第11話 お兄さんのパスポートをみた

どうやらアタシが先ほど見た光景は偶然の産物だったらしい。

てっきりお兄さんが見ない間に綺麗になった妹に欲望を抑えきれず手を出したのかと思ったけれど。

でも他の女子は信じてなさそうだけどなぁ。恋愛小説みたいな展開だったからみんなあんなにはしゃいでたし。

アタシへの説明を終えたお兄さんは疲れたのか溜息をつき始めた。


「じゃあそろそろ時間だから僕、風呂に入ってくるね。」


あたし達は座ったまま、部屋から出ていくお兄さんを手を振って見送った。


「もう!あいつの所為でアタシが誤解されるんだよ!何であんなに疲れたつもりなんだろう・・・」


既にパジャマ姿に着替えたマリアンヌは頭を抱えながら兄への怒りを発散していた。


「まぁお兄さんも悪気があった訳じゃないらしいし・・・」


「はぁ・・・考えただけで疲れてきた・・・暫く横になってるねアタシ」


頭を抱えたマリアンヌはそうあたしに言うと2段ベッドの下段の方へと壁の方へと背を向いて横になった。

しめしめこれはいい機会だ。こんな時いたずら好きを自認するアタシならどんな事をしてやろうかと悪だくみをし始める。まぁお兄さんのカバンを漁る程度の事しか出来ないけれど。


「さぁて、お兄さんは一体どんなエロ本を隠しもっているのやら。」


兄妹がみていない隙にお兄さんのダッフルバッグを漁ってみる事にした。中身の位置さえ元通りにしちゃえばバレないって。


「ふむふむ、お兄さんの性癖は意外と普通なモノなんだねぇ」


生まれたままの姿のお姉さんが乳房を手で隠している表紙をめくりながらアタシは雑誌の中身を確認する。

しかし雑誌の終わりまで到達してもこれといっておかしい所は無い。

つまらない。

飽きたアタシは雑誌を近くに置いてさらにバッグの中身を漁る事にした。

すると手帳の様なものが出て来た。

見た所パスポートの様だ。しかし何だか変だ。

表紙にはどこにもフランスとは書かれておらずスペインの紋章が記されていた。表紙をめくるとお兄さんの写真とその横に全く違う名前が書かれている。


どういう事なの?パスポートに書かれてある名前は本名なの?そもそもマリアンヌの話だと彼はずっとパリにいた筈なのにどうしてスペインにいた訳?


お兄さんには何か秘密がありそうだ。でも詮索はこれ以上やめておこう。マリアンヌにも言えない大きな秘密ならあたしにだってあるのだから。

毛が逆立つような気味の悪いパスポートとさっきのエロ本をこっそりとバッグにあたしは戻したのだった。

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