第9話 新たな交友関係

 現れたのは感じ良く染めた髪をポニーテールにした、大柄で、というよりふくよかと言った方がよい、元気の良い女性。レモン色のパーカーにジーンズを履いていた。


「これが僕のカミさんの佳織。こちらがさっき話した清田さん。清ちゃんでいいよね?」


 相変わらず、こちらの返事も待たない感じで、ニックネームが決まった。右田主任は奥さんを紹介する時、何だか自慢気に見えた。


「はじめまして。今日はご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。主任さんや弟さんにも」


「はじめまして、清ちゃん。何言ってんの。遠慮しなくていいのよ。困った時はお互い様。もし知った人が倒れたのに置いてけぼりにして帰って来てたら、ダンナも弟も私からすっごく叱られるとこだったわよ」


 佳織さんはゲンコツを作って見せた。ちょっとオバサンなアクション。美人とは言えないけど華がある。笑顔が温かく、その言葉にも瞳にも裏のない優しさが見える女性ひと

 私は主任のさっきの自慢気な態度を思い出した。男性で、割と優男型美形でありつつこういう女性の魅力を分かっている人って貴重かもしれない。あの主任さんは軽々しそうな外見からは推し量れない賢いヒトなのではと思い始めた。そう言う自分が見た目基準なんだと反省しながら。


 佳織さんは車の後部座席に毛布を用意してくれていた。トミボンは友人とのシェアハウスに住んでいるらしく、そこで別れた。


「クーラー効きすぎていない? 温度設定変えるから言ってね。気分が悪かったら横になるといいわよ」

 佳織さんは細やかな気遣いをしてくれる。助手席の主任は妻の指示に従いながら何でも行動しているように見えた。

 その総合病院のある町から私の住むアパートまでは車で二、三十分程度。その間、私はさっきトミボンが別れ際に私に話した事をもう一度頭の中で整理していた。


 トミボンは不動産屋の夏菜ちゃんには、まだ私に隠している事があるのではないかと疑っていた。彼女が何か真実に触れる事柄を知っていそうだと。長い事、一つの町に住んで、同級生が行方不明になっていれば何らかの推測について必ず聞いているはずだと言った。ただ親の商売の事があって何もかもを話す訳にはいかなかったのだろうとも。

 トミボンは十三年前の行方不明の事件について調べるつもりだと言った。


 私のアパートの前に車が停まった時、香織さんはドアの所まで送ろうかと言ってくれたけど、足元はふらつかないから大丈夫そうだった。


「ありがとうございます。私、もし電車で二人がいなかったらと思うと…」


「いいのよ。気にしない気にしない。今度ゴハンでも食べにおいで。ダンナの職場の人達もよく来るの」


 その夜、この三日間でできた不思議な交友について考えてみた。まるで魔法の力が働いたようにさえ感じられる。そして十三年前の夏にも同じように感じていた事を思い出していた。夏ってそういう季節かもしれないと思った。

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