始めてのクエスト 立証編
入り口に陣取っていたゴブリン達を蹴散らして内部に潜入する。
脳内では某探検隊の歌を流しながら(歌詞に則れば確実に一人は足りないが)洞窟内をギルドで貰った地図に従って開けた場所を目指せば、実家にあった魔剣ロソギノフスの突き刺さっていた場所と同じく一本道の洞窟の奥に少し広い所がある。
ソコに魔剣の刺さった台座が鎮座するという魔剣の所在としてはもっともオーソドックスかつ単純な構造のダンジョンだ。
「お、ここだな」
広間のような空間に幾つか鉱石を採掘していたと思われる放置された採掘具がかつて午後が採掘現場たった名残を見せる。そしてその亀裂の一つに嵌まり込むようにして台座が存在している。
「今更だけど……こんなところでアレを使って大丈夫なの?確かに実験はしたけど威力を重視した調合だし……。崩落とか……」
「そこはそれ、俺の出番だよ。コイツをつかって補強するし」
心配するトロンにツルハシ形態の聖剣を見せ、いざとなったら掘り進んで脱出して見せるというと顔を引き攣らせられた。
「でも、万一の場合は直ぐに退避しよう」
「それ、全く安心出来ないんだけど……」
そういうトロンを安心させるべく、先ずは周りの壁に手を触れて魔力を走らせ頑丈さをチェックする。
流石に元は鉱脈であっただけあってキッチリと硬化の魔法がかけられており、ちょっとやそっとの衝撃
では崩落しないように補強されていた。
「調べてみたけどキッチリと土魔法で崩落防止の補強された跡が残っているし、大丈夫そうだ」
そして、かつてやったのと同じように聖剣をツルハシモードにして台座の周り、突き刺さっている部分とは材質の違う土との境目に穴をあける。
「あとはコレをセットして……、と」
作った穴の中にダイナマイトと化したポーションを差し込み、そのうえから填塞として聖剣の能力で威力を底あげした魔法で土を固めた物を作って被せる。
火力のもととなる爆発ポーションの量を増やして導火線を追加し、本格的にダイナマイトのようになった代物である。
一応、実験した時と同じように魔法で即席の塹壕を作った上で二重三重に土壁を増やすことでより防御力の向上をはかる。
さらに念には念を入れて入り口からほど近い地点から点火する。
(ここまですれば大丈夫だろう。万一崩落しても直ぐに逃げられるし)
「それじゃあ」
「……うん!」
トロンが首肯し、蹲って義手で両耳を塞いだのを確認して自分も塹壕の裏に隠れる。
口をあけて鼓膜対策をしてから右手をトロンの目の前に出し、指折り数えるハンドサインでカウントを見せ魔力を流すと同時に素早く右耳を塞ぐ。
実験で試した時よりも距離を離したうえで障壁を何重にもしたお陰か訓練場で起爆させた時よりも爆風は少ないが、それでも結構な音と衝撃が洞窟内を駆け回る。
「……よし、成功だな」
爆発ポーションによる発破はものの見事に台座周辺の土を吹き飛ばし、クレーターをつくってくれていた。
それどころかポーションダイナマイトの威力は想像以上で発破は成功したが開けた空間の壁を打ち壊し、新たな横穴の窪みを形成する。
「よっっし!!!」
しゃぶしゃぶ鍋のように台座だけがクレーターの中心にポツリと残った狙い通りの有様に思わずガッツポーズを取ってしまう。
「ちょっとまって!」
トロンに制止され、服を義手で肉ごと掴まれる。
その痛みに何事かと思い一度止まるが、トロンがマジックアーム状の義手で指し示す方に目をやるとその理由に合点がいく。
ポーションダイナマイトの予想以上の威力に台座周りがガラス状に変化し、その高熱から爆心地にほど近い部分では未だに煙がでていた。
「ッ!と危なかったな。ありがとうトロン」
「え、エエいや……、別に」
照れくさそうにしながら新たなポーションを取り出す。
「コレをふりかけたらイイ」
そう言うとトロンは冷却用のポーションをクレーターの側面に流しかけ、その間に持参したロープを使って投げ縄の要領で魔剣に縄をかけておく。
少し待って煙が収まり、熱が散った事を確認して改めてクレーターの中へと下りる。
ハーケンを打ち込み、ロープで体と繋いで命綱にし慎重に穴底へと降下して台座の根本から木こりが斧で木を切り倒すようにツルハシを振りかぶる。
「それじゃあワーン、ターン、メン!っと」
「ナニその掛け声……」
穴の縁からトロンのツッコミが入るが気にせず腰を入れて某ゴルフ漫画の掛け声でスイングし、台座に風穴を開ける。
さらに数回、往年の鉄人監督を彷彿とさせるフルスイングを繰り返すと台座がピシピシと音をたててヒビ割れ始める。
「倒れるぞ」
クレーターの縁にいるトロンに注意を促すと木こりなんだか鉱夫なんだかよくわからない気分になりながらも台座の倒伐に成功する。
トロンの収納魔法に入れると言っても流石にこのままではあまりにあまりなため、ある程度台座部分をツルハシで折り砕いて短くする。
そうして魔剣の先端が埋まっている部分を除いて掘り出しが完了し、そのまま引き摺って登ろうとするが……。
「ん、流石に重いな。トロン!悪いけど降りてきてくれないか?」
「わかった」
ダイナマイトポーションとツルハシで砕いたとはいえ台座の付いた魔剣は流石に重たいためトロンに降りてきてもらい、収納する。
「やっぱり流石の威力だよな」
「そっちの方がよっぽどおかしい」
トロンを背負ってそんな軽口を叩きながらツルハシモードの聖剣を短くして作った即席ピッケルで少しずつクレーターを登頂し、軽く休憩がてら辺りの様子をみる。
壊した壁の具合を確かめようと横穴に手をついた瞬間……。
「え?」
ピシリっ、と嫌な音がして恐る恐る音の方をみると手をついた壁には罅が入って今もなお広がっている。
みるみるうちに広がって崩れ去る。
そしてその壁の向こう側には道ができていた
「隠し通路ってやつかな」
壁の向こうは暗く、しかも斜面になっているのか奥まで伺うことはできない。
とりあえずの安全確認のため小石をなげてみるとそれなりの距離から音が反響し、ソコソコの深さがあることがわかる。
さらにツルハシ形態の聖剣を持ち替えて、柄の部分を10フィート棒代わりにして落とし穴等罠がないかの確認してみるとトロンも気になるのか横合いからの覗き込んでくる。
「……隠し通路ってやつかな?暗くて奥まではよく見えないが」
「僕にも見せて」
トロンがなんの気無しに俺にもたれかかる。そしてマジックアーム状の先端、湾曲した鈎爪で眼鏡を押さえて目を凝らす。
「んん?……。ちょっと濡れて……あっ!」
足元が水滴で湿っていたことに気づいたトロンが屈んで地面を義手でなぞろうとしたとき、足を滑らせバランスを崩す。
「え?!っちょ?!?!」
さらにとっさにトロンが俺に捕まろうとして義手で変にガッチリとホールドしてしまい、足元が滑りやすいも災いし踏ん張りが利かず崩れ行く壁の向こう側に諸共倒れ込んでしまう。
壁の向こう側は角度の鋭い傾斜になっていて、しかも水滴で濡れているうえに先が見えないという暗闇の中をトロンと一緒になって滑り落ちていくのだった。
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