13.真実

「怨念……ですか?」

「うん!驚いた!?」


 驚くも何も、意味がわかりません。


「意味がわからない。どういうことだ?」


 皇太子殿下は冷静だった。


「昔、魔女狩りがあったでしょ?その時の、魔法使いたちの魔力を伴った怨みが、長い年月をかけて“私たち”として顕現したのよ」

「前世の記憶を持ったまま転生したようなもんだよ!」


 少し、意味がわかった気がした。

 つまり、魔法使いたちの怨みが、皇女の二人を“魔法の使える人間”として転生させた。にわかに信じられない話だ。


「では、お前らが魔法の使える人間だという証拠はあるか?」


 彼は、証拠をなによりも重視していた。


「君たち二人が、この空間にいることこそが、私たちが魔法使いだっていう証拠だよ!」


 この空間……。宙に浮かんだ扉と、その扉の先にあったこの小部屋の謎。

 ホワイトリリィ様がいきなりブツブツ唱えだしたのは、扉を召喚させるためだったのかもしれない。

 きっと、皇太子殿下がこの小部屋に入る時も、ローズマリー様の魔法を見てるだろう。


 私が抱えていた疑問も、二人が魔法使いならば、辻褄が合ってしまう。


「……分かった。お前たちを信じよう」

「私も信じます」


 二人を魔法の使える人間だと信じるのに、証拠は十分だった。


「ありがとう」

「ありがとー!」


 皇女の二人が魔法使いだということは分かった。

 だが、本題がまだ残っている。


「あの……本題に戻ってもよろしいでしょうか?」


 この密談の最初、私と皇太子殿下を逆行させたのは自分たちだと、皇女の二人は言っていた。

 二人が魔法使いだと信じた今、その話が信憑性を帯びてきた。


「同じく、私も逆行について聞きたい。なぜ、私たちをあのタイミングで逆行させたのだ」


 あのタイミング……?皇太子殿下一体どのタイミングで逆行したのだろう。


「皇太子殿下は、どのタイミングで逆行なされたんですか?」

「え?あぁ。皇室主催のパーティーがあった日だ」

「!!!」


 私が殺されたのも皇室主催のパーティーの途中だった。

 皇太子殿下も、私と同じタイミングで逆行したのかもしれない……!


「私が社交界に戻ってきた日のパーティーですか……?」

「そうだ。私は公務を片付けている途中だった。だが、突然、皇宮が騒がしくなった。何があったのかと思っていたら、いつの間にか自室のベッドで寝ていて、気づいたらこの姿だったんだ」


 やっぱりそうだ。皇太子殿下の云う“皇宮が騒がしくなった”とは、私がブリルガット侯爵令嬢に刺された時のことだろう。


「やはり……」

「やはり?どういう意味だ」

「私が逆行したタイミングと、皇太子殿下が逆行したタイミングは一緒なのだと思うのです」

「たしか君も、皇室主催のパーティーの日だったか。ブリルガット侯爵令嬢に刺されたと思ったら逆行したんだっけか」

「はい。つまり、私が死んだタイミングで、私たちは逆行したのです。そうでしょう?ローズマリー様、ホワイトリリィ様?」

「お見事です」

「流石だねっ!」


 どうやら、私の推測は合っていたらしい。


「では、何故、どうしてどうやって、私と皇太子殿下をあのタイミングで逆行させたのですか?」


 私たちを逆行させたという張本人の二人は少し黙り込んで何か考えた。

 その様子から察するに、言うべきか言わないべきか悩んでいるようだった。


「言えないのですか……?」

「えっと……言えないわけじゃないんだどね!その……」


 そう言われると、ますます気になるではないか。


「早く言え。気になるではないか」


 彼も気になるようだった。


「そこまで言うならわかったよ!教えるよ!」

「正直に言うわ。シャルロットが死んじゃったら嫌だからよ!!何より、兄上が可哀想じゃないの!!だからホワイトリリィと協力して魔法で二人を逆行させたのよ!もう!!」

「はい!?!?」


 私が死んだら嫌って……。ちょっと嬉しいけど!!そんな勝手な理由で私たちを逆行させたの!?

 それに、皇太子殿下が可哀想ってどういうこと!?


「はぁぁぁぁぁぁああああ!?」


 皇太子殿下は思いっきり立ち上がり叫び、その綺麗な顔を赤らめた。

 まるで、私の知っている皇太子殿下では無いようだ。それくらい彼は困惑している様子だった。

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