17.シャロ
「お嬢様!?」
「エリー、静かにして」
触れることが出来ることに対して、驚きよりも安堵が私の胸をいっぱいにした。
「このまま抱えられるか試すわ」
「分かりました」
謎の生き物は、抱えようとする私の手を振り切ることはなかった。
「よいしょっ」
「やりましたね!お嬢様!」
「ええ」
無事に抱えることに成功した。
生き物は近くで見ると更に神秘的に見え、毛も、今まで触ったどの生き物より触り心地が良かった。
「私はこのまま部屋へこの子を運ぶわ」
「奥様と旦那様にご報告はしますか?」
「ええ。お願いするわ。それと、この子の体を洗えるように、準備しておいてくれる?」
「分かりました」
エリーは屋敷の中へと駆けていった。
「さぁ、どうしたものかしら」
手の中に収められている生き物は、私のことをじっと見つめていた。
「あなたは……なんなの?」
もちろん、返答はない。
「名前、つけてあげないと」
名前は付いていた方がいいと思った。
きっと、しばらくはこの屋敷で匿《かくま》うことになるだろうから。
「……シャロ、でどうかしら?私がシャルロットで、あなたがシャロよ」
謎の生き物改め、シャロは、キュゥ!と不思議な鳴き声で返事をしてくれた。
どうやら名前を気に入ったらしく、シャロはその頬を私の頬にスリスリと擦り付けてきた。
(可愛い…………)
そんなシャロに、私はすぐに心を奪われてしまったみたいだった。
「じゃあ屋敷の中に入りましょうか」
シャロを抱えながら部屋へと歩みを進める。
普通、貴族の屋敷の中では、エリーのような専属侍女を除いて、使用人は雇い主に姿を見せてはいけないことになっている。
そのおかげで誰にも自分の姿を見せることなく、部屋の扉の前まで着くことができた。
「エリー?入るわね」
「お待ちしておりましたお嬢様。そちらの生き物は、この浴槽の方へお入れください」
「わかったわ。直接触れることは出来ないかもしれないけど、シャロをよろしくね」
エリーは、一瞬戸惑った顔をして、
「シャロ……、お名前はそうされたのですね。できる限り全力を尽くします」
シャロを浴槽に入れてクローゼットの前に移動し、近くにあるベル手に取る。
それを鳴らすと、四人ほどの侍女が三十秒もしないうちに部屋に入ってくる。
エリーのしていることには目もくれずに、私の纏う輝きをひっぺがしてゆく。
一人で服を脱ぐことさえできない自分を情けなく思いながらも、“貴族だから仕方ない”と心を落ち着かせて過ごす日々。
「……疲れた」
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