21.繋がる点と点

 “シャロ”が私の前に現れてから、十四日が経った。

 私は今、皇女宮にあるローズマリー様の部屋の前に来ている。

 理由はもちろん、シャロのこと。どんなに本を漁っても、シャロのような動物がいる記録は見つからなかった。

 ということで、最後の頼みの綱が皇女のお二人(特にローズマリー様)。


 目の前の扉を軽くノックして、軽快な音を鳴らす。

 それから自分が何者であるかを伝える。


 「ドートリシュ家が長女、シャルロット・デ・ドートリシュで――」

 「いらっしゃぁ〜い!!」


 ホワイトリリィ様が勢いよく扉を開けて迎えてくださった。

 挨拶の途中だったのに。いや、何となくこうなるだろうとは思ってました。


「私のために時間を空けてくださり、ありがとうございます。天地の祝福があらんことを」


 スカートを両手でつまんで頭を下げる。


「そんなにかしこまらなくていいのに」

「いいえ。お二人は皇女様であらせられますから。……あら?その方は一体??」


 部屋の中にローズマリー様と向き合って座っている、見知らぬ少女がいた。

 身なりからして帝国貴族。それもかなり高位の貴族かもしれない。

 だけど、帝国貴族だったら私が知らないわけが無い。高位貴族なら尚更。幼い頃に一通り覚えたのに加えて、毎年貴族の子供が生まれる度に確認している。


「あぁ、びっくりさせてごめんね!彼女はね!」

「お待ちくださいな、ホワイトリリィ様。自己紹介は自分で致します」


 ソファーから立ち上がって私の方を向いた。


「ごきげんよう。ジャバウォック家が長女、アリシア・ド・ジャバウォックよ。以後お見知りおきを」


 ティーカップを扱うように丁寧につままれたスカート。

 最高級の布地にあしらわれた、控えめかつ上品な宝石。

 触れれば壊れてしまいそうな程に綺麗な陶器のような肌。

 すごい。女性の理想のお姫様そのものだ。さすがジャバウォック家。


 ……ん?ジャバウォック??


「ジャバウォック!?ジャバウォックとはジャバウォック家ですか!?ということは宰相であらせられるジャバウォック公爵閣下の……!?」

「まぁまぁ、落ち着いて。そうよ、私がジャバウォック公爵の娘よ」


 ジャバウォック公爵家は代々文官として活躍してきた一族。彼らに混ざっている王族の血も決して薄くはない。

 現宰相はジャバウォック公爵家の当主、ジャバウォック公爵閣下が務めている。

 そして―――、帝国序列一位の正真正銘の大貴族。帝国を代表する貴族であり、帝国貴族を束ねている。


「失礼しました。少しばかり驚いてしまって……。挨拶が遅れました、ドートリシュ家が長女、シャルロット・デ・ドートリシュと申します。お会いでき、光栄です」


 彼女とこんなところで会えるとは思ってもいなかった。逆行する前、会ったこともなければ顔を見たことすらなかった。

 なぜなら彼女は―――。


「丁寧にありがとう、ドートリシュ侯爵令嬢。ところで、シャルロットと呼んでも構わないかしら?私、貴女と仲良くなりたいの」

「お〜!アリシアちゃん積極的だねぇ〜」

「ええ、はい。なんと呼んでいただいても構いません」


 ジャバウォック公爵令嬢に、下の名前を呼びたいと言われるなんて思わなかった。


「まだどこか戸惑っているようね。まぁそれもしょうがないわ。だって逆行前?のアリシア・ド・ジャバウォックは“引きこもり令嬢”だと有名だったもの。ね、ローズマリー様?」

「ええ、そうです」


 私が逆行前に会ったこともなかった理由。

 それは、彼女は逆行前、引きこもり令嬢として有名だったからだ。

 その気になれば、社交界の中心になれるほどの身分であるにも関わらず、表舞台に一切顔を出さなかった令嬢。

 噂では病弱だったとか人見知りが激しかったとか何とか。


 ん?まって、逆行前って言った?


「逆行と言いましたか……?ローズマリー様、ホワイトリリィ様、どういうことです?」

「アリシアちゃんには、逆行のことを教えたの!」

「!?一体どこまで……??」

「全部よ、シャルロット」


 全部?一体なぜ……?


「なぜです?失礼ですが、ジャバウォック公爵令嬢にその事情を教える必要があったということですか?」

「ぴんぽん!その通り!」


 そして、ローズマリー様が「あのね」と、ゆっくりとした、だけどどこか緊張感を抱えた声で口を開いて言った。


「……アリシア公女は、私たちの逆行の“被害者”なの」

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逆行令嬢の運命 白銀 アリア @aria_66

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