18.公女と皇女

―ジャバウォック公爵邸にて


「あの……ご用件は何なのですか?」


 この日、帝都にあるジャバウォック公爵邸の応接間のソファーには、三つの少女の影があった。

 そのうち二つの影は上座かみざにある。

 つまり、二人もの客人がそこに訪れ、一人がそれに対応をしているということだ。


「いやぁー、アリシアちゃんなら何となく察してるんじゃないかなぁ??」

「リリィ!初対面の相手ですのに、名前を“ちゃん付け”で呼ぶとはどういうことですか!」


 陽気な口調の少女に、それを諌める少女。

 ジャバウォック公爵邸に訪れた二人の客人。

 それは、シルスマリア帝国の皇女でありながら双子のローズマリーとホワイトリリィであった。


「いえいえ、お気になさらないでください」


 少女は両手を左右に振る。


「初対面……、そうですね。では、改めて自己紹介をしましょう。ジャバウォック公爵家が長女、アリシア・ド・ジャバウォックです」


 アリシア・ド・ジャバウォック。ジャバウォック公爵家とは、帝国序列一位に君臨する皇帝派の貴族。

 そして、現在シルスマリア帝国の宰相を務めている者こそジャバウォック公爵である。その娘こそが、アリシア・ド・ジャバウォック。


「初めまして、アリシア公女。私たちのことは知っていると思うけど、一応自己紹介するわね。私はこの国の第一皇女のローズマリーよ」

「そして、私がこの国の第二皇女!ホワイトリリィだよ!よろしくね!!」

「拝謁させていただき、光栄です。お二人に天地の祝福があらんことを」


 アリシアは、初対面の二人の皇女を前にしても、至って冷静だった。

 “さすが公女”と言うべきだろう。


「それで、用件というのは……?」


 実は、アリシアは今回皇女と会うのに際して、用件を聞かされていなかった。

 ただ、“明日、アリシア公女様とお話がしたいので、そちらのやしきに伺います”と、一通の文を送ってきただけだったのだ。


「単刀直入に言うわ。あなた……その魔力はどうやって手に入れたの?」


 魔力普通なら持ちうるはずのないその力を、ローズマリーはアリシアが持っていると言うのだ。


「昔行われた魔女狩りで、魔力を持つ魔法使いはいなくなったはずだよ!!それなのに、なんでアリシアちゃんは魔力をもってるの!?」


 ホワイトリリィは前のめりになりながら声を上げた。

 だけれども、アリシアはやはり冷静で―――というわけではなく、ポカーンと“何を言っているのか分からない”と言いたげな顔をしていた。


「あの……それってでは……?」


 アリシアのポカーンというような顔をした意味とは、“魔力というものが何か分からない”ということではなく、“魔力は使えるのが普通じゃないのか”という意味だったようだ。


「え、えっと、この帝国には昔、魔法使いがいたんだけど全員魔女狩りで居なくなったという話は知ってるかしら??」

「はい、知ってますよ?ただ、疑問はありましたよ。だって、人類が普通の人間と魔法使いの二つに分けられてること自体がおかしいじゃないですか?」

「ぅぇ!?!?何言ってんのこの人!!」


 ペシッ。

 ホワイトリリィの頭のの上にローズマリーの叱咤の掌が襲いかかった音が鳴った。


「リリィ。いい加減にしなさいっ」

「は〜〜い」

「ごめんなさいね、アリシア公女。失礼だけど、私もリリィも、あなたの発言に理解が追いついてないの。私たち帝国民は、魔力を持ち魔法を使う者はいなくなったと教えられてきたの」


 ローズマリーは冷静なフリをしながら実はかなり動揺している。


「あ〜。分かりました。だから私の発言に驚いていたのですね。無理もないです。」

「あっ、分かってくれた!?」


 アリシアは少し黙ったがすぐに口を開いた。


「―――その昔話……根本から間違っていますよ」

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