第4話 訪問者はお兄さんだった
「マリアンヌ、その・・・久しぶり」
どこかで見た覚えがある気がして来た訳だ。以前マリアンヌが見せた写真通りの男の人がだった。気の弱そうな印象のお兄さんが栗色の髪をかきながら妹の顔を伺う様に話しかける青年がタトリン家の長男アレクサンドルさんなのだ。そのお兄さんを一目で抱いた印象はやや奇抜であると言わざるを得ない事であった。下は緑のチノパンを履き上は暗い茶色のワイシャツに緑のネクタイを着ており、なおかつさらにその上堅そうなオリーブ色のジャケットも来ていた。絶対に市販の物ではなく軍隊時代のジャケットをそのまま使いまわしているのだろう。
ファッションセンスがどこか抜けており元兵士なのかと疑う位だ。兵士なら安い服でももう少し格好良く服を着こなすものだとてっきりあたしは思っていたのだけれど。
「あ、そう」
素っ気なく返すマリアンヌ。素気なさすぎる。
「冬休みまでまてなかったの?こんな目立つ事して。」
「その・・・お前がどうしてるのか気になってだな。」
歯切れの悪い態度をとる兄にマリアンヌは苛立ちを隠せなくなったのか顔が次第に苦虫を嚙み潰したようになっていくのが周囲の誰でも分かる。とくにお兄さんは妹の顔を見て慌て始めていた。
「あたしの顔がみたいならもう見たでしょ。見たならもうパリに帰って。」
「出来ないんだ。この町のホテルにもう予約とっっちまった。」
はにかんだ笑顔を見せたアレクサンドルとは対照的にマリアンヌの顔が困惑したものに歪んでいく。どういう意味とでも言いたげだ。
「え、どういう事なの?」
というか実際に言ったけれども。
「チェックインしてから訪問しようと思ったんだけどどうしてもお前の顔が見たくてさ・・・」
ご機嫌をとろうとする兄を前にマリアンヌが大きなため息をついた。もうお兄さんから逃げられないと覚悟したのだろうか?
「じゃあ放課後の3時あたりに校門で待ち合わせ。ここまで来たんだしとりあえずお茶は用意する。それまでは自分で何とかしろ。」
「そうだよね・・・おれもすまなかったというか」
またもや歯切れの悪いお兄さん。段々聞いているだけのあたしですらイライラしてきたな。妹に合いに来たんじゃなかったの?
「それとお兄ちゃん♡」
甘い声で呼びかけられ一瞬アレクサンドルが笑顔を妹に向けた瞬間に大きく微笑んだマリアンヌがいた。だけどあたしにはどこか彼女の笑顔が怖い気分した。なぜなら顔が笑っていてもー
「今はとりあえず学校から出てって。」
目は全く笑っている様には見えなかったからだ。
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