第26話 エピローグ


「ふぅ……」


 俺は大きく息を吐くと、事切れたキボンに背を向け、剣についた血を拭った。


 長かったような短かったような。


 ともかく俺の戦いが、今終わった。

 これで……。


「イーラ様……」


 後ろからかかる声に振り向く。


「リーフロッテ」


 白い清楚な女性が、俺を見ている。

 結局彼女は、全くの無傷だった。


 彼女の身に起こった歴史は変わり、生き延びることができたのだ。

 それをこの手で成し遂げたのだ、と頭が理解したとたん、心が一気に安堵で満たされた。


「なんというお力。……あの勇者をたったおひとりで返り討ちにしてしまうとは」


 リーフロッテの声は、心なしか震えていた。


「全員は助けられなかったさ」


 俺は歴史に沿って、リーフロッテを救うことを優先した。

 見捨てざるを得なかった兵士は少なくないのだ。


「それでもあのキボンを倒したのです。彼らも浮かばれることでしょう」


 そう言ったリーフロッテが急に険しい表情になると、俺の前に来て片膝をつき、頭を垂れた。


「――先程は大変なご無礼を、申し訳ございませんでした」


 そして、丁寧な謝罪を口にした。

 揺らめく火のあかりに、彼女の銀髪が暖色に染まっている。


「武王のごとき戦いの様、あまりに見事で、言葉が出ませんでした。……私など、イーラ様の足元にも」


 それに習うように、生き残っていた10名ほどの味方兵士たちも、一斉に跪いた。

 少し離れたところで呆けているトムオが居たが、奴はまだ呆けている。


 どうやらリーフロッテは、「俺では弱すぎる」といった内容の言葉を、悔いているようだった。


「リーフロッテ」


 俺は彼女の手をとって、立たせた。


「これからが大変だ。俺たちにはここにあるだけの物資と人材しかない」


 リーフロッテの背後に控える兵士の中には、俺の言葉に涙する者もいた。


「でも諦めるつもりはない。一緒に立ってくれるか」


 俺はリーフロッテの顔をまっすぐに見つめた。

 そんな俺にリーフロッテは微笑み、俺の手を両手で握ってくれた。


「私で良ければ」


「いや、リーフロッテがいいんだ」


「そ、そんなこと……!」


 リーフロッテが頬を赤らめて目を泳がせ、そのまま俯いた。

 その様子に、周りの兵士たちからも穏やかな笑い声が上がる。


「……よろしいのですか? 私、ずっとイーラ様についてまわりますよ」


 そんな事を言うリーフロッテが急に愛おしくなって、俺は彼女を抱き寄せた。


「ああ。そうしてくれ」


 アハハ、という笑い声と、ヒューヒューという声が兵士たちから上がる。

 焚火の明かりが、そんな俺たちをオレンジ色に染め上げていた。




 END


 お読みくださり、ありがとうございました。

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拝啓 俺が足元にも及ばなかった君へ。今から君を殺した勇者に復讐します ポルカ@明かせぬ正体 @POLKA

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