第9話 指定依頼は注意だな


 宿屋を後にしてから、2人でギルドに向かった。

 ギルドで大量の素材を渡したあと、ギルドマスターのアフターに呼び止められた。


「あれだけの魔物を倒し、膨大な魔力で千以上の魔物を収納する事を見込んで、2人に依頼したい件があります」


 真面目な顔のアフターに、デレデレでオレの腕に絡みつくアイス。


「ユウたっら、朝からあんなに激しく……ウフフフフ」


 呟くアイスを無視して、アフターに話の続きをしてもらった。


「彼女は、いつも、そんな感じなのかね……まぁいい、実は、ギガント街の東にある森に、妙な噂が出始めていてね」


「妙な噂?」


 アフターが、葉巻に火をつけてから、一服すると話を続けた。


 ギガント街の東には、魔女の森があった。いつ頃からか、魔女の森に四足獣が現れ、馬車や旅人が襲われる事件が多発していた。高ランク冒険者が向かったが、四足獣は強く。沢山の冒険者が死亡した。

 かろうじて生きていた。冒険者の話だと、三っ首のケルベロスが居たそうだ。


「ケルベロスは、地獄の番犬と呼ばれる程の高ランクな魔物だ。正直、Aランク以上じゃないと話にならない」


「いいのか? オレ達は低ランクだぞ」


「君達の実力は、恐らくAやSランク並みだと考えている。たまにいるんだ、実力が高いが、ランクが低い人間が……数十年に一度、あるか、ないかだかね」


 見た目からは、想像がつかなそうな悪い笑みを浮かべながら、アフターは葉巻をふかす。


 葉巻を口にした瞬間から、雰囲気がガラッと変わり、まるでマフィアのボスのようだった。


「私は、こう見えてハーフエルフだ。実力はないが、強いヤツは見たらわかる! 自慢じゃないがね、新人発掘だけで、ギルドマスターまで登り詰めた男だ!」


 実力はなくても、ギルドマスターになれるんだな。こうゆう人もいるんだな。


「もちろん、特別報酬を付けよう。成功のあかつきには、Aランクにしよう。悪い話ではないはすだ」


「いいのか? いきなりAランクなんて……」


 確かに、悪い話じゃない。ちまちま、ランクを上げなくていいし、Aランクになれば、特権が貰えるらしい。


「アイスどうする?」


「私は、どちらでも……ユウの匂いは、落ち着きます」


 アイスが、オレの服に顔をうづめながら、フガフガと嗅いでいたが、深く考えないようにした。


『ユウ、この依頼を受けるんじゃ。ひょとしたら、面白い物が見れるかもしれん』


 クロスが、ニャとしてるのが、目に浮かぶような言い方に、嫌な予感がするが、断る理由が思い浮かばなかった。


「この依頼、受けるよ」


「君ならそう言ってくれると、思っていたよ。はっはははは……」


 アフターの高笑いが、ギルドに響いていた。


「では2人共、よろしくお願いしますね」


 葉巻を消したアフターに見送られて、部屋を出た。アフターがギルドの職員に、下まで案内するようにしてくれた。


「すみません。内のギルドマスター、葉巻を吸うといつも、あんな調子で……アレさえなければ、いい人何ですか」


「いつも、あんな感じなんですか?」


「はい。ただ、冒険者からは人気が高い人なんですよ。貴方達もいつも、そんな感じなんですか?」


 笑顔に怒りが見える、ギルドのお姉さんの視線の先には、オレの腕に自分の胸を押し付けながら歩く、アイスがいた。


「ユウ……」


 アイスを引き剥がすと、手を繋いだ。


「アイス、人がいる時はこれで我慢しなさい」


 一瞬、驚いていたがすぐにニヤと笑い。


「わかりました。我慢してあげます」


 オレとアイスのやり取りを見ていた。ギルドのお姉さんが「チッ!」と、盛大な舌打ちをしていた。


 買い物を済ませてから、魔女の森に入ったら、すぐに異変に気付いた。


「魔物どころか、動物や鳥の気配もないぞ」


「鳥のさえずりや虫の音なんかも、聞こえませんよ!」


『やはりな、ユウ! アイス! 気を引き締めて掛かるぞ、面白いヤツらの登場じゃ』


 三つ首のケルベロスに、二つ頭のヘルバウンドに、2つの角を持ち、頭ツルツルで顎髭に、マントを着けた貴族のような格好の男が、ケルベロスとヘルバウンドにチェーンをつけて、散歩をしていた。


「え? ペット? 鬼?」


 オレの疑問に、クロスがすぐに答えてくれた。


『いや、魔族じゃ』


「魔族って、悪魔かっ!」


「悪魔なんて、Sランクですよ! ユウ!」


 事態の深刻さに、焦るアイスが叫んだ。


「なんだ、お前達は? ケロちゃんとヘルちゃんの散歩中だから、邪魔したら潰すぞ!」


 田舎のヤンキーばりの、ガンを飛ばしてくる。


「本当に魔族なのか? オレには、コスプレした田舎のヤンキーにしか、見えないぞ」


「あん? ふざけた事をいいやがるな人間!」


 悪魔が大きく振りかぶった、右ストレートを放った。


ドッガーーーーーー!


 左に大きく交わしたが、爆音と共に、オレの後ろにあった、森が地面から抉れて、新しい道が出来ていた。


「コイツは、やばいな!」


 今回の件は、Aランクでは割に合わない事だけは、理解できた。

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