05 がーるず・あみゅーずど♪
「レディース&
「ま、まぁ……」
パーク内に足を踏み入れた百花はその瞬間……美しい装飾が施された建築物、見ているだけで笑顔がこぼれてくるような愛らしいマスコットキャラクターたち、その他の様々な幻想的な風景に、目を奪われてしまった。
もともと、過去の『やらかし』のせいで行動範囲が厳しく制限されていた百花。その上、元来の性格が災いして友人らしい友人を作ることも出来ず、これまでは休日でも家の用事以外で外出することなんてほとんどなかった。だから、こんなテーマパークに来るのも、実は初めてだったのだ。
そんな彼女にとって、その光景はあまりにも日常離れした、心を揺り動かすものだった。
「こ、こ、これが……これが……」
「ど、どう……かな?」
彼女の隣に並ぶソラはそんな彼女の様子に満足そうに――むしろ、期待以上のリアクションをもらえて少し気恥ずかしいくらいに――、微笑んでいる。
「百花ちゃん、きっと普段はこういうところ来ないから……楽しんでもらえるんじゃないかな、って思って……」
「こんな……こんなの……って……」
冒頭のアナウンスのとおり、夢の魔法にかかって感動と興奮で満たされているかのような百花。うるんだ瞳で、楽しそうにキョロキョロと周囲を見回している。パークの入り口でこれだけ満足してもらえるなら、何かアトラクションでも乗ったなら、彼女のテンションはもはや限界突破してしまうだろう。
そうなれば、おのずと百花のソラに対する印象もよくなり、この「デート」の最後にする予定の愛の告白の成功率も上がるはず……。そんな予想が自信を与えたのか、ソラはいまだに立ち尽くしている百花の手を取って、力強く言った。
「じゃあ百花ちゃん! そろそろ、一つ目のアトラクションのジェットコースターに……」
しかし……、
「こ、こんなのって…………イ……」
「……え?」
残念お嬢様の千本木百花が、そんな簡単に攻略できるはずはなかった。
「イ……イ……イ……イケメン♂パラダイスですわぁーっ!」
「あ、あれれれ……?」
ソラを置いて、突然走り出す百花。
一直線に、すぐ近くの土産物屋の前で風船を配っていたパークのマスコットキャラクターのキグルミ――鷹の子供がモチーフの、イーグレッ子ちゃん――のところまでやってくると、そのモフモフしたクッション素材の体に、思い切り抱きついた。
「う、うぉっ⁉」
突然、百花からタックルに近い形で抱きつかれて、マスコットの中の人は
「……
「ええ! ええ! もちろん言われなくても、そうさせてもらいますわよっ! ワタクシが夢にまで見た、このイケメンだらけの楽園……イケメン♂パラダイスで!」
「イ、イケ……?」
「ああ! ああ! 右を見ても、左を見ても、イケメンイケメンイケメン……。それでも、客や従業員がイケメンなことは、ある程度予想の範囲内というか。それなりに、覚悟はできていたのですけれど……ま、まさか、こんなマスコットキャラクターまでがイケメンになってるなんてっ⁉ ワタクシ、完全に意表を突かれてしまいましたわっ! アニメとかドラマとかでよく、『普段高級料理ばかり食べている世間知らずのお嬢様が、ふとしたきっかけで食べた大衆食堂のラーメンに感動する』なんてシーンがありますけれど……今、まさにその気分ですわっ! 『おせちもいいけどカレーもね』というか⁉ 『おやつは別腹』というか⁉ ケモいイケメンマスコットキャラには、人間のイケメンとはまた違う
「も、百花ちゃん……? そ、そのキャラが、そんなに気に入ったのかな……?」
唖然としているソラを
そう。今の彼女の目には、人間の女性が好みの男性に見える……だけでなく、コミカルな
「
激しいハグを続けている百花を、必死に引きはがそうとしている
「ああん! そんな、種族の違いなんて気にしなくてもよいのですわよっ⁉ 愛さえあれば、人間のワタクシとキャラクターの貴方だって、ゴールイン出来ますわっ! ほら、『美女と野獣』ということわざだってあるじゃありませんのっ⁉」
「い、いや……それは、
「さあ! 今こそ貴方の野獣性を、この絶世の美女のワタクシに、ぶつけてごらんなさい!」
「
「おーっほっほっほーっ!」
「え、えぇぇ……」
身の危険を感じて、既に完全に中の人のままになってしまって、百花から逃げようとしている
『まさか、人間だけでなく人外のマスコットキャラまでイケメンに見ることが出来るとはのー……。魔法をかけた本人のわしでも、これにはちょっと驚きだったのじゃー』
その残念さは、彼女の頭の中にいる悪魔のアシュタさえも、ドン引きさせるほどだった。
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