第11話
新谷が話し終えた時、瞬は自分で自分を憎く思った。間接的とはいえ、真耶は瞬のことを理由に悩んでいる。
「真耶さんは、2人のお兄ちゃんのことをとても尊敬しているんでしょうね。その裏返しで自分に自信がなくなっている」
新谷は瞬が悪いわけではないと庇ってくれている。それでも自分を責めたかった。
「真耶さん、帰りが遅かったり、一人で遠くまで出かけていたりとか、そういうことはない?」
「わかりません。逸希……弟に聞いてみます」
瞬は平日の夜は塾に行っている。真耶と家で話すことはあまりない。心から自分に嫌気がさした。
「そっか。ありがとう」
「いえ。あの。先生」
色んな思いがあった。だが1番に考えたことはひとつだ。教えて欲しいことがあった。
「ぼくは、妹のためになにかしてあげられるでしょうか」
新谷は再度黒い眼鏡の縁を持ち上げたあと、優しく微笑んだ。真耶が信頼するのもわかる。人のよさそうな笑顔だ。
「その気持ちをもって接してあげるだけでも充分だと思うよ。きっといつか、なんらかの形で思いは真耶さんに伝わります」
「そう、だといいです、けど」
適当にはぐらかされた気がする。具体的なことはなにも言っていない。自分で考えろということか。思考を巡らせていると、新谷が電話に呼ばれた。
「それじゃあ、瞬くん。気をつけて帰って」
新谷は電話口に立った。
ちょうどいいタイミングだ。瞬は新谷に礼をして応接室を出た。
沈んだ気持ちで廊下を歩き出すと、10メートルも進まない内に背後でガラガラと大げさに扉が開く音が聞こえた。
「瞬くん!」
振り返る。職員室の扉が開いて、中から新谷が出てきた。顔が真っ白だった。慌てている。様子がおかしい。
新谷は瞬の腕を掴んだ。
「真耶さんが」
新谷は震える声で瞬に伝えた。
真耶が原付バイクの後ろに乗っていて、事故にあったという。
瞬は即座に病院に駆け付けたが、到着した時にはもう真耶の息はなかった。
真耶は死んだ。また。
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