第30話
事故から15日目。金曜日の夕方。
瞬と逸希、結子と千世太は、揃って病室にいた。
結子が買ってきた花を花瓶に移し、学校でのことを真耶に聞かせ、ひと息ついた頃。
「なぁ、これやり直さない?」
突然そう言ったのは、千世太だった。
時が止まったかのように場が凍りつく。
「は?」
やっとのことで逸希はそれだけ口にすることができた。自分の聞きまちがいではないかと思う。しかし千世太は平然と話を続けた。
「いや、今日で15日目だろ。戻すなら早い方がいいと思って」
「千世ちゃん?」
結子が訝しげな顔をする。
瞬は千世太に食ってかかりそうな勢いで聞いた。
「お前、知ってるのか。この力のこと」
ははは、と場に不似合いな笑い声が帰ってくる。
「瞬が俺に言ったんじゃん。実はタイムリープしてるんだぁって。まあその前から知ってたけど。つうかそもそものきっかけを作ったのは俺だし」
千世太は手近にあった椅子に腰かけ、昏々と眠り続ける真耶の顔を覗き込んだ。
「不吉な子だよな。何回も死にやがって。お前ら2人は本当にかわいそうだ」
皮肉な声とは裏腹に、真耶を見るその目は穏やかだった。
「でも、死なれちゃ困るんだ。この子にはどうしても生きてもらわないといけない」
千世太は視線を瞬に向けた。
「真耶は世界を救うんだ。1000年以上先の、未来の世界を」
なにも知らない結子が真っ先に反応した。
「なに言ってんの? 冗談?」
「結子には話してねえよ。逸希と瞬、お前ら2人だけ聞いてろ」
「はぁ? なに。なんで私だけ仲間外れなの」
「結子」
瞬が結子を制した。そうせずにいられないほど真剣だった。千世太はなにかを知っている。瞬と逸希が考えてもさっぱりわからなかったことを、教えてくれるかもしれない。結子は静かになった。瞬は千世太に続きをうながした。
「真耶は、この世界で15年以上生きなくちゃいけない。子孫を残すとか、なにか成し遂げるとか、そんなのはどうでもいい。ただ15年以上真耶が生きてさえいれば、その事実が波及していって、最終的に未来の世界を救う。聞いたことくらいあるだろ。バタフライ・エフェクトだ」
蝶の羽ばたきひとつで世界が大きく変わるという話。瞬も確かに知っていた。
真耶が世界を救う。
にわかには信じられない。1000年後の未来などと言われるとなおさら現実味が薄い。
千世太はわざとらしくこほんと咳ばらいをして、大げさに胸を張った。
「なんと俺はこの時代の人間じゃない。千世太の身体を借りて存在する未来人だ」
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