トロン'Sフィフティ
「う……ん」
ここは?
風呂か?
いやそれにしては冷たい……。
ぼやけた浮遊感に目を覚ますと、どうやら水に浮かんでいるようだった。
なんとか立ち上がると足首ほどの浅瀬に柔らかい砂の地底湖らしき場所だった。
滑り落ちてきたものの水と湖底の澱がクッションとなって幸運なことに大きな怪我はないようだ。
「っ!そうだトロンは……」
回らない頭でそこまで考えた時、不意に最悪の事態が頭を過ぎってトロンを探すと幸い岸に流れついたのか半分水に浸かるくらいで仰向けに倒れていた。
「おい!大丈夫かっ!」
急いで水から引き上げ、辺りを警戒しながら洞窟内の地面に寝かせて脈をとる。
「良かった……。息はしてるし、とりあえず大きな怪我も無さそうだ」
トロンの両腕は義手のため首筋で測ったが気を失っているだけで
(どこまでが生身の腕かはわからないけど、流石に濡れたままなのはまずいか)
外傷はなくてもどれくらいの時間水浸かっているのかは解らず低体温症になるのを避けるためトロンの白衣を剥ぎ取る。
「お、中に結構色々仕込んであるんだな」
どうやって仕込んでいたのか多数の薬品が入っていると思われる白衣は予想以上にずっしりとその重量を伝え、衣擦れの度にガチャガチャと音をさせる。
「一応、シャツも脱がすか……って、んん?」
上に着ていたものを脱がしてしまうと水を吸ってズッシリと重い服を絞り、広げて乾かして中に着ていたインナーも脱がせようと胸元に手をやった途端、不意に柔らかい感触が手のひらに伝わってくる。
「え?…………!?!?!?!う、ウソだろ!?」
ソレはトロンの胸元の感触だった!!
驚きの叫びが出てしまうと地底湖中に反響し、水面まで波紋が広がり苦しいそうにトロンが呻く。
「う……ん?アレ、僕は……、どうな……?」
トロンが目を覚ますと虚ろな表情でこちらを見つめ、やがて服を引っ張られているということに気づき視線を自らの胸元へと下げる。
「?……え、?!…………!!!!」
どういう状況だったのか少しづつ理解してきたのか徐々に顔が紅くなり、体を大きく振り回して俺を跳ね除けると金属の両腕で胸を隠す。
「あ……。いや、その……違うから!」
「………………」
髪から水滴を垂らしながら目を赤くして湖で濡れたものとは別の液体を目尻にためつつ、無言で義手の湾曲した爪をゆっくりと開閉させる。
「待て、待ってくれ。意図したんじゃなく……」
「い、い、い、いやああああァァァァァァァァァ!!!!!」
悲鳴をあげながら鋼鉄の義手で顔面を引っ叩かれる。
流石に命に関わると本能的な危険感じかろうじて聖剣でガードするがいつぞやに食らったのとは比べ物にならない衝撃で腕が痺れる。
「お、落ち着いてって!ここまだダンジョン
内だから!ちょっ?!危ないって!!」
「うるさい!」
こうして暫くのあいだ浮気のバレた街の狩人やインベーダーの婚約者の如く金属武器を持った相手との
追いかけっこが続く……。
「ゼィ、ハァ……。ち、ちょっとは落ち着いてくれた?」
「ハァ、フゥ。少し……は……」
ひとしきり追い回されたあと、スタミナが切れて
トロンはどうにか落ち着きを取り戻してくれた。
素人特有の、もっというと子供の喧嘩のような適当に腕を振り回すだけのものだったが質量のある金属塊の義手を振るわれると読みにくさも相まって 時たま避けそこねてシュッという音とともに体を擦って、摩擦で皮膚を焼く。
「しかし……、ゼイッ……。なんで……男装なんて?」
「ハァハァ……。元々、ゴホッ……。ラボでもこの格好だったし……。オエッ!……腕を喪ってからは一人称も変えていたから……」
半ば演技ではあったものの自分の中でもシックリきていたらしく、体型のわかりにくいダボダボ白衣も相まって完全に男だと思いこんでいた。
しかし、白衣の中の肢体は身長こそあまりないものの出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる上に一番女性的な部分はとても豊満であった。
どうやって非武装パートナーロボットの即席兵装並の物を押し込んで目立たなくしていたのか、着痩せするにしても程があるそれを弾ませて追いかけてくる様は正直目の毒で仕方がなかった。
胸元の飛び道具を上下させ、両腕の義手の爪を開閉させながら息を切らすトロンだったが不意に何かに気づいたのか地底湖の一角を指す。
「ん?……ねぇ、ちょっとアレ見て!」
「あれ?」
トロンが義手で指す方を見て見ると湖の中央、少し盛り上がった小島の部分。
そこに台座に刺さった剣を発見するのだった。
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