006:暁雨、早朝に川原を散歩する(12)
「何の用や」
背に取り付いている冷たい体に、呼ぶ名前も知らんまま声をかけました。
のしかかるような重さです。
「
ぜえぜえ苦しげに、半分だけの男は
何か
「血ならもう、くれてやったやろ」
「足りない足りない……」
まあ半分だけで良かったですよね。全部ある体できつう抱きつかれたら、
「血をやったら
「はい……はい……
振り返って見ると、男は
腹も減ろうというものです。
見れば、破れた服よりも
失った半身を
それには何かで
そのために我が家の
油断は禁物です。
着物の
痛みというほどのものは感じません。そういう感覚はもう死んだのでしょう。
血の匂いに耐えきれんのか、片方だけの腕で私の腕に
見れば、口元はもう欠けてはおらず、可愛げのある丸顔の
川から
死なんように
そのままでは、全身が再生するには長い時間が必要やったやろうな。
布団に寝かせてやり、その時も私の血をやりました。
味を憶えた化け物はまた襲ってくるかもしれませんけど、
「そろそろ名を聞こうか」
夢中の様子で血を
「名前……忘れました」
「あるのは、あったんか?」
名のない化け
それには適当な名を与えてやれば、
「あったと思います。皆が……呼んでくれた」
仲間がいたのか、そんな時もあったことを
人を食うような化け物には見えませんけど、食うんでしょうね。血の味は知っているようや。
優しげな美しい顔でも、化け
「どこへ帰したらええんや、お前を。なぜうちの息子を呼んだ」
「分かりません。どこへ帰ったらええんやろ」
そう言うて、男はまだ欠けた白い月のような顔で、さめざめと泣きました。
なんで泣くんや。
私が若かった昭和の初めごろには、男がメソメソするなど、もっての他でしたけどね。
私も男の子が泣くもんやないて、それはそれは
それでも泣くていうのやから、よっぽど悲しいんでしょうかね。この男も。
「うちに
「僕はそんなんやないです……! そんなん……しとうない……ほんまです! 皆の……オトモダチやったのに……」
急に
「ユミちゃん……ユミちゃんに会わせてください。僕の名前……知ってるはずや」
しくしく泣きながら、男がそう
そんなもん。会わせるわけにはいきません。
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