短編集:メイアを見付けた日(10)
勝敗は五分五分と言いつつも、妙に自信ありげに笑う命彦。
その命彦の笑顔を見つつ、戸惑いがちにメイアが問う。
「……シロンの修復に手を貸してくれた借りもあるし、いいわ。命彦の提案を受ける。私は具体的にどうすればいいの?」
「あ、修復の件は忘れろよ。こっちは別に貸しにしたつもりもねえし。俺は見所があるっぽい魔法未修者を利用して、後々学校を荒らすであろう魔法予修者を
メイアに気を遣わせぬための配慮だろう。楽しそうにそう笑って言う命彦が、自分のポマコンを見た。
言い方はぶっきらぼうだが優しい命彦へ少し好感を抱きつつ、メイアが問う。
「授業の予定? 次の魔法実習は明日だけど? あ、でも模擬戦闘が終わった後だから、多分早くても次の模擬戦闘は、来週の水曜だと思うわ。修理期間を設ける筈だから」
「んー……そっちも知りたかったんだが、今調べてるのは俺達の授業予定の方だ」
命彦の応答に、勇子と空太が命彦の操作するポマコンをのぞき込み、疑問符を浮かべる。
「ウチらの授業予定? 今週はもう魔法関係の
「そうだね。木曜以降はどの魔法学科もその筈だけど……うん? 命彦、施設利用の予定を見てるの?」
「ああ、第1体育館を使いてえから、使用予定表を見てるんだよ」
『あとは、訓練型魔法機械の予約も見てます……ふむ? 対巨人種用のモノは、すでに予約を終えていますね?』
「どうしたもんかね? 教官に相談するか、
『はい。事情を説明して、早期に手配してもらうべきです』
命彦の考えをミサヤはもう理解してるらしい。2人でどんどん話を進めている。
「第1体育館……
「規格比率を合わせる、ねえ?」
互いに顔を見合わせた勇子と空太も、不意に命彦の考えに気付いたらしい。
「あ、そういうことか!」
「確かに、これは実現したらシロンにとって最良の見稽古だ」
ニンマリと笑う勇子と空太を見て、1人置いてけぼりのメイアは問うた。
「え、あの、どういうこと? 私にも分かるように説明してくれる?」
「分かったから、もう少し待ってくれ。んー……とりあえず、施設は放課後に使えそうだ。明後日に使用予約申請をしとこう。訓練用の魔法機械については、明日教官に相談するとして、俺の考えを聞かせようか?」
「ええ、お願い」
メイアが小さく首を振ると、命彦が語る。
「具体的にどうするかって話だが、まず最初に、シロンには俺の戦闘を見稽古で体験させる」
「見稽古って、あの武道とかで言う、高段者や模範者の戦ってる姿を見て、その技術を学習するモノよね?」
「ああ。武道の見稽古で重要とされるのは、見てる者が、戦ってる高段者や模範者を、自分に置き換えられるかどうかってことだ」
「自分に、置き換える?」
少し分かりにくそうに問い返すメイアに、勇子と空太が補足説明した。
「簡単に言えばや、体格や身体の動かし方。こういう格闘に必要と思える要素が、自分とよう似とる高段者や模範者の技法ほど、自分にとって真似しやすい、盗みやすいっちゅうこっちゃ。自分に似た高段者や模範者ほど、自分に置き換えやすいのは当然のことやろ?」
「あ、確かに……」
「ましてや、これから自分が戦おうとしてる相手そっくりのモノと、自分に似た特徴を持つ高段者や模範者の戦いであれば、自分が戦う際の仮想戦闘に置き換えられるよね? 得られる戦闘情報は相当のモノだよ」
メイアの眼に理解の色が宿った。
「え、ええ! シロンは全長40cmで……」
「相手の〈オーガボーグ〉は4mほどだ。規格比率は10倍。つまり、規格比率10倍の人型の相手と俺との戦いを見せれば」
「シロンにとっても、対〈オーガボーグ〉戦の仮想戦闘に見立てられる?」
メイアが言うと命彦達が、フッと笑って縦に首を振った。
「「「その通り」」」
命彦の考えを理解して、シロンにとっては見稽古が合理的で実のあるモノだと思う一方、メイアはある問題点に気付いた。
「で、でも命彦と体格差が10倍の相手って……」
「ふーむ。〈オーガボーグ〉と同じく人型と考えると、相手は巨人種魔獣が妥当やろね、普通は?」
勇子の発言にメイアが慌てて命彦へ問う。
「巨人種魔獣……ま、まさかとは思うけど、魔竜に比肩する高位魔獣と1対1で戦うの、命彦?」
「バカ言え、ミサヤ抜きで高位魔獣と戦うとか冗談じゃねえよ。
『そもそもこの私が戦わせません、言葉に気を付けることです、メイア』
「あ、えと、ごめん」
膝の上でお座りして黙って話を聞いていたミサヤが、この時ばかりは冷たい思念で答える。
ただの質問であっても、命彦の生死が関わると、この魔獣はイラッとするようだと、メイアは即座に学習した。
ミサヤの思念に怯えて、思わず謝るメイアに苦笑しつつ、命彦が言う。
「低位魔獣だったらまだしも、学校内で高位魔獣と戦えるわけねえだろ? 現実に巨人種魔獣と1人で戦うわけじゃねえよ。仮想巨人種魔獣として作られた、訓練型魔法機械と戦おうって話だ」
「あ、そういうことか」
命彦の発言を聞き、メイアがホッと安心していると、空太と勇子が口を開いた。
