初めてのクエスト 侵入編
ギルドから一時間ほどの場所にある廃坑跡の洞窟に到着すると、案の定というか三匹程のゴブリンが入り口の所で狩った獲物の肉で腹を満たしている最中だった。
「ギギッグッ!ギッギッ!」
「ぎきぃ?ギギュギギガ!」
グチャグチャゴリゴリと骨ごと噛み砕く不快な咀嚼音を立てながらギィギィと独自の言葉で談笑に耽っている。
「うっ……」
「大丈夫か?キツイならもう少し離れたほうがいい」
そんな様子を俺とトロンは少し離れた茂みから伺いっているが、ゴブリン達から発せられるキツイ匂いと血なまぐさい香りにトロンが義手で鼻を押さえて顔色を悪くする。
「だ、だいじょうぶ……。」
(それはそれで金属の匂いでやられるような気がするけど)
気づかれていない事を確認しつつ息を殺して殲滅の準備をする。
「じゃあ手筈通りに、ということで早速一本頼んだ」
「解った」
そう言ってトロンは収納魔法の亜空間から小さい包みを数珠つなぎにしたものを手渡してくる。
昨晩、トロン監修のもと俺が作っておいたもので
雷管代わりに一定時間魔力を遮断するポーションをフィルターとして噛ませて、魔力を浸透しやすくするポーションを染み込ませた紐で導火線を追加することで使いやすくした爆発するポーションの束である。
爆発するポーションの量自体はこの前実験に使ったときよりも減らしてあるが、その代わりに花火のように光を出し破裂音をさせるようにしてもらった言わばポーションで作った爆竹モドキだ。
「魔力を流してから大体3秒で反応して起爆するように調整してあるから気を付けて、あとはコレ起爆用」
ポーチからタバコ用の包み紙を取り出し、未だに鼻を押さえるトロンからポーションの瓶を受け取ると中身を少しだけ垂らす。
そしてクルクルとトロンの作った爆裂のポーションを手巻きタバコの要領で紙に包み着火用の起爆剤にして準備完了だ。
意を決して、爆竹モドキに魔力を送ることで火をつけて入り口へと投擲する。
足元に転がってきた爆竹モドキに入り口付近で屯していたゴブリン達が何事かと近づいてきた瞬間……。
「ギギィっギ……。ギ?」
「ギギィィィィィィィ!!!」
前回使ったものよりポーション自体の量を減らして、更に堅い植物や木の実といった爆ぜやすい物を詰めた即席の爆竹が炸裂し、威力こそ然程ないものの音と飛び散る破片にゴブリン達はパニックを起こし独特の鳴き声をあげながら無節操に逃げ惑う。
「隙あり!『砂の柱!』」
すかさず自身の足の下に魔法を展開させ、その反発を利用した高速移動で一気に距離を詰める。
某赤い仮面の3倍速さんに憧れ、自由で不死身な人狼の技を参考に練習した移動法でゴブリン達の側面から突撃する。
この移動を始めて試したときは盛大にすっ転び、何度となく打ち身と擦り傷を作りながらようやく習得した技で突貫し、未だに音と光によるパニックから立ち直っていない集団の一匹、一番近くにいたゴブリンの腹に
「ぎ!?ギギ?!」
更にもう一匹にもはや虫の息なゴブリンを蹴り飛ばし、その軌道に隠すようにできるだけ同じコースで聖剣を投擲すれば、飛んできた同胞の体を思わず受け止めるゴブリンにその屍体に隠れるようにして飛んできたツルハシがを貫いてツルハシの金属部分が脾腹を直撃しドス黒い体液とともに内臓を抉り出す。
「ギィ?!ギギャャャァァぉァァァァァァぉぉぉ!!、!!??!」
突然の出来事に混乱し、血溜まりを作りながら散乱した内臓を拾い集めるゴブリンに対してこちらは聖剣を一旦消し、手元に顕現し直してツルハシ形態へと形状を変化させさらに脳天に一撃喰らわせる。
そして足払いをかけ地面に引き倒して一匹目と同じように首を踏みつけて骨をへし折ってキッチリとトドメを刺しておく。
「ギ??……、!!!ギ、ギギ……。ぎぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
そして最後の一匹は地面に倒れ、首を踏み砕かれて腹に風穴の開いた同族の屍体に怯えながらも破れかぶれに太い木の枝の棍棒を手に突撃してくる。
「もう一丁!」
それに対し、手元に戻したツルハシモードの聖剣を再度投擲する。
「ギっ!!??イイイィィィィィ!」
サイドスローで投げられたツルハシは重心の関係上二重円を描きながら生き残ったゴブリンを強襲するが、辛うじて棍棒で弾かれる。
重い金属の刃の部分では受け止めても体のどこかに突き刺さり肉を抉るが、目の前で同族を無惨な状態にした飛んでくるツルハシの脅威に臆したゴブリンが思わず頭を庇うためにかざした棍棒が持ち手の部分をガードし聖剣を後方に受け流してしまった。
「ギギィっ!ギガガガガ!!」
武器を手放した事を好機とみたのか喜色の笑みをと奇声をあげながら太い枝の棍棒を振りかぶる。
「かかったな!喰らえヤァ!!」
勝利を確信したゴブリンに対して逆に一歩踏み込む事で間合いを外し、武器を弾いたことで油断したのかガラ空きのボディにカウンターを叩き込む!
