0-2 踏み出す、運命の一歩
ハイオークとの戦いから、およそ二週間後。懸命の治療と持前の回復力で、テレザはどうにか現場に復帰できるまでになっていた。ハイオーク討伐の報酬が医療費で吹っ飛んだのは気にすまい。
小高くなった丘で馬車を降り、目指す街並みを一望する。
出発地点――テレザが元々所属していたギルドのある街と比べると、幾分小さい街だ。大きな建物も少ない。快晴の日差しが遮られることなく、石造りのメインストリートに燦燦と注いでいた。とはいえ流石は
時刻は正午頃、幻導士も商人も農民も、街中に入ってから足を止めるのは憚られるほど忙しく、人々が通りを行き交っていた。裕福ではなさそうだが、表情の明るい人間が多い。期待に胸を膨らませ、テレザは街に入っていく。
「んー……!」
馬車で縮こまった体を伸ばしながら、テレザは街の中心部にある幻導士ギルドを目指して歩く。脇腹に、もう痛みはない。軽い戦闘なら大丈夫だろうと医師のお墨付きももらった。
ギルドの建物に着いた。ドアベルの音が小さく、喧騒の中に消えていく。見渡してみると、構造はテレザが元いたギルドと大差ない。受注カウンターも兼ねた酒場といったところで、壁は汚れているし、椅子やテーブルの脚には折れたのを修復した痕跡がいくつも見える。
ご丁寧に「
看板曰く――世界を形作った神々と人間が、まだ親しかった遥か昔。人を発展させんと神は溶岩を、海や川を、森林を、土壌を、雷雲を、星光を……様々な自然を象る物質を与えた。
「それが幻素。で、幻素を色んな形に出力できるのが幻導士、か……」
何の気なしに、テレザは看板の内容を要約する。幻導士とは、体内のエネルギーから幻素を生成し、意のままに操る者を指す――というのは、古臭く厳密な定義。
幻導士にも当然、格というものがある。幻素の扱いはおまけ程度、戦闘では武器を振り回すだけの人間でも、幻導士ギルドに登録が認められれば幻導士を名乗れてしまう。
「看板通りの使い手なんて、ほとんど見ないけどね~」
テレザのような大型の魔物を仕留められる幻導士など、一握りいるかどうか。そんな独り言と共に、カウンターへと向かう。が、生憎と受付嬢は金髪の少女と何やら話している最中。少々時間のかかりそうな雰囲気だった。
「仕方ないか……先に、依頼の確認でもしましょう」
テレザはクエストボードを見て、適当に依頼票を取る。人々の悩みは住む地域によって様々だ。依頼から、その土地がどんな場所なのかを感じ取ることもできる。ここには森に棲む動物や魔物に関する依頼が多く見られ、人と森との距離が近いことを思わせた。
「……これかしらね。フォレストウルフの討伐」
テレザは、家畜を襲う害獣の討伐を受けることに決めた。カウンターに近い椅子に座り、少女の手続きが終わるのを待つ。
少女はド新人なのか、話が終わると大層緊張した様子でクエストボードへ向かった。漏れ聞こえた会話から、名前はシェラというらしい。
満を持してテレザは受付嬢の真正面に立ち、話しかけた。
「ねえ、この依頼を受けても……」
しかし受付嬢は、低難度の依頼票を漁るのに夢中で顔を上げてくれない。テレザの言葉も、耳に入っていないようだった。シェラとかいう新人のことが気になるのは分かるが、こちらも対応してもらわねば困る。
「ちょっと?」
少し声を大きく呼ぶ。そしてトントンとカウンターを指で叩くと、やっと受付嬢が反応した。顔が跳ね上がる。
「あ、と。失礼しました。何でしょう?」
「この依頼、受けても大丈夫?」
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