第13話 海岸で待ちぼうけの女の子

「女の子は中学生活の三年間、ずっと一人の男子に片想いしてたんだ。根が単純だからずっと好き好きばかり言って、心理戦なんてありもしない。男子は完全に引き気味で、距離置く作戦をとった。『あいつ、ホントいい迷惑』と仲間内では結構ヒドい言い方もしたりして。それでも何かと便利だから利用してやろうとある程度まで友達付き合いしてたんだ」


「何かと便利って?」


「その女の子は先生からの信用はバツグンだし、生徒の間でも顔が広い。宿題や教科書を忘れた時にも頼って何とかしてもらった」


「何か聞いたような話、それも最近…」


「それでも男子にとってそのコは全く好みのタイプではない。何せ彼の好きなタイプはハリウッド映画に出てくる美少女女優だったから」


「で、海へ行ったのは?」


「女の子はその男子の事を諦めようと思ったけど、どうせなら最後に一か八かデートに誘おうと思った。で、高校入試でお互い志望校に合格したら春の海に一緒に行こうって約束を半ば無理矢理取り付けた」


「それ、結末見えてきた…」


「春の海辺はその女の子の憧れだったんだ。でも待っても待っても彼女の片想いしている男子はやって来ない」

トミボンは遠く水平線の辺りをを見ていた。

「初めは、電車に乗り遅れたんだろうかとか、ゲームのやり過ぎで寝坊したのだろうかとか、ペットの老犬が病気になったのだろうかとか、はたまた交通事故に巻き込まれたのではないだろうかとか心配していたんだけど、さすがに五時間も待ったらこれはすっぽかされたんだと感づいた」


「五時間…。泣いたよね、きっと」


「いや、笑ったんだよ」


「は?」


「何か、急に可笑しくなってきたんだって。それで思い切り笑ったらお腹が空いて、それでお昼に彼の分までと大量に作ってきてたサンドイッチを一人で食べて、用意してきた水筒のオレンジジュースを一人で飲んだんだ。そして潮風に吹かれながらうららかな春の海の風景を、遠くの島々や灯台や、そんなのをぼんやり眺めていたら、片想いの事はとても良い思い出だけどムクムク雲みたいになって水色の空を飛んでいく気がしたって」


「やっぱり恨まなかったのね」


「女の子には夢もあったし、それからはその夢に向かって頑張ろうと決めたんだ」


「ね、その健気けなげな女の子って誰?」


「姉ちゃん」


「えー! やっぱり」


「気付いてた?」


「うん。じゃあお義兄さんは昔振った女の子を奥さんにしたんだ。どういう経緯で?」


「それは当事者の義兄さんにいつか直接聞いた方がいいね」





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