも僕は許してやった。


 というのも、このクソザコバカメスドM肉奴隷ゴミムシ一応皇女(半ギレ)のお陰で、もう1つの課題であった金が解決しつつあったからだ。


 こちらは簡単な話だった。アエラの散財を止めさせたのだ。

 僕が来る以前、アエラは洋服代やら外食費やら遊蕩費等で、毎月5万ゴールド(御者の年収20年分)もの大赤字を大使館に出させていた。ようは遊ぶ金全部大使館にツケである。アホか。


 それを半分ほどに押さえさせ(奴隷といえどもストレス発散は大事だ)、かつアエラが個人で持っていた領地で赤字の出ているものは全て処分した(領地経営のノウハウが役に立った)。そのうえアエラのド変態性癖が露見したおかげで無駄に雇っていた使用人のリストラも進み、あっという間に大使館の収支は黒字化、アエラ個人の貯金も2万ゴールドまで溜まった。


 そしたらなんかよく解らないのだが、大使館の財務担当らしい女ダークエルフに泣きながら『ファルス様はエルフの救世主です!!!』なんて頭を下げられてしまった。

 まったく、自分のための悪行はやるに限る。

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