12.皇女と魔法使い

「あの……全く話に着いていけません……」

「……私もだ」


 魔法を使ったと言い張る二人を横目に皇太子殿下に声をかけてみた。


「……皇太子殿下。お二人は何を言っているのでしょうか?」


 二人の言っていることは分からないけど、嘘を言っているようにも見えなかった。


「うむ。私にも分からない」


 そんな私たちの様子に、ローズマリー様は気付いてくれた。


「そうよね。兄上とシャルロットからしたら、変な話よね。これから説明するわ」

「ああ、是非そうしてくれ」

「じゃあ説明するね!まず、私と姉上の正体は、魔法使いです!」

「……ほえ?」


 魔法使い……?聞き間違いじゃ無いわよね?

 この世界に、魔法使いなんているわけが無いはず。それなのに二人は、自分たちが魔法使いだっていうの?


「この世界から、魔法使いは居なくなったはずだ」

「その通りです。魔法使いは滅んだはずです」


 この世界から魔法使いがことは、誰もが知っている常識。

 だからこそ、ローズマリー様たちの言っていることは信じられないのだ。


「信じられないでしょ?」


 図星だ。まるで、ローズマリー様に心を見透かされているようだった。


「はい……」

「ああ。信じられん」


 皇太子殿下の顔は目尻を持ち上げて、疑うような目をしていた。


「二人とも!疑う前に信じてみなさい。疑うばかりじゃ何も始まらないのよ?」


 一理ある。

 疑うことも大事だけど、その前に二人が魔法使いということを信じてみることにした。


「分かりました。信じてみます」

「兄上は?」

「聡明なローズマリーがそう言うのならば、信じてみよう」

「よろしいわ」


 ローズマリー様は満面の笑みを浮かべていた。


「では、気を取り直して!シャルちゃんと兄上の言う通り、この世界に魔法使いは居ないはずだよね!」


 そう言われて、私はこの世界の“魔法使い”に関しての伝承を思い出した。


 ――遥か昔、言葉が生まれたばかりの頃。この世界には二つの人種があった。


 ひとつは、私たちのようなごく“普通の人間”。

 もう一方は、突如として現れた“魔法が使える人間”。二本足で歩き、頭で考え、口から言葉を発するというところまでは普通の人間となんら変わらない。


 だが、一つだけ異なる点があった。それは、“魔法が使える”という点だった。手から水や火を出したり、風を操ったりと、不思議なことをやってのけたのだ。


 魔法の使える人間は決して多くはなかった。むしろ、とても少なかった。そのせいか、当時の人々は彼らを、神の生まれ変わりだと信仰し始めたのだ。


 そんな中、シルスマリア帝国は誕生した。もちろん、魔法使いの力も借りて。


 しかし、平和は長くは続かなかった。

 ある年突然、とある伯爵家の領地の特産品である、米が不作に陥った。原因は気象だ。太陽ばかりが照り続け、雨が降らない日が続いた。


 領主は「魔法使い殿に頼んで、領地に雨を降らしてもらおう」と言い出した。人々は、魔法使いを信仰しすぎた。なんでも出来ると勘違いしていたのだ。


 結局、領主の思惑は失敗に終わった。流石の魔法使いも、気象は操れなかったらしい。


 怒った領主は「魔法使いに裏切られた」と騒ぎ立てた。それを聞いた、伯爵家の領民たちはなんと、魔女狩りを行いはじめた。

 今まで神だと信じていた者が、神ではなかったことに怒りが湧いたのだ。


 怒り狂った領民たちは次々と魔法使いを暗殺し、数少ない“魔法の使える人間”はこの世界から姿を消した。魔法の使える人間はすべて、シルスマリア帝国に集まっていたため、さほど時間はかからなかったそうだ。


 皇帝は、伯爵家の魔法使いに対する理不尽を、後から知った。そして、伯爵家の爵位や財産を全て没収し魔女狩りに加担したものは全員、終身刑となった。


 これが、帝国のくらい過去。


「はい。そのように教えられてきました……。まさか!その生き残り……ですか?」

「それはありえん。いくら魔法使いでも、人間は人間だ。寿命があるはずだ」


 そう言われると何も言い返せない。

 仮に、二人が魔法使いの生き残りの子孫だとしても、魔法使いのいない他国から嫁いできた皇后陛下から生まれてくるのはおかしい。

 二人の正体は、一体なんだというの……?


「ではお二人は、魔法使いの血が流れていないはずなのに、魔法使いなのですか?」


 二人は一瞬顔を見合わせると、決意したかのような様子でこちらを向いた。


「「私たちは、亡くなった魔法使いたちの怨念によって生まれたの」」

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