初めてのクエスト 争奪戦編

「これより実地授業をはじめる、各員好きな依頼を選んでくれ。早いもの勝ちだぞ!」


 実地授業_______それは学園側から提供される授業と言う名の公認アルバイトであり、貧乏貴族の末男や懐事情の寂しい者たちにとって貴重な収入となっている。


 依頼を斡旋するギルド側としても余りがちな簡単な採取、討伐など地味ながら必要な常駐クエストのうち幾つかを学生用として優先して受けられるようにして魔物素材の確保や、近隣の安全の確保といった比較的やりごたえのあるものからお使いや清掃といったものまで簡単な依頼の中でもピンキリがあり出遅れると本当に悲惨な依頼しか残っていない場合は報酬も割に合わないことも多々ある。

 そのため、少しでも割の良い依頼、楽な依頼と自分達の欲するクエストを受注しようと学生間で熾烈な争奪戦が行われるのは常でありここ冒険者養成学校提携ギルドの風物詩となっている。

 特に初回の実地授業である今回は全員集っての横並び一直線でのスタートなので妨害しあい、潰し合いが特に顕著だ。


 依頼を巡って押し合いへし合いする学生たちの様子に夜通しの依頼を終えて帰ってきた冒険者やコレから依頼を見繕う冒険者、果ては仕事を効率よくこなした要領の良いギルド職員までもがこっそり集まり小銭を集めてトトカルチョを始める。


「お、学生さんたちさっそくやっているな」


「今年ももうそんな季節だな」


「今回は探索系が多めですね」


「おい、どの小僧に賭ける?」


「今年はあの兵隊喰いの倅がいるらしいぞ、せっかくだし俺はソイツに一点張りだ」


 学園と情報を共有することである程度実力や適正に添った依頼をオススメでき、将来的な戦力を発掘することができるという仕組みになっていて、見定めという名目で掛けを楽しみながら目敏く冒険者の卵を観察するギルド職員たちも多い。


「あのコンビは微妙ですね、斧使い二人なのに野ウサギの採取任務を狙っていますよ」


「多分狩猟のほうがあってるし途中で出てくる別の獲物を待つ一発狙いだろう。あれは当たればデカいが殆ど当たらんがな」


「お、今年はアノ依頼に気付く奴がいるのか。コイツは目端が利くな」


 そんな需要と供給の織りなすシステムのもと、少しでも良い依頼を取ろうとする学生達の時に共闘し、時に騙し合う熾烈なバトルロイヤルを勝ち抜いて一つのクエストを確保する。


「こ、この依頼をお願いします……」



「ハイ!廃坑となった魔剣の洞窟踏破及びマッピングの練習クエストですね。承りました」


 他の生徒達が比較的安全で楽な薬草採取の依頼か自分の実力を試せて報酬の割のいい魔物や獣の討伐依頼に行く中、俺が取ったのは所謂ダンジョン探索系の依頼で階層の浅い洞窟を見回り住み着いた魔物等を狩るものだ。

 正直あまり報酬の良いものではないが行くタイミングによっては全く住み着いていない場合もあり、楽と言えば楽な隠れた人気依頼だ。


「それとローゼス学長からあなたに伝言です[ある程度壊しても良いので存分にやりなさい、あと新しい何かを発見したら掘り出して持ってくるように]だそうです」


 途中、某ホビーレースアニメ初期の黒剣軍団もかくやというスクラムディフェンスと妨害を黄金の精神と人間重機のパッションで乗り切ったお蔭で息を切らす俺に窓口から受付嬢が伝えてくれる。


「あ、ありがとう……。ございます?」


(一応、確認はとっておいたけどやりたいことはお見通しか……)


 そう思いながら、達成感と共に依頼書をロビーで待機するトロンの元へ持っていく。


 初の実地授業ということでどのような依頼を受けるのかも見られ、そして早いもの勝ちのソレラをいかに確保できるかどうかという所も評価の一環になっている。

 事前に下調べをし、ある程度決め打ちしていたので狙っていた依頼を真っ先に確保できて、さらにやることがやることなため学長の許可ももらっているので今回に限ってはその心配はなかった。


「……例の依頼取れたの?」


「モチロンだよ!」


 両手の義手でカップを抱えるようにしてホールドしつつコーヒーを啜りながら聞いてくるトロンにヒラヒラと受注紙と割符をテーブルに置いてみせる。

 そして果汁水を注文し、運ばれてきたソレを一息に飲み干して喉を潤す。




 依頼を受けた洞窟は近隣にあって元は露天の採掘場があったところらしい近年鉱脈が尽き、採算がとれなくなって廃坑となった。

 魔剣が鉱物を集めているため採掘できなくなったとも考えられたが、埋まっている魔剣『メトゥソグ』にはそんな能力は無いらしい。

 魔剣が一本埋まっているため場所も相まって赴く者は多いが掘り出せた者はおらず、そのため情報が出揃っている。

 そのうえ魔物にとっても程よく住みやすいためゴブリンやスライムといった低ランクのものや、野生の動物が集って群れをなすことが多く、異常繁殖によるスタンピードを警戒して監視こそ必要なものの下級冒険者の練習に丁度良いことから狙い目の場所になっている。



「良し!行くか」


「おー」


 初めてのちゃんとしたクエスト、其れも基本的には非戦闘員のトロンを護衛しながらということで気合を入れると抑揚の少ない声ではあるがトロンも応じてくれるのだった。



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