第12話 海のジンクス

 右田主任と佳織さんの息子達は双子だった。名前は凜空りく風佳ふうか。割とキラキラがかった名前だ。進学塾というからもっと年上かと思ったら小学三年生の腕白まっ盛りで、海岸ではしゃぎ回っている。

 この海岸は場所が割と辺鄙へんぴで、また午後から天気が崩れる予報が出ている事もあって、景観の美しさの割に人は多くない。数組の家族連れやカップルが海岸沿いでバーベキューをしたり、波打ち際で海を眺めているだけだ。


「何かさびしいね、人が少なくて。と言ってもあの子達、全くそんなわびしい雰囲気感じてないね。この間は薬局のみんなで家族参加のバーベキューをしたんだ。姉貴やあの子達も誘ってさ。その日はもっと賑わってたんだけどな」

とトミボン。


「リリー薬局の人達って本当に仲がいいよね? 薬局長さんの家族も来てたの? よくケーキを買って帰ってるよね」


「薬局長の? ああ…あれは習慣だね。みかりんは姪っ子とお祖母ちゃんを連れて来てたんだよ。変わってるだろ?」


「うん、変わってる」


 私はかつてトミボンとみかりんが付き合っている疑惑を持っていた事を思い出した。今ではそれは誤解と判り、恥ずかしい。


「もうすぐお盆だから海に行くなら今のうちなのにね」

と私。


「え? なぜ?」


「なぜって、お盆過ぎたら海へはあまり行くものではないと祖父母からはよく言われてたから。だから夏の終わりの海に行くと縁起が悪いと思ってたの」


「それジンクス。夏の終わりは特殊な波が起こったり台風がよく来て危ない事が多いし、クラゲも発生して泳いでいて足がしびれたりするから言うだけだよね。そういった危険に備えていれば大丈夫。ましてやこんな海水浴用でない海はね」 


「そうなのかぁ。昔おばさんから誘ってもらった時も実はそんなジンクスが心に引っかかってたんだ。それでいて今も行かなかった事、ウジウジしてる。だめだなぁ」


「誰でもそんなもんじゃない?」


「そうかな。トミボンのお姉さんはサッパリしていそう」


「そう、どちらかと言うとね」


「どちらかと言わなくてもね。え? 笑ってる?」


「いや、海に行く約束をしてすっぽかされた女の子の話があるんだ」


「どんな話?」

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