第20話 フランスの王
4度の共和制と2度の帝政そして2度の世界大戦とアルジェリアの混乱を経てフランスは強力な大統領制を敷いた第五共和制への移行を持ってようやく安定と地域大国としての威厳を取り戻す道を歩もうとしていた。その頂点にまで上り詰めた男はシャルル・ドゴールであった。
ペタン元帥の弟子とも言えた彼は前の大戦で自由フランス政府を率い米英と共にフランス解放の最前頭にたった男だった。その栄誉の為、アルジェリアの独立闘争に伴う混乱にアルジェリアの独立に反対する一派によって彼は担ぎ出されたのだ。しかし彼らの意に反しドゴールはかの地の独立を認めた。
激高した独立反対派の一部のテロ組織による襲撃をも生き延びた
齢76歳に達した彼に最大の問題が降りかかって来た。武装集団の一派が学校を占拠したのだ。それだけでも十分問題だが彼らが取った人質の中に問題となる人物がいたのだ。
「それでフレイ、もう一度状況を説明してくれないか?」
公務を一通り終えた後ドゴールが部下からの一報を受けて現地の市長室を借りて臨時の対策会議を立てていた。
会議にはドゴール自身と同じく数年前のアルジェリア戦争の混乱を切り抜けた猛者たちが集まっていた。特に現地の役人の目を引いたのは軍事大臣メスメルと内務大臣フレイの二人だった。
「はい閣下、まず聖ドニ女子学校に数名の武装集団が乱入し女子生徒凡そ200人を人質にとっています。交渉人が奴らから得た目的は国内に収監されている同志数百人の釈放とエジプトへの亡命の為の飛行機の手配です。」
「奴らは先日の一斉逮捕で逃げおおせた連中なのだな?」
「ベンベッラ派の残党ですな。現在のアルジェリア政府に決起を計画していた残党が今回の件を起こしたのかと」
一通りフレイから説明を受けたドゴールはううむと唸る。一考し命令を待つ大臣達を前に口を開く。
「状況は分かった。政治犯の釈放は最後の手段としよう。問題は最初の手段だ。どうやってあの犯罪者共を排除するかだが・・・」
「閣下、軍にお任せ下さい。すでに私の命令を受けて精鋭の空挺部隊を1個連隊動かしております。閣下のご命令あらばいつでも校内に突入できます。」
求めるより前に意見を具申したのは軍を統括するメスメル。しかし今度はフレイも意見を出す。
「お待ちください。一部の空挺部隊による反乱からまだ4年しかたっておりません。現時点で国内での動員をかけた事が発覚すれば世論の非難を浴びます。ここは警察から選抜して臨時のコマンド部隊を編制して突入させるべきです!」
「そんな時間があるとでも思っているのか?相手は24時間以内に釈放の動きが無ければ生徒を30分毎に1人ずつ殺すといっているのだぞ!今から臨時に突撃隊を編制してなんになる!」
「空挺なんぞだしてみろ!また左翼主義者からクーデターだ、軍事政権だと揚げ足を獲ってくろぞ!」
フレイとメスメルが管轄を巡って争っている。しかしどちらの言い分にも理があるのだ。溜息をつきドゴールはまた話す。その時は二人も口を閉じた。
「ともかく今は人質の安全を確保せねばならない。例のご令嬢の所在は?」
質問に答えたのはフレイだった。
「恐れながら閣下、現地の官憲が学校から脱出した女学生達の証言によると恐らくまだ中かと。」
「うむ・・・。奴らめ、これを狙っていたという訳か。」
「閣下、このままでは生徒達の解放どころではありませんぞ。いったいどうすれば・・・。」
大臣の誰かが発言し誰もが妙案を浮かべぬまま時間だけが過ぎていった。
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