第19話 極悪の頂処


〈【頭突き】がレベルMAXとなり【大王アスモダイの黒曜砕き】を獲得しました〉


 最上級のスキルを手にしてからは、岩を岩と感じなくなった。


「出るか」


 二つの岩を粉々にし、出口を通って白い世界に舞い戻る。

 そんな俺に、蛇がするすると這って近づいてきた。


「よくここまで耐えた。頂処にそなたを移す」


「……その前に天使の部屋に戻せ」


「それは二度とできぬ」


 蛇が即答した。


「――勝手に移しておいて、ふざけんじゃねぇ!」


 俺は蛇を見下ろして、怒鳴り散らす。


「知ってるだろ! 俺の大事な人は、あの魔法でやられた! まだ全然足りねぇんだよ!」


 蛇は舌をちろちろと出しながら、無言で俺の怒声に耳を傾けていたが、やがてぽつりと言った。


「……大事な人か」


「そうだ。俺が守りたかった人だ。いいか、百発耐えられるようになるまで、あそこで修行を積む。ごちゃごちゃ言わずに天使のところに戻せ」


「そなたのレベルを見よ」


「なに」


「ステータスを確認してみよ」


 蛇が言う。


「ステータスだと……うぉあ!?」


 何を言い出すんだコイツ、と思いながらも確認してみる。


 爆発していた。


「な……なんだよ、これ……」


 つい最近まで6だったレベルがいつの間にか、184になっていた。

 HP、筋力、敏捷度などの各項目も桁が2つ以上変わっていた。


 これが実際の数字だ。



 イーラ レベル184 (左はレベル6の時の数値)


 HP  216 → 3795 

 筋力  18  → 4787

 敏捷  8   → 5522

 体力  12  → 4101

 魔力  12  → 273

 精神力 12  → 2420



「お前が頭突きでいいだけ割っていた岩は黒曜鎧魔神アームドオブシディアンという魔神だ。割るたびに経験値が入る」


「………」


 俺は言葉が出なかった。


「理解したか」


「も、もう一度さっきのところへ戻してくれ」


 そんなことなら、あと1年でも2年でも割り続けてやる。

 だが蛇は、一度出た処には戻れぬと繰り返すだけだった。


「さて、そなたの鍛錬はここで終わりだ」


「終わり? もうひとつあるだろ」


 俺はすぐに問い返す。

 今のは、第二処のはずだ。


「頂処は規定で、素通りして良いことになっている」


「……どういうことだ」


 蛇の話はこうだった。


 約1200年前、頂処に魔界でも悪名高い魔物の幼体が配置された。


 本来、その魔物は倒されることで再生時に弱体化するため、当時は管理可能と判断されて置かれたのである。


 だが地上で見せていたあどけない幼体は、仮の姿。

 大地に根を下ろし、地中深くで、その魔物は大きく進化を遂げていた。


 頭角を現し、想像以上の成長に悪魔たちが気づいたころには、すでに手遅れ。


 そもそも倒せなくなっていたのだ。


 頂処には一人しか入れないことも災いした。

『七つの大罪』が入り、多少倒すことに成功しても、再生がそれを上回る。


 当然、鍛錬させようにもまるで鍛錬にならなかった。


 それゆえ、現在はスタートのすぐ隣にゴールを設置し、素通りさせているという。


「そりゃ強そうだな……」


「形だけ通過し、早々に出てくるがよい。祝いの晩餐がそなたを待っていよう」




 ◇◇◇




 やってきた頂処。

 話の通り、すでに隣にゴールが設置されている。


 だが、かんたんに出る気はなかった。

 俺にとって、ここが泣いても笑っても最後の修行の場になるからだ。


 キボンはレベル1000超だ。

 184程度では話にならない。


「ここにそんな恐ろしい魔物がいるのか……」


 俺は周りを見回す。

 そこはなんの変哲もない、じっとりとした空気が閉じ込められている、ただの竹やぶだった。


 今は昼間のようだが、四方が見通せないほどに竹が群生し、頭上までも覆い隠している。


「いないぞ……」


 成長どころか、逃げ去ったんじゃないだろうな、と考え始めた時だった。


「おわっ」


 なんと周囲の竹が鞭のようにしなり、次々と俺に向かって襲いかかってきた。

 そう、このエリア全体が、魔物と化しているのだった。


 だが、俺はひるまない。


「――これくらい」


 竹の攻撃を、次々と躱す。


 俺は矢の試練で【魔神バルバトスの軽やかな心身】まで身につけている。

 そういう意味では、矢が竹になっただけでそれほど恐ろしい試練ではなかった。


「む」


 しかし矢と違い、竹はしなって、鋭く俺の動きを追随する。

 回避できなくなり、手足や背中を打たれ始める。


「魔法か……」


 俺はあえいだ。

 打たれると、電撃のような痛みが走るのだ。


 同時に体が重くなり、眠気やめまいまでもがやってきた。


「な……なんだ……これは……」


 だんだん俺の動きが鈍くなっていく。

 容赦なく始まる、竹の乱れ打ち。


 最初は良かったのに、俺は結局3分ともたなかった。




 ◇◇◇




 この竹は触れることで魔法を仕込んでくるようだった。


 ステータスを見ると、【毒】、【眠り】、【速度低下】、【混乱】、【魅惑】、【感電】、【幻覚】など、もうありとあらゆる状態異常が刻みこまれていたのだ。


 魔法攻撃だけではない。

 物理攻撃も洗練されていた。


 ありえない角度からの攻撃が、同時多発するのだ。


「最高だ……!」


 俺は歓喜に震えた。


 さすが頂点の処。

 申し分ない。

 こいつなら、こいつなら俺の実力を大きく底上げしてくれよう。



 ◇◇◇



 約三ヶ月が経っていた。



〈【雷撃耐性】、【状態異常耐性】がレベルMAXとなり、 【完全異常魔法屈折アンチアブノーマルプリズム】を獲得しました〉


〈 【魔法防御上昇】がレベルMAXとなり、【魔神叶える大悪魔シトリーのカーテン】を獲得しました〉


〈【双剣】がレベルMAXとなり、【魔神煉獄の巫女アシュタルテの剣閃】を獲得しました〉



「――らあぁぁ!」


 俺は捻り折った竹を両手に持ち、降ってくる竹を次々とさばく。

 両手でさばき、【魔神煉獄の巫女アシュタルテの剣閃】を覚えてからは、もはや竹は一本たりとも俺に触れることはできなくなっていた。


 だが、触れられたからといって、どうということはない。

 竹は俺に状態異常魔法を打ち込むことができないのだ。


 幸い、この魔物は一体ではないようだ。

 竹を攻撃し、へし折れば、討伐扱いでレベルもどんどん上がっていく。


 これに気づいた俺は、いくら死んでも笑いが止まらなかった。


 そして。


 ズシーン、と音を立てて、ひときわ大きかった最後の竹が倒れた。

 一番の強敵だった本体部分を倒したのだ。


 ステータスは、ここまで変わった。




 イーラ レベル332 (左はレベル184の時の数値)


 HP  3795 → 12680 

 筋力  4787 → 19728

 敏捷  5522 → 24220

 体力  4101 → 17393

 魔力  273  → 668

 精神力 2420 → 9980



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