14 がーるず・えすけーぷと…

 観覧車のゴンドラが地上に到着した瞬間。逃げるようにそこから飛び出したのは、告白に失敗したソラではなく、百花だった。


 実際に、彼女は逃げ出していたのだ。

 ソラから。そして、彼女を傷つけてしまった自分自身から。


 ソラは、本当に自分のことを好きでいてくれた。心の底から自分のことを愛してくれて、その気持ちを、誠実に自分に伝えてくれた。

 それなのに……。それなのに自分は、そんな彼女に応えることが出来なかった。


 今の百花を支配していたのは、圧倒的な罪悪感。そして、後悔の気持ちだった。


 彼女を振ってしまったこと……それ自体が、ツラいんじゃない。

 あんなに誠実に自分を愛してくれた彼女に対して、自分が、誠実でいられなかったこと。彼女は心の底から、千本木百花という一人の人間を見つめてくれていたのに……自分は、そんな彼女を見ようともしなかった。

 初めて会ったときからずっと、彼女は、自分の中に確固たる本当の「好き」を持ち続けていたのに。自分は、何も持っていなかった。本当の「好き」を見つけることから逃げて、見かけだけの「まがいもの」で、自分と周囲を誤魔化してきた。誰も愛さず、誰からも愛されずに一人ぼっちになってしまうことが怖くて……「イケメン好き」なんて愚かな嘘を、つき続けてしまっていた。

 そんな自分が、彼女に愛される資格なんてない。


 いつの間にか、瞳からは大粒の涙がこぼれている。すれ違う人たちが、泣きながら全力で走り抜ける百花のことを、何事かと振り返ったりしている。それでも、彼女は逃げなければならなかった。ただ自暴自棄に任せて、あてもなく、ひたすらに遊園地内を走り続けずにはいられなかった。

 大通りを走り、小船が通る川にかかるアーチの橋を渡り、滅多に人が来ないようなさびれた小道を抜け、曲がり角を曲がって……、


「キャッ!」「わっ⁉」


 あまり前を見ずに夢中で走っていた百花は、そこで、勢いよく誰かにぶつかってしまった。

「いたた……」

 ぶつかった反動で派手に尻もちをついてしまう。

 痛むお尻に顔をゆがめながら、自分が突き飛ばしてしまったはずの人物に、声をかける。

「ご、ごめんなさい⁉ ワタクシ、ちゃんと前を確認せずに走っていたものだから……」

「いや、大丈夫だよ」

 しかし、既に立ち上がっていたその人物は、百花に優しく微笑みながら、手を差し伸べていた。

「キミこそ、大丈夫? 良かったら、ボクの手につかまりなよ?」

「え……。あ、貴方は……」


 それは、百花にとってあまりにも驚くべき人物だった。

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