腰を捻り、拳法の掌底を繰出すモーションで人体急所の鳩尾に、短打を叩き込めば「ゲヒっ?!」という短い嗚咽を漏らさせる。
ゴブリン等の人型に近い形状のモンスターはその身体の作りも大方人間と同じだ。
それ故に基本、急所もそれに習って正中線に沿って存在している。
この場合躊躇無く人体急所を狙ってくるような訓練をくぐり抜けた俺にとっては普通の大型野獣などよりもやりやすい、自分がかつてやられた攻撃をそっくりそのままやってやれば良いだけだからだ。
『
魔法の衝撃で躍り掛ってきたゴブリンの体がくの字に曲がり、『砂の柱』を放ちガラ空きの胴体への魔法をお見舞いする。
打撃の構えから魔法を放つことで間合いをズラしつつ確実に攻撃を通してあわよくばその一撃で仕留め、外しても真正面からの不意打ちで体制を崩すことができてその次の本命に繋げることもできるの技は初見殺し的な要素がありつつも応用が効くと幅上とメイからお墨付きをもらえた程である。
もっとも……。
(最初以外は読まれてまともに使わせて貰えなかったけどな。まあいい、今は)
「コレでトドメだ」
追撃の砂衝弾五連発でゴブリンを蜂の巣にする。
『
息絶えたのを確認して、更に他数匹も死亡を確かめて念為に首も刎ねておく。
「……えげつない……」
実家で習ったスプラッターな戦闘方法にトロンがドン引きしながらも収納魔法の亜空間から消毒ようのポーションを手渡してくれたのでそれで返り血を洗い流す。
討伐証明部位である右耳を切り取り、トロンの空間魔法で収納していく。
「これで報酬が出るらしいけどいったい何に使うんだ?」
「肥料になるし、一応コレも材料になるから」
スコップ形態にした聖剣で耳を切り取ったあとの血で塗れたゴブリンを埋める穴を作るという形状に相応しい作業を行いながら疑問を口にするとやはり薬学は専門らしくトロンがスラスラと答えてくれる。
そして収納魔法から水の入った革袋と消臭用のポーションを手渡してくれ、それを返り血の付いた革鎧に振りかける。
血の匂いに誘われて猪やオオカミといった猛獣や他の魔物がよってこない優れものだが、当然持ち物を圧迫するためキャラバン等の大規模かそうでなくてもそれなりの人数で持ち物を分担した場合の余裕があるときにしか持ってくることができない。
値段も購入しようとすると財布を圧迫するため毎回は使うことのできないちょっとした贅沢品なのだが渡してくれたトロン曰く
「前に結構作って死蔵してるのがあるからむしろ使ってほしい」
とのことで遠慮なく使わせて貰っている。
普通なら不可能とまではいかないが初のクエストでできるようなことでもないことに、錬金術と収納魔法を使えるトロンと組めた自分のくじ運も捨てたものではないと天に感謝する。
そうして返り血を洗い流し、屍体を始末し終わるとギルドで購入しておいた地図を取り出す。
そこには少しの通路と開けた空間だけのこれ以上ないほどにシンプルな構造が記されている。
「一応、買ったけどコレはいらなかったかな?」
念の為と思って手に入れておいたが一本道の地形は
ギルド側も魔剣があるため地図というよりはカタログ的な意味合いが強いと言っていた。
「いや……、用心しすぎるってことはないと思う」
「それもそうか」
そうしてトロンの実感の籠もった言葉を聞きながら二人して洞窟に入るのだった。
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