第22話
瞬と逸希、2人の協力によって真耶の死は何度も回避され、時間は一方向にまっすぐ進んだ。短い夏が終わり、体育祭と文化祭がすむと、2年生の修学旅行の日はもう間近だった。
瞬と逸希は繰り返し作戦を練った。
「真耶を行かせないことにするのは?」
瞬の提案はいつも素直で単純だった。
「真耶だけは救えるかもしれない。でも、修学旅行に参加する大多数の生徒の危険は残る」
「修学旅行を中止にできないかな」
「俺の時は大雨の中でも結局強行されたんだ。宿泊地で土砂崩れが起きて大惨事になりますって言って、信じてくれるか? せいぜい注意深くなってくれるくらいだろう」
「2個上の先輩の代も、インフルエンザが大流行してたのに実施されたらしいしなぁ」
話し合いは必ず逸希の部屋で行われた。瞬の部屋は真耶の部屋と隣接している。
「そもそも不確定な要素が多すぎる。臨機応変に対応しようと思ったら、あんまりガチガチに策を固めない方がいいのかも」
瞬の言葉を聞いた逸希は、しばらく無言で考えたあと、ふいに立ち上がり、卓上のノートパソコンを開いた。
後ろから瞬が画面をのぞき込む。
逸希はグーグルマップを開き、住所を入力した。
「俺たちが泊まる旅館。ここだ」
空撮の写真のモードに切り替える。宿泊予定の旅館は、山に沿うような形で建っていた。
「旅館は、本館と別館があって、俺たちは別館にいた。この、南側の方。本館より立地が高いだろ。浸水の心配があったから、こっちにいるようにって先生たちが決めたけど」
逸希はマウスカーソルを操作し、南側の場所をおおまかに示した。
「土砂崩れはだいたいこの辺りで起きたと思う」
とにかく別館が巻き込まれたということは確かだ。
「こっち、本館の方は? 流されなかったのか?」
瞬が聞くと、逸希は額に手を当てた。
暗い夜。豪雨。視界が悪かった。風景として覚えていることは多くない。瓦礫の山と動かない人間の姿がフラッシュバックする。白い光に照らされて、それだけははっきりと。
「そうだ。光。停電したけど、光が見えた。懐中電灯じゃない、建物の光。きっとすぐに電気は復旧したんだ」
ハッと瞬の顔を見る。
「この辺りに民家はなかった。強く周辺を照らせる建物はひとつだ」
逸希はカーソルで北側の本館を丸く囲んだ。
「旅館に非常用の発電機があったのかもしれない」
瞬はテーブルに置いていた自分のスマホで、何かを調べ始めた。
「逸希、これ見て。本館は××年に新しく建て替えられたって書いてある」
宿泊予定の旅館のホームページだった。逸希もスマホの画面を見る。
「本館は、築年数が新しいから流されなかってことか?」
「わからない。可能性はある」
「確かに別館はかなり古い感じの作りだったな」
封じ込めていた記憶の糸を解くと、様々なことが思い出された。
逸希がノートパソコンの方でマップを拡大する。
「本館と別館は、渡り廊下一本で繋がってる。土砂崩れが起きる前に全員こっちに避難できれば」
瞬は無言で一度うなずいた。
「サイレンが鳴る前から、注意報や警報が出てるのはテレビでわかったんだろ? 先生たちも危機感は持っていたはずだ。判断を誤ったのかもしれない」
「俺たちの意見を通すのか? 本館に避難すべきだって」
「通すしかない。俺たちになにかあって困るのは先生たちだ」
「新谷あたりなら、ちゃんと聞いてくれるかもしれないな」
「あれ。あ、そっか。タイムリープしてるから、逸希も新谷先生のことちゃんと知ってるんだな。俺も同じこと思ったよ」
理由は真耶の担任だということだけではない。新谷は生徒のことをよく見ている。ちゃんと尊重して意見を聞いてくれる。
「もし駄目だったら、俺たちでみんなを避難させるんだ。真耶だけじゃない。誰も死なせない。絶対に」
瞬と逸希はうなずき合った。
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