初めてのクエスト 棚ぼた編2
トロンの爆薬による「異世界発破猟法」で魚達を軒並み気絶させた後、地底湖の中央に鎮座する魔剣の台座へと足を向ける。
「気をつけてよ」
「わかってるって、とりあえず命綱は頼むよ」
万一の事を考えて楔にロープで造った即席の命綱をトロンに持ってもらいながら慎重に地底湖の水面へ歩き出すと、少しずつ澱みのような感触と共に深さが増していく。
「本当に気をつけてよ!僕一人だと帰れないからねっ!」
岸からトロンの叫ぶ声を受けながら聖剣を取り出し、浅瀬のさっき簡易的な休憩スポットを創った要領で腹を向けて浮かんでいる魚達を極力避けて足場を作っていく。
そして慎重に、死屍累々の薄暗い水上をゆっくりと渡って地底湖の中央部にある魔剣が突き刺さる台座に到着する。
実家の近所にあった魔剣ロソギノフスは某観光名所の如く傾いて突き刺さる剣というよりは槍のような柄の長い形状だったが、こっちの名も知らない魔剣は前世のゲームでよく見たようなオーソドックスな西洋風の直刀が垂直に突き刺さっている格好だ。
ただし、柄の部分が棒状ではなくブレスレットを何個も金属の板に溶接した形状で無ければだが。
「思い切り持ちにくそうな形だな……。とりあえず、またダメ元で試しますか」
思わずそう呟いてしまうほどなリング状になっている聖剣の持ち手部分を掴み、ものは試しと引き抜こうとして踏ん張ってはみるが……。
「やはりダメ、か。仕方ないな」
ダメ元で力を込めるがビクともしない聖剣から手を話し、例のごとく
そして台座の根本部分に目掛けて振り下ろせば地底湖に硬質の音が何度も響き渡る。
やがて台座の根本を削り切ると魔剣のリング状な柄を持ち、トロンが不自由な腕ながら持ってくれている命綱を伝って来た道をゆっくりと慎重に戻る。
「ハァッ……。ハァッ……。ヤっと……。ゼェ、戻って……。オェッ……。これ、た……」
果てしなく息を切らし、ブリキのロボットのオモチャのような大きく湾曲したC型のカギ爪の腕の見せ所手首を起用に曲げて四つん這いとなってエヅキながら精一杯酸素を取り込むトロンにズルズルと台座ごと渡河してきた魔剣を引きずながら近づき「大丈夫か」と背中をさすってやる。
「ゼィ……。ウゥ……。あり、がと」
「無理はしないほうがいいよ。それと、一応トロンも試してもらってもいいかな?」
意外にというか研究者上がりである意味当然と言うか体力がないな、という言葉を呑み込みつつそこまで息も絶え絶えなトロンに妙な愛くるしさを感じながらお互いに呼吸を整える。
ある程度息が整った所で台座事持ってきた魔剣を騎士に押し立てて、片足で固定しバランスをとる。
「……まず無理だと思うんだけど、やっぱり試してみる?」
「……っ。ウゥ……。」
そして確率的には極めて低いものの、魔剣を見つけたときのマナーとしてトロンに問いかければ息も絶え絶えに辛うじて返事を返しながらヨロヨロと立ち上がる。
サムズアップの代わりなのか義手の片手を上げ、もう片方で俺の身体をしっかりとホールドしてどうにかこうにかトロンは立ち上がると、魔剣のリング状な柄を持って力を込めるが……。
「……!!っえ?!」
「嘘っ、!だろ……!」
あっけないほどに簡単に台座から魔剣が抜けてしまう。
トロンが魔剣に適合者した紛れもない事実に二人して言葉を喪うとリング状の柄が中心から2つに分かれ、双剣へと成った魔剣がトロンの義手の腕部分にはまり込んで行くのだった。
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