10.密談

 デビュタントの翌日、私は皇女宮にやってきた。


「待ってたよー!シャルちゃん!!」


 皇女宮に行くと、ホワイトリリィ様が出迎えてくれたが、そこにローズマリー様の姿はなかった。


「本日はお招きくださり光栄に存じます。ところで、ローズマリー様はどちらに?」

「姉上は中で待ってるよ!」

「そうなんですね」

「うん。じゃあ早速、私についてきて!」

「はい」


 そうして案内されたのは、ローズマリー様の部屋らしき場所だった。白を基調とされたロココ調の家具にあふれた部屋はとても女の子らしかったが、同時に、どこか寂しさを感じた。


「ここは、ローズマリー様の部屋ですよね?」

「うん」

「ではなぜ、中に誰もいないのですか?」


 おかしい。

 先ほどホワイトリリィ様は、ローズマリー様は中で待っていると言っていた。なのに、部屋の中には侍女のひとりもいないのだ。


「後でわかるよ」

「……といいますと?」


 そう聞いた途端、ホワイトリリィ様は壁に向かって手をかざし、何やらブツブツ唱えだした。


「……!?これは何ですか!?」


 私の目の前には、白い扉が現れた。どこからともなく現れたその扉は、空中に浮かんでいた。


「見ての通り!扉だよ!」


 ホワイトリリィ様はそう言うが、私の目の前にあるのはただの扉ではない。浮かんでいる扉なのだ。

 私には、この扉が不思議でしょうがなかった。


「見ての通りと言われましても……。この扉は何なのですか?」

「まぁまぁ、見てて!」


 ホワイトリリィ様はニッと笑ったかと思うと、金色のドアノブをつかんで勢いよく扉を開けた。


「こ、これは……!!」


 開いた扉の先には、赤い絨毯のしかれた小部屋が広がっていた。

 その部屋には、白いローテブルを挟んで二脚の水色のソファがあった。


「ローズマリー様に、皇太子殿下!?」


 ソファには、ローズマリー様と皇太子殿下が向かい合って座っていたのだ。


「……はっ!挨拶が遅れて申し訳ありません。帝国の若き太陽、皇太子殿下。ローズマリー様、本日はお招き下さりありがとうございます」

「あぁ」


 相変わらず、殿下の返事は素っ気なかった。

 そもそも、なぜ殿下がこの場にいるのか、とても不思議だった。


「シャルロット。いきなりのことで何が何だかわからないと思うけど、今日はあなたと、兄上に話があるの」

「はい。私が何かしたでしょうか?」

「何の話だ?」


 聞きたいことは山ほどあったが、それは二人の話が終わった後に聞こうと思った。


「まぁ、まずは座って座って!」


 座るのには少し躊躇いがあり、私は扉の前で立っていた。


「いえ……」


 私が座るのを断ったのには理由があった。

 この部屋にあるソファは二つ。それも二人掛けほどのソファが。

 一つはローズマリー様の座っているソファ。もう一つは皇太子殿下の座っているソファだ。

 ホワイトリリィ様は当然、ローズマリー様の方のソファに座だろう。

 そうなると、私が座るとしたら、皇太子殿下の隣に座らなければならない。彼に嫌な顔をされてしまいそうで怖いのだ。


「シャルちゃんも座ってよぉ!」


 皇女にここまで言わせておきながら座らなかったら、逆に不敬になるかもしれないと思い座ることにした。


「では、お言葉に甘えて。失礼します」


 座ったが、皇太子殿下は嫌な顔はしなかった。

 私は気持ちを切り替えて、話を切り出した。


「えっと、その……話とは何ですか?」


 私がローズマリー様や、シャルロット様に何かした覚えはない。正直、なぜ私がこの場に呼び出されたのか分からない。

 怖いことに、こんな展開は逆行前には経験していないのだ。もしかしたら私が今いる世界は逆行前とは少し違う世界なのかもしれない。

 そんな思考が私をさらに不安にさせた。


「シャルロット、それに兄上。最近、何かおかしいことは起こらなかった?」

「「!?!?」」

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