006:暁雨、早朝に川原を散歩する(8)
「あなたがたは誰ですか」
目を覚ました半分だけの男に、いきなり
こっちが聞きたいわ。誰やお前はって。
そやけど、先を越されましたね。参ったな。
「
「
知らんように
半分だけしかないのですから、そら
私も戦時に訳あって
正直申しまして自分が誰やったのかも忘れるほどでした。
そやから、この男もそうやったんでしょうね。
「すみません。お名前聞いても分かりません。ここはどこなんでしょうか」
男は口を動かしはするものの、その口で
いわゆる
普通に口がきける
「
「川……」
「川底に
いきなり名を教えるんは危険です。
ユミちゃんに害があっても困りますので。名は内緒です。
「あぁ……ユミちゃんか」
ぼんやりした目のまま、男がそう言うんで、思わず声上げそうになりました。
なんで知ってんのや‼︎
「いい子ですね。耳もええし」
うっすら微笑の顔になり、男はもう疲労したように目を閉じかけています。
「名を言え。眠る前に。どこから来たのや」
布団に
どことのう、いつも
「どこから来たのやろ……分かりません……ミズグチさん」
「それがお前の名か?」
思わず問い詰める声になって言うと、男は布団で淡い
「違うと思います。僕が……探してる人の……名前、や」
眠ったんやと思います。気を
それとも死んだんかと思える急な沈黙やったんで、後ろに
「死んだ?」
「死んでへんわ。寝ただけや」
振り向くと
「見てへんかったんか、お前」
「調べてたんや。ミズグチさん」
「何か分かったか?」
一緒に話を聞いてんのやと思うてたやないか。
「分からん。坊がそいつに聞けばよかったのや」
まるで自分には関係あらへん仕事やていうみたいや。
関係ない⁉︎
実はそうかもしれないです。
別にこいつは
お
それは困ったな。
「ちゃんと聞いたやないか。それでも、こいつ、何も知らん分からんて言うてたやろう」
反論しましたけど、
どことのう突き放したような顔でこう言いました。
「なんも言うてへんことないわ、こいつ、ミズグチさんを探してんのやろ? それとユミちゃんとは何か話してたんや。何を話してたか、ユミちゃんに聞けばええやんか」
いやいやユミちゃんはまだ小さいのやし、こういう事に巻き込みとうないんや。
とは言え、この半分男を拾ってきたは、そもそもユミちゃんか。
どないしましょうかねえ。
「もう寝てるわ、
「十一時やもんな。良い子は
スマホがあるのに腕時計を見て、
こいつずっと腕時計してるんです。好きなんでしょうね。
大抵は取っ替え引っ替え違う腕時計なんですが、今日はえらい古いオメガを使ってました。
戦時中のもんですよ?
もう捨てたんかと思うてたわ。
昔、
なんで捨てへんのかな。おかしい奴や。
よっぽど大事な時計なんでしょうね。
こいつはその上官と、ええ仲やったのやから。
悪い仲というかね。
ええ人ではなかったんですよ。
その悪縁から救い出してやったんが私やった……と思うんですが、どっちが悪縁やら分からしません。
実は、救い出したりしいひん方が、こいつの
「泊まっていくか」
もう遅いしな。一応聞きました。
「泊まっていかへん」
あっさり返球です。返答早いな。
「なんでや……」
ついため息をついて、私はがっかりしたんでしょうか。ほんまにこいつに関してはこの何十年、がっかりし通しです。
「ユミちゃんに、
「誰の
「
真面目に言うて、
「こいつ、早う行き先探して、片付けてくれ」
布団で気絶している半分の男を見下ろし、
「なんでや」
「なんででもや」
怒った顔で言うてます。
何を怒ってんのや⁉︎
俺が何したって言うんや。まだ何もしてへんやろ⁉︎
一切信用がないんですよね。
「ミズグチさん。俺も探してみとくわ」
「
「分からんけど探す。そこしか手掛かりあれへんし。何か分かったら連絡する」
「何も分からへんかったら連絡しいひんのか」
驚いて聞くと、
「アホやな。
そう言いながら、もう半分ぐらいジワッと消えてるやないですか。
こいつも
いつもなら一瞬で
「坊……好きや。俺のことも忘れんといてくれ」
切なげに言うて、それも
は? なんて?
俺いっぺん死んださかいに、耳遠いんやわ。
もっと大きい声で言うていけばええのに。
ほんまにいつまで経っても、お前はアホな
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