「戦闘型や探査型魔法学科の生徒はさ、魔法実習で戦闘訓練をする際、あのドリル頭が持ってた〈オーガボーグ〉みたく、訓練型の魔法機械をよく相手にするんだ。訓練型魔法機械には、魔獣の種族に合わせて幾つか種類があってね? 仮想巨人種魔獣に見立てたモノも当然ある。それを今回は、シロンの見稽古用に使おうと思って、魔法機械の予約も見てたわけさ」
「仮想巨人種魔獣言うても、見てくれと上っ面の行動を真似ただけの魔法機械や。本物の魔獣と比べれば戦闘力は天と地ほども差がある。本物の巨人種魔獣は多種多様の魔法を使うけど、魔法機械は封入された魔法の効力だけやからねえ? 命彦やウチやったら、殴り合いの近接戦闘だけで十分勝てる相手や」
「そうだね。命彦と勇子だったら楽勝だよ。以前もチラッと言ったけど訓練型魔法機械は、優れた〔魔工士〕達を多く輩出する家系とはいえ、機代一族が独自に開発して売り出してる民間開発の代物だ。戦闘力で見れば、自衛軍が開発した軍用の魔法機械の方が、よっぽど高い」
「ほいでウチらは、その軍の魔法機械とサシで戦って、勝ったことがある。まあ余裕やわ余裕、かかか」
からりと自信満々に笑う勇子へ苦笑しつつ、命彦も言った。
「できる限り、シロンと同じ攻撃手段で戦いたいから、見稽古の戦闘で俺が使う魔法は付与魔法のみに限定する。そうすりゃ、規格差と武装との両面から、〈オーガボーグ〉とシロンとの仮想戦闘として、置き換えられるだろう」
「そ、そこまで考えてくれてたの?」
「当然だ。こっちは表立って力を貸せねえんだ。メイア達に勝ってもらうためにも、このくらいはするさ」
驚くメイアに答える命彦の言葉を聞き、勇子や空太も同意して首を縦に振る。
「命彦の言う通りやで? とりあえず、ウチらに今できることは精一杯したるわ。……あ、せや! 見稽古で仮想戦闘情報を収集したら、ついでに人工知能へ戦い方の講義もしよや? 特に身体の動かし方については必須やとウチは思う」
「それは僕も思った。ちょっと戦闘を見た限りだと、僕が見てもシロンの動きに無駄が多いのが分かる。人型してる機械ってさ、人間の身体操法を学習したら、物凄く運動性が上がるって、以前にミツバから聞いたことがあるし。命彦と勇子で教え込めば、もう少しシロンの機動力も上がると思うんだ」
「ほう、勇子達も気付いていたか? メイア、ミツバっていうのは、この依頼所に勤めるバイオロイドのことだ。俺達の知り合いで、よく助言をくれる。俺の見立ても勇子達と似てて、どうもシロンは自分の速度に振り回されてる印象を受けた。あれは要改善点だ。全速力を出せてねえ感じがする。身体操法の講義もすべきだろう」
命彦達の指摘にメイアは目を丸くした。
「た、確かに、シロンの動きは全て自己流……魔獣と魔法士との戦闘映像を幾つも見せて、独学で学習させたモノよ? 最初の頃に比べれば、結構良い動きに私には見えてたんだけど、戦場に身を置く本職から見れば、まだ動きに無駄があるのね?
「ええよ。んじゃメイアにも講義やね」
メイアの願いに勇子が応え、命彦が話をまとめた。
「よし、決まりだ。明日から放課後はシロンの見稽古と身体操法の講義に使う。集合場所はとりあえず校舎の屋上でいいと思うが、体育館が使える時はそっちに集まる。いいか?」
「「「りょーかい!」」」
勇子達とメイアの声が揃い、命彦がフッと頬を緩めた。
話がまとまったため、勇子がポマコンを出してメイアに言う。
「んじゃ、ポマコンで連絡先の交換やね? メイア、ウチの連絡先教えたるわ!」
「あ、ありがとう……私、ポマコンの連絡先教えるの、初めてよ」
このメイアの発言に、微妙に憐れみを抱いたのか。
命彦と空太もそっと自分のポマコンを取り出し、メイアと連絡先を交換した。
おやつの清算をサッと済ませ、メイア達が【魔法喫茶ミスミ】を出ると、外はすっかり夜だった。
「そうそう、言い忘れてた。明日からは、実習授業でもシロンに演技させろよ?」
「せやね? シロンの人工知能が壊れてへんって分かったら、あのドリル頭がまた要らんことしよるやろうし」
「しばらくは我慢の時さ。歩き方も忘れたみたいにして、人工知能が初期化されたように偽装したらいいよ」
「分かってる。気を付けるわ」
3人の助言にメイアが真面目に答えると、命彦が夜空を見上げて切り出した。
「それじゃ、帰るか。ウチはそろそろ夕飯の時間だし」
「あ、命彦! 1人だけミサヤに乗って帰る気やろ! そうはさせんぞ!」
「バーカ、今回は急いでねえし、メイアもいるから一緒に帰ってやるよ」
「やれやれ、んじゃ僕も皆と一緒に帰るとしよっか」
「いんや、空太は先に帰れ! 邪魔や!」
「あ、酷いぞ勇子! この脳筋バカ!」
「誰が脳筋やねん!」
ぎゃんぎゃんと追いかけ合い、小馬鹿にし合う勇子達を見て、メイアが思わず言う。
「賑やかね?」
「いつもこういう感じだぞ?」
『ええ。バカ同士ですからね』
「ふふ、そう。でもこういう帰宅もありだと思うわ。学生らしくて、とても良いと思う」
勇子と空太の追いかけっこを見て、心底楽しそうにメイアは笑った。
難しい顔や仏頂面、無表情で、学校から帰宅することがほとんどだったメイア。
この日は、とても柔らかい笑顔で帰宅した。
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