初めてのクエスト 実験編

「……やっぱり変だよ、その聖剣……」


「まぁまぁ、コレ《ツルハシ》を出した方がやりやすいんだよ」


怪訝な顔をするトロンにそう返しながら聖剣を肩に構え、逆の方の手を地面に付けて魔法を行使する。


「まずは……『礫化』っとそれから『中落とし穴精製ミドルホール』、……すっかり手慣れてしまったな」


土魔法に聖剣の能力、どちらも野戦陣地構築に便利ということで徹底的に扱かれ……。もとい仕込まれたお蔭で工兵顔負けの速度と精度でタコツボ、並びに塹壕を作ることが出来ると自負している。


今回は実家でやらされていた実戦でやるような最低限の工程で時間を短縮して作成するのとは逆、強度と精度を重視してゆっくりと魔力を通して聖剣の能力を使い、とにかく頑丈なモノを作成していく。


「あとは『土のアースウォール』も一応やっておくか……」


ある程度の範囲を基礎魔法で脆くし、扱いやすくしてから穴を掘る。

さらに土の障壁を作る魔法を合わせることで壁と穴の高低差をもった即席の塹壕を完成させる。


特訓しごきで幾度となく作らされた土の塹壕は今ではすっかり手慣れたものである。


「今回は衝撃吸収も加味して湾曲させる……っと、とりあえずこんなもので完成かな?」


「……充分、とりあえずにしてはやり過ぎなくらい」


手早く、それでいてできるだけ頑丈に作ったソレにトロンはコンコンと軽く義手で叩いて強度を見ると呆れと感心の入り混じったような表情を浮かべる。


「まぁ……。それはむしろ都合がいい、かな……?こっちも始める」


そういうとトロンは「みていて」と言って材料を並べはじめ、その中央に小瓶を置く。


「上にあるものは下にあるものの如く、下にあるものは上にあるが如く……。

変異せよ『練成』」


某鋼鉄兄弟と詠唱のあわさったような所作で両手を翳せばそれらの素材が淡い光に包まれる。

暫くして光が収まると並べられていた素材は跡形もなくなり、代わりに小瓶の中に 色の物体が満ちていた。



「本当はちゃんとした研究室の機材で作ったほうが精度いいのが出来るし調整も利くけど今回は手早くこっちで……。」


「なるほど、お手軽バージョンということか」


大仰な詠唱を伴って作る爆薬ということでもう少し固形、もしくは漫画のようにドクロのマークがついた球形の砲丸をイメージしていた。しかし見た目は思っていたよりも薬品、というか飲み薬に近い。



「それで?これはどうやったらいいんだ、そもそも触っても大丈夫なのか」


「それは大丈夫……。直接飲みでもしない限りは……。なんなら『土のアースハンド』で地面に垂らしてもいい」


言われた通り『土の手』を操作して瓶から新たに作り出した2つ目にほんの少しだけ垂らしてみると見た目より粘っこくポーションというよりは科学の実験で作るスライムに酷似している。


「ある程度こねて魔力を込めると爆発するから……。そのまま穴の淵から伝導させたらいい」


話を聞くと材料は火薬でもプラスチック爆弾のようだった。

完全に某三代目怪盗が隠し持って随所で使用するようなガム状の爆薬をもう少しファンタジーにしたような、それでいて魔法要素の入ったソレに気を引き締めて一度慎重に垂らした分を瓶の中に戻す。

しっかりと瓶に戻ったのを確認し、穴まで一直線に『土の手』を配置、急いで退避する。


そして堀った穴の淵から『土の手』を使ったバケツリレーならぬ小瓶リレーで穴の底に爆裂ポーションをセットし、瓶ごとポーションを捏ねくり回す。


「器用な魔法の使い方をするね……」


「こうでもしないと危ないでしょ。うっかり直接魔力流しそうになったし」


いち早く壁の後ろの塹壕に避難していつでも引っ込めるよう半身を障壁に隠しながら言うトロンに苦笑しながら内心で冷や汗を流す。


「いや……。そうしたら魔力が届かないんじゃ……?」


一部を除いて魔力を直接流すことは射程があまり短く手を伸ばして1〜2メートル程が精々で何かを媒介にしてもそこまで、というのが定説だ。


(確かに普通ならソレは正しい……でも)


実家で徹底的に出の速さと調整、その他の操作を扱かれたお蔭で触媒込みならこの程度の距離はどうということはない。


「それなら大丈夫。とりあえず裏に行こうか」


トロンの背を押して共に壁の裏に隠れる。

そして地面に伏せ、念の為耳を塞いで口を開けて鼓膜を保護しカウントダウンを始める。


「それじゃあ……。5、4、3、2、1……発破!」


ブービートラップの起動に何度となく使わされた技能で魔力を流す。


暫くすると穴の底から僅かに脈動するような振動が起こり、爆音と共に土埃が舞い上がる。


「おお……。流石にスゴい威力だな」


腹の底にガツンと響くような衝撃に思わず感嘆の声が漏れる。


「スゴい……」


一泊置いて砂利が降り注ぐなかトロンがポツリと呟く。


「作った本人がそんなに驚いてどうするの?」


「いや……。威力としては大分抑えられてる、あんな使い方をしたことに驚いている」


どうやら想定していた起爆方法ではなかったらしく、トロンは眼を丸くしている。


「導火線みたいなのはないのか?もしくは時間差で魔力を流すようなヤツとか?」


「……僕は成分とかが専門でそっちについてはちょっと」


どうやら実用については考えついていなかったようだ。

確かに爆薬の概念がなく実用についてはコレから煮詰めていくという所で研究を強制的に打ち切られたのだからある意味仕方ない。


「でも、コレでどう使うの?新しく作るにはまだ実験も設備も足りてないし……」


「それについては考えがあるから大丈夫」


疑問を呈するトロンに俺の考えを話すと納得したのか義手でポンと手を打つ。


そして、数日後。

学園で用意されたクエストこと実地授業の日がやってくる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る