19.記憶

「その昔話……根本から間違っていますよ」


「「!?」」


 自分たちが幼い頃から教えてこられた知識を全否定され、皇女も驚きを隠せなかった。


「根本から間違っている……??」

「はい。私たちは先人から、“人間は魔力を持つ魔法使いと、普通の人間とで分かれている”と伝えられてきましたよね?それが間違っているのです」


 アリシアは淡々と話す。


「……人間は、“魔力を使いこなせる者と、そうでない者”に分かれているのです」

「つまり?」


 ローズマリーはいぶかしげで、だけど、どこか興味深そうだった。


「つまり、人間は、全ての者が皆平等に魔力を持っているのです」

「え!?!?そーゆーことだったんだね!!」


 ホワイトリリィは、右手の拳を左の手のひらに打ち付けて、納得したようなポーズをとった。


「じゃあ、先人は誤解していたのね」

「はい。そういうことになります」

「へぇ〜」


 二人が納得したのもつかの間。

 すぐに別の疑問が浮かんできた。


「ではなぜ、貴女あなたはそれに気付けたの?」

「確かに〜!なんで?どうやって?」


 少し黙って、


「そうですね……」


 と言いながら、アリシアは静かに席を立って歩き始めた。

 窓の前で立ち止まると、その白い窓枠に右手を置いて、振り返りながら言った。


「私、“記憶持ち”なんです」

「記憶??なんの記憶?!」

「……前世です」


 そう、アリシア・ド・ジャバウォックには前世の記憶があったのだ。


「こことは全然違う世界で生きていた記憶があるんです」

「えー!そんなことあるんだ!!」

「まぁ、確かにそういう人がいるというのは聞いたことがあるけれど、本当にいたとは思わなかったわ」


 シルスマリア帝国にも、記憶を持って生まれ人間がいるという噂がないわけではない。

 だが、大抵の記憶持ちは、周りに気味悪がられたりする恐れがあるため、公言はしないのだ。


「貴女が記憶持ちだということは分かったわ。それで、貴女が魔力について気付いたのとそれになんの関係があるのかしら?」


 アリシアが記憶持ちというだけでは、ローズマリーの、“どうして先人の誤解に気づけたのか”という問いにまだ答えきれてない。


「……私、前世では人と話すことがあまり好きではなくて、本ばかり読んでいたんです。魔法や、勇ましい騎士に可愛らしいお姫様が出てくる物語が特に好きでした。それこそ、転生してみたいくらいに……」


 真剣に、悠然と話を続ける。


「そんなある日でした。いつも通りの朝が来たと思って目を覚ましてベットから起き上がると、この世界にいました。それで、この世界になれていくうちに、魔法についての昔話を聞いて、いてもたってもいられなくなって。それで、前世で読んだ本の中の魔法使いの真似をしたら魔法が使えてしまった、というわけです」


 ローズマリーは、転生してすぐの娘に簡単に魔法が使えてしまってたまるものかという表情を浮かべながらも、誰もが諦めていた魔法についてのことを調べようとする好奇心を、すこしばかり尊敬していた。

 ホワイトリリィは、いつも通りの元気いっぱいの様子で、凄いと言いながら拍手した。


「その後、侍女に手伝ってもらったりして実験を繰り返し、魔法の謎を解明したのです。……ですから、私が魔法を使えるようになったのは前世で読んだ本たちのおかげです」

「ふふっ、貴女は本が好きなのね」

「はい?」

「いえ、なんでもないわ」


 本について話すアリシアはとても幸せそうな表情をしていた。

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