第5話 お兄さんとお茶をした
学校が昼食と一通りの授業を終えた後、アレクサンドルはマリアンヌの許可で改めて学校への訪問を行ったそうだ。
そんな説明をアレクサンドルから聞きつつ学内の食堂であたし達はお茶を啜っていた。
お茶だけでもマリアンヌのお兄さんが少し変わっているのが分かる。軍時代から彼はどうもかなりのコーヒー党という事が分かった。
「眠気覚ましに丁度良いんだ。文字通り泥水みたいな低品質のゲロマズも必要だから飲んだね。」
泥水とけなす言葉と懐かしむ様に笑顔になる彼の顔が一致しないけど。
「そういえばマリアンヌからお兄さんは外人部隊にいたって聞きましたけどどんな感じでした?」
マリアンヌには悪いけどどんな職業に就いているかは気になったので質問させてもらった。いきなり訪問してくる人間は確かに信用しづらいのだ。
「厳しかったな。特に僕がいたのは第一落下傘連隊っていう猛者揃いの部隊だったから入隊早々お前なんか認めんって連隊長から直々にしごかれたね」
連隊長の部分は誇張かもしれないけれど普通に語る経歴に嘘はついていなさそう。あたしの事を調査しに来た密偵という訳ではなさそうで安心した。表向きそんな素振りなどみせず驚くふりを見せた。
「うわぁ。あたしならそんなしごき受けたらすぐに逃げちゃいますよ。よく耐えましたねそんなの。」
「いや・・・その勢いで入隊したからすぐに音を上げる訳にはいかなくてね・・・」
複雑そうな顔でマリアンヌの顔を伺うのが丸わかり。マリアンヌの方は逆にお兄さんから意図的に顔を逸らしてお茶を啜っている。
よっぽどお兄さんの家出が許せないんだろうなぁ。
「ごめんよ、こんな暗い話題にしちゃってさ。」
マリアンヌはまだこちらを向いてくれない。
「いえ、良いんです。」
あやまるのはあたしの方だ。マリアンヌがお兄さんを許していないのは彼が軍隊に入ったからなのをすっかり忘れていた。
「マリアンヌもごめんね。」
マリアンヌの方もようやくアタシ達の方を振り向いてくれた。仕方ないなとでも言いたげな顔をしながらだけど。
「そうだ。話を変えるけどさ」
そういいながらダッフルバッグからお兄さんがカメラを取り出す。ドイツ製なんだと嬉しそうに呟くが意味は分からない。
「良ければマリアンヌのよしみで獲ってあげようか。タダで良いよ。」
写真を提案してきたのだ。
唐突なのであたしは戸惑ってしまう。
「え、あの・・・。」
こういうのは困ったなぁ。写真を撮られると密偵だけじゃなく元居た場所から変なのがついてくるからなぁ。
「ごめんなさい。ご厚意は嬉しいけど急にはちょっと・・・」
「いきなり撮影で女の子口説こうとした訳。根暗?」
「そんな言い方ないだろ。僕は彼女に喜んで貰おうとしただけだよ。」
「写真家って女子に撮影するって近寄るからでしょ?」
「君の友達だろ。いきなり変な感情なんて湧くか!」
まずいなぁ。また険悪な雰囲気になっちゃったよ。
そんな二人の間に学校の事務係の人がお兄さんの名前を呼びながら近づいて来る。
振り向いたお兄さんに気付いて近づいてきた。
「あぁ、タトリンさんですか?ホテルの方からお電話があるらしいのですが。」
困惑した顔でお兄さんが電話の所まで行くのを私達二人もついていった。
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