第12話 腐食の遺跡は危険だな


 腐食の遺跡に向かう、道中。アイスは、かなり上機嫌だった。


「エヘヘヘヘーーーー」


 ユウから貰った、指輪を何度も天にかざしては、にやけて笑っていた。


『良いのか? あのままだと、怪我をするぞ』


「う〜ん、あげた手前、下手な事は言えないからな、困った」


 魔道士ギルドを出た後、アイスは、人にぶつかるわ、馬車にぶつかりそうになるわ、危なかった。


「しょうがないな……アイス!」


「なんですか? えっ?」


 アイスが左手を見て危ないなら、左手を握ればいいだけだ。


「ほら、行くぞ」


「もう、わかりました」


『全く、やれやれじゃな』


 指輪を見るのを止める為に、ずっとアイスの手を握っていた。だか、赤いガントレッドは、まるで悪魔の手みたいな形だ。痛くないか聞いた所、大丈夫らしい。


「変わったガントレッドですよね。何でも、魔力を込めて、直接ぶつける事が出来るみたいですよ」


「惹かれて買ったからな、大事に使わないとな」


『それは本来、武術家の武器じゃ。ワシが見る限り一級品の武器じゃ。大切にした方がいい』


 クロスがこんな事を言うのは、初めてだ。相当、良い物みたいだな、オレの直感も馬鹿に出来ない。


 ゴブリンの群れが来た時に、ガントレッドを試したが恐ろしい威力だった。


 殴ったゴブリンの上半身が、パンっ! と弾けてミンチになり、吹き飛んだ。


 ミンチになったゴブリンを見て、他のゴブリンは恐怖の余り、腰を抜かしていた。


 後は、アイスが、追尾の高い魔法弾で全滅させていた。


「装備を変えたからかな、威力が上がった気がするんだよ」


「当然ですよ。ユウは、今まで魔力循環率がない装備だったんですよ。普通は、かなり精神力と体力を消耗して、すぐに倒れてもおかしくないんです」


 アイスの説明によると、電気の銅線みたいに体中に魔力を巡らせないと大量に魔力を消耗するようだが、オレにはクロスがいた。クロスが循環していたらしい。


「まったく、本当にチートな存在だな。クロスは……」


『ワシは、最強の魔導書だからな、当然じゃ』


 クロスが、自信満々に言っていた。


 魔物を倒しながら、徒歩で3日かけて腐食の遺跡に着いた。


 遺跡は、石造りの神殿みたいで森の中に、ギリシャ神殿が突然現れたように思える程、掃除されて、綺麗だったが辺りには、物が腐ったような臭いが充満していた。


「酷い、匂いだな。でも、遺跡は綺麗だな、誰かいるんじゃないか?」


「侵入禁止エリアですよ! いるわけ無いですよ。規律違反は、登録破棄だってあるんです」


『人間ではなく、魔物が掃除しているとしたら、どうだ……』


 クロスの言葉に、オレとアイスは息を呑んだ。


 魔物が掃除をしているなら、魔物を操る者がいる事になる。


「可能性は高いな。確かめに行くしか、ないだろうな」


 遺跡に入り、地下と上へ登る階段がある。


「まずは、地下から行くか」


『地下で良いのか?』


「ああ……」


 定番だと上にボスがいるはず、地下には珍しいアイテムや情報があるのが鉄板だ。


「オレは、全マップ攻略してからボス戦をするタイプだ」


「攻略? ボス戦?」


 アイスは、オレが言っている意味が分からず困惑していた。


『能天気じゃのう……』


 地下に行く途中に、スケルトンやゾンビ等のアンデットが現れたが、光属性のブラストで頭部を破壊していく。


「アンデットが多いから、腐食の遺跡なのか?」


「そうだったら、楽かも知れませんね」


 アンデットだけだと、光系の魔法を連射しまくればすぐに終わる。


『高ランク冒険者が、束になっても解決出来ないのだ、そんな簡単な筈がないわい』


 地下には、濃い鉄の臭いが充満し、牢獄があった。


「これは、酷いない……」


 死んでから、余り経ってない物からミイラの様に干からびた死体まで、鎖に繋がっていた。


「ひどい……」


「まるで……拷問室だな……悪趣味だ」


「誰か、誰か居るのか?」


 1番奥にある死体の山から、声が聞こえる。

 死体の山から、誰かが這い出て来た。


「た、助かったのか。わ、私は、アメリア王国の騎士団長 リューズ・ハイストだ。は、早く逃げよう。ヤツが来る前に……」


 頭から足の先まで血塗れのリューズは、四つん這いになりながら、ガタガタ震えていたが、多分、元はカッコいい人なんだろうな。


「アメリア王国って、ここの国?」


「いやいや、何で知らないですか? ここは、アメリア王国ですよ」


 アイスが信じられないって顔してるけど、国名なんて、聞いたの初めてなんだから、仕方ないだろ。


「所で、リューズさんだっけ、ヤツって誰の事なのか教えてくれない?」


「えっ? お前たちは、知らずに来たのか? ここの主、"左腕乃浸食者さわんのしんしょくしゃ"を知らずに? なんて、かわいそうなんだ、君たちは……」


 何故か、血塗れでボロボロのリューズに、オレ達はすごく同情された。

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