第13話 テロリスト達の夜

フランスの森で目立たぬようタバコのフィルターに口を付けていたナシムは煙を吐き出すながら己の立場を嘆いていた。精鋭の落下傘部隊に入隊できたと思ったら上官の反乱未遂でこの逃亡生活だ。


現在アジトの小屋に籠っているその上官は有能との評判だったが異常者であるとも聞いていた。どうやら後者の側面が強かった様で数か月前の兵営でも生活と現在の強盗まがいの生活がどちらも夢の様に感じられた。どうせ夢なら兵営での下士官用ベッドで覚めればいいのにと思っていた矢先に仲間達がやって来た。

小型のバンから仲間達が次々と降りて来てアジトに木製のクレートを運んで行く。おそらく憲兵から奪った短機関銃なのだろう。今度はどこの銀行を奪うのやら・・・。

そう思いをはせた直後にバンから出て来た私服姿の軍曹がナシムに近づいて来た。ナシムの敬礼に軍曹が返礼する。

「爆弾の威力を試す為に近くの安ホテルで適当に試してみた。コンポジション爆弾の威力は絶大だな。今頃その部屋の奴はお陀仏だね。」

威力テストの為に犠牲になった名も知れぬ宿泊客が可哀そうだねとナシムはほくそ笑む。


「そうだ伍長。歩哨の任務を俺と交代しろ。中に入って少佐殿の話を聞いて来い。」

「了解。伍長、アジトに戻ります。」


歩哨の任を解かれてアジトの中に入れたのは幸運だった。フランス南部とは言えこの寒さはきつい。故郷アルジェリアに似た様な寒さだ。

アジトの小屋に戻ると小さな部屋に軍隊時代からの仲間がギュウギュウ詰めに集まっていた。しかしこれでも大分減った方なのだ。大半は政府への決起を起こす前に地元の警察に検挙されてしまった。

そんな事実など意に介さぬ様に部屋の中心に立っていた壮年の無精ひげの男が咳を払う。彼こそがナシムの所属する一隊を率いるテマム少佐なのだ。

部屋の中心にあるテーブルに手に持っていた地図を広げてナシム達に見せた。珍しい光景ではない。銀行や警察署を襲撃する時も同じく地図を見せられた。今回違うのは地図に載っていた構造物が如何にも学校の様だったからだ。


「決行は数時間後の午前7時。目標は聖ドニの女学院だ。ここを襲い、立てこもる。」


「憲兵の兵営でなく学校を襲うのですか?」


「不満かね伍長?」


「いえ少佐殿、ただ学校を襲うのに利点があるとは自分には思えません。人質も逃亡の際には足手まといになるだけではありませんか?」


「心配するな伍長。あそこはただの女学院ではないよ。それに人質は一人取るだけでも良い。例の小娘だけでも。」


諭しながらほくそ笑む少佐の目先は隠し撮られたアリスとマリアンヌの写真に向けられていた。

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