11.意味がわかりません。

 いきなりの発言に、私は大きく動揺した。


 おかしいことって……どういうこと!?まさか、ローズマリー様やホワイトリリィ様も逆行したっていうの?

 たしかに、逆行したのが私だけとは限らないけど……。


 ローズマリー様のその発言に驚いていたのは、隣にいる殿下も同じだった。


「ローズマリー、ホワイトリリィ。“何か”というのは、具体的にどのような事だ」


 そうだ。私の思っていることと、二人が思っていることは違うかもしれない。


「そう聞くってことは、何かしら思い当たる節があるのね?」

「……ないことはない」


 “ないことはない”ってことは、殿下の身にも、何かおかしなことがあったっていうの?


「シャルちゃんは~?何か思い当たる節あったりしない?」

「……あります」


 私は正直に答えた。

 もしかしたら、二人や、皇太子殿下も私と同じことを体験したのかもしれないという、淡い期待を抱いたからだ。


「じゃあ、具体的に教えてくれるから」


 その言葉に、自分の胸がドキッとしたのが分かった。


「はい。ですが皆さん、絶対に“作り話だ”なんて言わないでくだいね?」

「約束するわ」

「安心してよ!」


 皇太子殿下も静かに頷いてくれた。


 私は、ことの顛末てんまつを全て話した。

 十五の時、社交界でフードを被った刺客に殺されたこと。そして、その刺客の正体はブリルガット侯爵令嬢だったこと。目を開けたら十歳になっていたことなどを、事細かに話した。


「こんな話……呆れてしまいますよね?」


 横を見ると、皇太子殿下が深刻そうな顔をしていた。

 そりゃあ、自分の婚約者がいきなり変なことを語り出すなんて可笑しいわよね……。


「あのっ!ただの私の夢かもしれませんし……」

「実は、私もそなたと同じ事を体験したのだが……」

「!?」


 口を開いたのは皇太子殿下だった。

 深刻そうな顔をしていたのは恐らく、自分もおなじ体験をしたからだったのだろう。


「ローズマリー、ホワイトリリィ。正直に答えてくれ」


 いきなり、この小部屋が重たい空気に包まれた。


「なにかしら?」

「なにー?」


 皇太子殿下は二人を睨みながら聞いた。


「私と、私の婚約者の身におかしな事が起きたと、なぜ分かった?仮に、お前たちにも同じことが起きていたとして、何故それが私たちの身にも起きていると分かった?」


 もし、自分の身に何かが起こったとしても、他の人の身に起きたことなんて、分かるわけがない。

 では、なぜ二人は私と皇太子殿下に同じことが起きていたと分かったのだろう。

 私たちを呼び出したということは、それなりの確信があるはずだ。


 私と皇太子殿下の疑問に、ホワイトリリィ様は即答してくれた。


「そんなの分かるに決まってるじゃん!だって、君たちの身に“おかしなこと”を起こしたのは私達だもん!」


 ……はい?


「今、なんと……?」


 思わず聞いてしまった。


「だからね!私たちが、おかしなことを起こした張本人なんだよ!!」


 ホワイトリリィ様は机を叩きながら必死に主張した。


「ホワイトリリィ、ふざけないでくれ」


 さすがにそれは言い過ぎだと思うけど……。でも、確かにホワイトリリィ様の発言は意味がわからない。


「冗談じゃないよ!そうだよね、姉上?」


 ローズマリー様は真面目な方だからきっと、ホワイトリリィ様の冗談だと、言ってくれるはず……。


「もちろん、本当のことよ」


 ……嘘でしょ?ローズマリー様が本当だと言うのなら、私を逆行させた張本人が今、目の前にいると言うの?


 皇太子殿下も私と同様で、とても困惑している様子だった。


「本当……なのですか?」

「私を疑っているのかしら?」

「いえ、そういう訳では……。ただ、信じられないのです」


 あまりにも信じられない話だ。

 二人が私を逆行させた?どうやって?


「百歩譲って、お前たちが私たちを逆行させたとしよう。ならば、どうやったのだ?」


 神か、魔力持ちでもない限り、そんなことができるわけが無い。

 だが、この世界には当然、そのようなものは存在しない。


「魔法を使ったからよ」

「魔法で二人を逆行させたんだよー!」


 ……どうしましょう。全く話に着いていけません。

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