冒険者学校の魔剣採掘者 

「おかえり」


部屋にもどると相変わらず別の世界を見つめながらではあるもののトロンが迎え入れてくれた。


前世では終ぞ味わうことが出来なかったが、小柄なトロンにこうして迎えられると仕事終わりに家族に労られるのはこういう感じなのかもしれない。


「で、なんだったの?」


そんなノスタルジックな感傷に浸りながら腰掛けるとトロンがそんな質問を投げかけてくる。


「あぁ、学長が母の知り合いだったらしくてね。それで少し頼まれ事をされたんだよ」


「そう……」


自分で聞いておきながら興味無さそうに袖口で頭を掻くとヒョイッと腰掛けていたベッドから降りる。


「それじゃ僕は食事行ってくるから」


そう言ってそそくさと開けっ放しのドアから小走りに出ていく。



「……俺もメシいくか」


一人残された部屋で思わず呟き、戸締まりをして夕食に向かう。



__________________



次の日、学長先生に聞いていた通りオリエンテーションが行われることになった。


基本的な所は前世の大学等と同じである程度の必修カリキュラムの他は自己責任でのスケジュールを組む。

基本的には午前中、遅くても昼過ぎまでは座学や訓練を組み午後からはバイトを兼ねて学園が実地授業の名目で用意した依頼を熟すというのが大半らしい。


そして説明を聞きながらクラスで施設を巡り、グルリと学園内を廻ると最後に校内の隅に集められる。


「では、オリエンテーションの最後に一つ余興を行おうと思う」


人気のない薄暗い林の中、


ぽつんと台座に刺さった長剣がある。



「これがこの学園に伝わる魔剣『ウェクスガリパー』だ」


ラギア先生がそう紹介するとその場にいたほとんどが目の色を変える。




一部の怪訝そうな顔をした数人や興味なさげにしているトロンを除き全員がギラギラと目を輝かせ台座に群がろうとする。


確率は低いとはいえ引き抜くことができたなら名誉とある程度の栄達、魔剣持ちという肩書での箔が付くため殆ど全員目の色が変わっている。



「こらこら、順番だ順番!」


そう言って生徒たちを整列させ一人ずつ挑戦させていく。


(これだと強制全員参加だな。ま、俺は気楽なものだけど)


自前の聖剣があるうえ、学長からの依頼がある俺はどこか気楽に最後尾に並ぶ。



「よし、先ずは俺からだな」


血気に溢れる先頭の一人が台座に向かい、柄に手をかけて引き抜こうと力を込めるが当然の如くびくともしない。


顔を紅潮させながら歯を軋ませ、全身でしがみつくようにして踏ん張るも台座に突き刺さった聖剣は小動ぎもせずただただ時間だけが過ぎていく。


「っぐ?!っふん!!!……駄目か…」


「残念ながら適合しなかったようだな。次!」


数十秒程粘ったが微動だにしない聖剣にラギア先生が不適合を告げ次の生徒を前に出す。


先陣を切って挑戦したものも悔しそうに天を見上げるが、元々の可能性の低さから仕方ないかと諦めの表情をしながらトボトボと端に寄っていく。




次々と挑戦しては力一杯しがみつき、力尽きては端に寄っていく。

その繰り返しに並んばされた長蛇の列はだんだんと短くなり、それに比例して失敗者の群れと化したギャラリーが増え続ける。



そうして時間は過ぎていき、最後から三番目の生徒がチャレンジに失敗する。


「クソっ!駄目か」


悪態をつきながら台座を後にすると残りの人数をチラリと見た一人がチッと舌打ちを鳴らす。


「もう行こうぜ!アレに巻き込まれるのは御免だ」


そう吐き捨てると周りに残ってていたギャラリーも釣られるようにざわめき出す。


「それもそうだな」


「最後のアイツには悪いが巻き添いを喰いたくはないし、ココは一つ運が無かったと思って……」


「そうだそうだ……」


そんな言葉がヒソヒソと紡がれるとラギア先生が見かねたように宣言する。


「……。言い忘れていたがオリエンテーション自体は終了でコレはあくまでも余興、帰りたい奴は帰っていいぞ!!」


その言葉を聞くとギャラリーはしばらく口々に騒ぎながら初めに舌打ちした生徒を皮切りに一人、また一人と校舎へと退散していく。


残るは自分を除けばトロン一人となるが、当人は気だるげながらも何処か焦燥感のような物を漂わせながらラギア先生の方へ無言の視線を送る。



「あー、……。事情があるのは解っているが一応、万が一という事もあるからな。うん、スマンがお前もやってくれ」


「……。わかり、ました」


ラギア先生に促されたトロンはしぶしぶ、といった感じでは地に埋まった聖剣に近づく。


そして、柄に手を掛けようと腕を伸ばした瞬間に萌え袖にしていた皺部分が伸ばされ隠されていた腕が顕になる。


袖口から現れるのは見た目相応の華奢な指……ではなく、働く人間特有の使い続けて筋張り固くなった小さな傷まみれの手でもない。


それどころか五指の揃ったものでもない鈍色に光るクレーンゲームのアーム、もっと言えば前世の子供が描いたロボットのイラストような太い鉤爪の義手が姿を現したのだ。



「……………。っふん!っっん!ッッッうーっん!!」


こちらを見ないように、意識すらしないように心がけているのか若干不自然な動きでガチャリと柄をホールドすると掌の中心に当たる鉤爪の結合部分を押し付け全身を使って引き抜こうとする。



しかし、顔を真っ赤にしながら精一杯揺らしにかかってもビクともせずそれまでの幾多の生徒たちと同じ轍を踏むことになってしまい、やがて力尽きてその場にへたり込む。




「はぁ……ハァ…………。なに?」


「あ、イヤ……ゴメン」



流石に不躾だったのか不満気な表情で非難の視線を送ってくるトロンに謝罪する。


「じゃあ、俺が最後だけど……こっちも隠し玉をみせるよ」


お詫びと言うにはアレであるがトロンの目の前で普通とは色々な意味で一味違う聖剣を出して見せる。


「始めるとしますかね」


一応、辺りを見回してトロンとラギア先生以外の人間がいないか確かめて俺は魔剣の台座目掛けて聖剣ツルハシを振りかざすのだった。

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