14.皇女の選んだ道
「皇太子殿下……?いかがなさいました?」
「あぁ、いや、失礼。取り乱してしまった」
取り乱す?彼が?彼でも取り乱すことがあるのね。
きっと皇女様たちの発言に理解が追いつかないのね。無理もないわ。
「私の死を悲しんでいただけたのは光栄ですが……、そんな理由で、時間を巻き戻すという大きな魔法を使ってもよろしかったのですか?」
「魔法使いは気まぐれなのよ」
答えはすぐ返ってきた。
「では、皇太子殿下が可哀想とは、一体どういう意味なのでしょうか……?私が無知であるあまりに、皇女様の発言の意図が分からず、申し訳ございません」
「えっーとね!!それはね……」
「リリィ!」
聞こえてきたのは、皇太子殿下がホワイトリリィ様を諌めているかのような声だった。
もしかして、地雷だった……?
「申し訳ございません。余計なことを聞いてしまいました」
「いや、君のせいではない」
私に返答する彼の碧い瞳は、ホワイトリリィ様を捉えたままだった。
「き、気にしないでシャルちゃん!こっちの話だから!あはは……」
「さぁ、お話はこれで終わりよ」
ローズマリー様が手をパン!と叩いてそう言った。
「二人とも、今日の話はなるべく内密にね。私たちが魔女狩りされたら困るわ」
もし私が今日のことを、うっかり誰かに話してしまったら……。想像するだけで身震いするわ。
「分かりました」
「ああ。もちろんだ」
「ありがと!今日はこれで解散ね!!」
「じゃあ、シャルロットは私が馬車まで送らせてもらうわね」
「ありがとうございます」
白い扉を開き、その魔法で作ったという空間から足を踏み出し、外へと出た。
***
「送っていただき、ありがとうございます」
「ええ。どうってことないわ」
「一つ、お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「何?」
さっきからずっと気になっていた事があった。
ローズマリー様とホワイトリリィ様は、昔の魔法使いたちの怨念によって生まれた。ならば、人間を憎み、私達を殺そうとするはずだろう。
だが何故か、人間を憎んでおらず、己の持つ魔力も、自分のことに使っている。
二人はどうしてそのようにしているのだろう。それが凄く気になった。
「お二人はなぜ、人間を憎まないのですか?そして、なぜ魔力を私や皇太子殿下のためにお使いになられたのですか?」
「うーん。話すと長くなるわね。」
話によると二人はこの件に随分悩んだらしい。
物心がついた頃には、自分の生まれた理由も、強大な魔力を内に秘めていることも、全て分かっていたらしい。
だからこそ悩みに悩んだ。自分たちの持つ力を、人間を滅ぼすために使うべきなのか否か。
その末に出した結論は、“たとえ自分が怨みによって生まれたとしても、私たちが人間を傷つけていい理由にはならない”というものだった。
皇女様いわく、人間には過去から学び、この世界をより良いものにして欲しいとのこと。
ローズマリー様の人間性に、私は心底感激した。
「これが私たちの選んだ道よ」
「私、お二人が皇女で本当に良かったと、心の底から思います」
「あら、ありがとう。私も、私が皇女で良かったと思っているわ。この世界を見守りたいもの」
なんてかっこいいお姫様なんだろう。この国に産まれて良かったと思えた。
「さぁさ、お話はこれぐらいにしてさっさと帰りなさい。親バカ侯爵があなたを待ってるわ」
「お、親バカ侯爵……」
さっきまでの彼女に対する思いが一気に消えた気がした。
「で、では、本日はありがとうございました。また今度お茶会にお誘いします」
「あなたがお茶会を開くなんて……どういう心境の変化?まぁ、待ってるわ」
一度目の人生では、他の貴族との交流が少なかった私。今回の人生では前回のようにはさせたくない。だからお茶会を開こうと思ったのだ。
「お見送りありがとうございました」
「どういたしまして。さようなら」
「はい。さようなら」
そうして私は、白い座席の広がる紺色の馬車へ乗り邸宅へと帰った。
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